公開日:2024年2月6日

麻布台ヒルズ・チームラボボーダレスの全貌。「境界なく連続する1つの世界」をテーマに70点以上の作品が集結

お台場から麻布台ヒルズへお引越し。施設面積約7000平米におよぶ空間に50点以上の作品が集結する新・チームラボボーダレスで、鑑賞者と作品、作品同士の境界がなくなっていくような体験を。

会場風景より、チームラボ《Infinite Crystal World》 © チームラボ

7000平米におよぶ空間に50点以上の作品が集結

2月9日、麻布台ヒルズに森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)がグランドオープンする。東京・お台場から移転し、 施設面積約7000平米におよぶ空間では、50点以上の作品が集結。新作も多数あるため、最新のテクノロジーを活用したシステムやデジタルコンテンツの開発を行うチームラボの現在形を知ることができるホットスポットだ。作品は今後も随時追加されていく、変化し続けるミュージアムの全貌を紹介しよう。

会場風景より、チームラボ《人々のための岩に憑依する滝 》 © チームラボ
会場風景より、チームラボ《追われるカラス、追うカラスも追われるカラス:境界を越えて飛ぶ》 © チームラボ
会場風景より、チームラボ《クリスタルワールドに舞い込んだ境界のない群蝶 》 © チームラボ

「ボーダレス」をキーワードに、空間を移動していく作品たち

チームラボボーダレスのもっともユニークなポイントを挙げるなら、多くの作品が回遊魚のように会場をゆらゆらと移動し、決まった場所に展示されていないことだろう。実際、2月5日に行われた内覧会では何も展示されていない部屋が出現し、少しのあいだ“作品の来場を待つ”という珍しい状況が発生した。ふと足元に目を落とすと、さきほど別室で見ていた作品が足元にうごめいている、あるいはまるで迷子のようにそこに佇んでいるなど、まさに「ボーダレス」なカオス状態が作り出されている。

会場風景より、チームラボ《反転無分別:虚空の黒》 © チームラボ
会場風景より、チームラボ《中心も境界もない存在》 © チームラボ

また会場にはキャプションや地図がなく、来場者は感覚を頼りに空間内を歩き回る。空間ごとに漂ってくる香りも異なり、隠し部屋と言えるような展示室もあり、感覚を総動員して展覧会を見終わったあとには一仕事終えた後のような適度な疲労感があるはずだ。これは、今回の展示における醍醐味のひとつでもある。

会場風景より、チームラボ《Walk, Walk, Walk: 探し、遠ざかり、また 出会う》 © チームラボ

森を彷徨うように会場を歩く

チームラボのコミュニケーション・ディレクター工藤岳は、チームラボボーダレスのキーワードのひとつに「身体」を挙げる。子供が身体を使って初めてだらけの世界を認識するように、あるいは人々が森の中を歩き回り、土の匂い、風の音、揺れる木々などを身体全体で感じるように作品を認識してほしいと言う。

「たとえば地球の自転を発見したときのように、歴史上、人間は何度も認識を拡大させながらここまできた。チームラボボーダレスも“Cognitive World(認知世界)”と言えるような世界観を通して、人々の認識を広げ渦を起こし、より良い未来に導きたいと思っているんです」(工藤)

チームラボのコミュニケーション・ディレクターの工藤岳。チームラボの作品《Untitled》の中で 撮影:編集部

認識に働きかける作品群

新作の中から「認識」のキーワードをもとにいくつか作品を紹介しよう。

会場風景より、チームラボ《マイクロコスモス - ぷるんぷるんの光》 © チームラボ

《マイクロコスモス - ぷるんぷるんの光》は、無限と見紛う空間のなか、鑑賞者の周りを無数の「ぷるんぷるんの光」が走り続ける作品。実験過程でたまたま誕生した、まるで質量を伴うかのような光=ぷるんぷるんの光が入った球体は、付かず離れず空間を周遊し、ときに休憩したり、ときに異なる空間に移動したりする。このぷるんぷるんの光は、チームラボの新たなアートプロジェクト「認識上の彫刻」の一環となる作品でもある。

《マイクロコスモス - ぷるんぷるんの光》の球体が別の空間にもやってきた 撮影:編集部
会場風景より、チームラボ《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》 © チームラボ

同じく「認識上の彫刻」をテーマとした《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境によって生み出される光 》は、4種類の光が収められた無数の球体群によって空間が埋め尽くされる作品。球体は人々の動きを感知し、そこから光が発生し、一筆書きのようにワンストロークで球体から球体へと移動したあとまた同じ球体へと戻っていく。じつはこの空間は、マジックミラー越しに外からも眺めることができるのだが、外から眺めるのと中で体験するのとではまったく得る感覚が異なる。「没入こそすべて」と言わんばかりの仕掛けだ。

会場風景より、チームラボ《Bubble Universe: 実体光、光のシャボン玉、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》 © チームラボ 撮影:編集部
会場風景より、チームラボ《Light Vortex》 © チームラボ

「ライトスカルプチャー - Flow 」シリーズは、現実空間とミラーのはざまで光による巨大な彫刻が生まれ、押し寄せ、広がり、人々を飲みこんでいくような作品。「なぜ、海の渦に存在を感じるのか? そして、それを生命にすら感じるのか?構成要素が空間的時間的に離れていたとしても、部分に秩序が形成されたとき、部分はひとつの存在として認識され、ときには生命のようにすら感じる」というような考えのもとで作品が構成されている。

会場風景より、チームラボ《彩色球体》 © チームラボ
会場風景より、チームラボ《Birth》 © チームラボ

どのように言葉で説明しても、どうしてもこぼれてしまう要素があるのがチームラボの作品。今回の全体テーマに通底する「認識」やそれに伴う没入感は動画や画像ではなかなか伝わりづらいため、先入観を取り払い全感覚を使って確認してみてはどうだろうか。

野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。