落合陽一 テーマ事業プロデューサーが手がけるシグネチャーパビリオン「null²」(ヌルヌル)
新しい技術や国・文化の交流を促進し、世界共通の課題に取り組む国際的なイベント「国際万国博覧会(万博)」。約5年に一度のペースで、世界各地で開催される。
「2025年日本国際博覧会(通称:大阪・関西万博)」のテーマは、”いのち輝く未来社会のデザイン”。大阪の夢洲(ゆめしま)を舞台に、4月13日~10月13日、184日間開催される。
会場全体の広さは約155ha(東京ドーム約33個分)、パビリオン数は180以上にのぼる本万博のなかから、本記事ではアートファンや建築好き要注目のスポットを紹介する。
Expo 2025 公式マップは公式サイトで確認・ダウンロードできる。今回は参考までに、本記事で紹介するパビリオンやスポットのメモを書き込んだマップを上記に掲載。距離感や回る順番の参考にしてほしい。
来場者はマップ右上の「東ゲート」より入場。まずは「大屋根リング」を通り、中央に固まっているシグネチャーパビリオンを目指そう。シグネチャーパビリオンである「null2」(落合陽一)の隣にはチェコパビリオンがあるので、合わせて回りたい。
あくまでも目安だが、東ゲートから大屋根リングのいちばん近い場所(ウーマンズ パビリオン付近)まで徒歩5分ほど、リング内東側のフランスパビリオンから西側のバチカン(イタリア)パビリオンは徒歩15分ほど。
なお、パビリオンの多くは事前予約制。公式サイトを確認し、事前に回るところをチェックしておこう。
会場中心をぐるりと取り囲む、大阪・関西万博会場のシンボルとなる建築物が「大屋根リング」だ。基本設計・実施設計・工事監理を担うのは、世界的な建築家であり、2025年日本国際博覧会 会場デザインプロデューサーを務める藤本壮介。「多様でありながら、ひとつ」という会場デザインの理念を表すシンボルであり、「最大の木造建築物」として、今年3月にギネス世界記録に認定された。
日本の神社仏閣などの建築に使用されてきた伝統的な貫(ぬき)接合に、現代の工法を加えて建築された。
万博会場に足を踏み入れると眼前に広がるこの大屋根リングは、雨風、日差し等を遮る役目を果たす。会場の主導線であり、各所に設置された階段やエスカレーター、エレベーター等を使って、上部にのぼることができる。巨大な円環の上からは、万博の会場や頭上に広がる大空、海が一望できる。「この空には敵わない。みんなでこの空を体感したいと思った」と藤本プロデューサー談。
会場内の「休憩所」「ギャラリー」「展示施設」「ポップアップステージ」「サテライトスタジオ」「トイレ」計20ヶ所を、公募で選ばれた若手建築家が担当した。会場各地にある個性的な建築を楽しみたい。
会場の中央にある「静けさの森」は、約1,500本の樹木が生い茂る静寂の空間。ここではトマス・サラセーノ、レアンドロ・エルリッヒ、ピエール・ユイグ、オノ・ヨーコ、ステファノ・マンクーゾ with PNATという国際的に活躍するアーティスト5名によるアート作品が点在している。
企画・監修は、万博のテーマ事業プロデューサーでデータサイエンティストの宮田裕章と、藤本壮介。デザインは藤本とランドスケープデザインディレクターの忽那裕樹、共同キュレーションは長谷川祐子が担当する。
「シグネチャーパビリオン」は大阪・関西万博会場の真ん中に位置する8人のプロデューサー(宮田裕章、石黒浩、中島さち子、落合陽一、福岡伸一、河森正治、小山薫堂、河瀨直美)が主導するパビリオン。全体で「いのちの輝きプロジェクト」と呼ばれる。
「静けさの森」と一体となって佇むパビリオン「Better Co-Being」は、「いのちを響き合わせる」をテーマに、宮田裕章がプロデュースを担当。屋根も壁もない高さ11mの開放的な建築はSANAAが手がけた。
来場者はインタラクティブな石ころ「echorb」を手に、作品やほかの来場者と共鳴しながら塩田千春、宮島達男、宮田裕章 with EiMの作品をめぐる。
四層からなるシルバーのグリッド状のキャノピーが敷地を覆い、地上部にはそれを支える細い柱のみを配置。キャノピーからは人工の雨が降り注ぎ、そこには虹が現れることも。
落合陽一がプロデュースを手がけたパビリオン「null²」は、「いのちを磨く」がテーマ。建物自体が伸縮を繰り返す独特な建築はNOIZが設計を担当し、素材から開発した。
内部には茶室をモチーフにしたミラールームが広がり、特注のLEDに映る映像と鏡の反射、蠢くロボットアームが作り出す没入型の空間のなかで、観客をデジタルヒューマンとの対話に誘う。プログラムは物語性のある「言語的展開」と、インスタレーションモードの「非言語的展開」の2形式で展開される。
ロボット工学の第一人者・石黒浩がプロデュースするパビリオン「いのちの未来」は、「いのちの歩み」「50年後の未来」「1000年後のいのち"まほろば"」の3つのゾーンで構成。
人間がアンドロイドと共存する50年後の未来や、身体の制約から解き放たれた1000年後の人間の姿など、「いのち」の新たなあり方を提示する。展示空間には約30体のアンドロイドが集結し、マツコ・デラックスのアンドロイド「マツコロイド」も登場。
158か国・地域が参加を予定している「海外パビリオン」。自国の自然環境や文化的取り組みなどについて紹介するものが多いなかで、とくにアートと関わりの深いものをピックアップする。
「愛の讃歌」をテーマにしたフランスパビリオンは、LVMHがメインパートナーとして協賛。海外パビリオンのなかでも一際大規模な建築を誇る。館内にはルイ・ヴィトン、ディオール、モエ・ヘネシーの常設展示、セリーヌ(4月13日~5月12日)、ショーメ(9月1日~10月13日)の特別展示を展開。各メゾンの卓越した職人技と美意識を堪能できる。
ルイ・ヴィトンの展示には真鍋大度が手掛けるビデオインスタレーションがあるほか、スタジオジブリ『もののけ姫』をモチーフにした巨大タペストリーとノートルダム大聖堂のキマイラ像を組み合わせた展示、ロダンの彫刻なども配置されている。
イタリアパビリオン内に位置するバチカンパビリオンの目玉は、なんと言ってもカラヴァッジョの名作《キリストの埋葬》の展示だ。2021年、国立新美術館「カラヴァッジョ《キリストの埋葬》展」が開催予定だったものの、コロナ禍の影響でバチカンからの作品輸送が困難となり、展覧会が開催中止となっていた。今回は、そんなバチカンの至宝というべき作品の念願の来日となる。
チェコの伝統産業のガラスをふんだんに使ったパビリオンは螺旋構造で、内部には1970年の大阪万博で出展したガラス芸術作家・レネーの弟子によるボヘミアンガラスの作品などが展示される。また同国出身の画家アルフォンス・ミュシャの未完の三連作「三つの時代」に着想を得ており、本作を現代作家が再解釈した作品も設置予定。
開催国である日本、開催地である大阪・関西が 繰り出す「国内パビリオン」は東ゲートゾーンに位置する。日本館、大阪ヘルスケアパビリオン、関西パビリオン、ウーマンズ パビリオンが該当する。
内閣府、経済産業省、カルティエ、2025年日本国際博覧会協会が共同で手がけるウーマンズ パビリオン。設計は建築家の永山祐子が手がける。内部はエズ・デヴリンがキュレーションし、イマーシブオーディオを通じて体験する没入型の展示空間が生み出される。吉本ばななを含む3人の主人公が紹介されたのち、ストーリーが進むなかで、来場者たちの提供した名前がそのなかに組み込まれる仕組みもある。2階には森万里子が「ともに」、「人間性の共有」をテーマに制作した作品を設置。
また会場には、パブリックアートや屋外彫刻なども設置されている。関西万博パブリックアートプロジェクトの一環として東ゲート広場 インフォメーションセンター前には名和晃平《Snow-Deer》が、大阪ヘルスケアパビリオンには鴻池朋子による《狼ベンチ》が設置されている。
また大阪各所を舞台に開催される芸術祭「Study : 大阪関西国際芸術祭」(4月11日〜10月13日)が、万博会場内各所に野外彫刻や壁画などを展示する「Study:大阪関西国際芸術祭 / EXPO PUBLIC ART」を実施。奥中章人、金氏徹平、ミヤケマイ、森万里子、檜皮一彦らによる作品が展示されているので、こちらも合わせてチェックしたい。