「ART OnO 2025」会場風景
近年、アジアの現代アートシーンを語るうえで欠かせない存在となった都市、韓国・ソウル。アートコレクターで起業家のノ・ジェミョン(Noh JaeMyung、以下ジェミョン)がファウンダーとなり立ち上げた次世代型アートフェア「ART OnO」。今年2回目となる「ART OnO 2025」が、ソウルのSETECで4月11日から13日にかけて開催された(VIPプレビューは4月10日)。
初回である昨年度、ジェミョンへのインタビューでフェアの目指す姿や日本のアートシーンについての考えを聞いたが、今年も変わらぬ姿勢が随所に見て取れるフェアとなった。今年はスペシャルイベントのためにフェア会場の中央に巨大なテーブルセットが設けられて、フレンドリーでリラックスした雰囲気に包まれていた。
マルチジャンルアーティストチーム「SUPERMADE」とタイ人のアーティスト、サリーナ・サッタポン(Sareena Sattapon)がこのテーブルセットを使ってコラボレーションし、体験型作品「Bai Sri: Whispering to the Soul」を参加者に披露した。サッタポンは、タイとラオスの地域文化に根ざした伝統的な儀式「バイシー・スークワン(Bai Sri Su Kwan)」を再解釈してこの作品を作ったという。参加者は儀式と食べ物や飲み物を通して、お互いのつながりを再認識し、自身の生命力について考える機会を得た(下記リールにダイジェストをまとめた)。
世界的な不況の影響で、アート市場の落ち込みが懸念される韓国。アート・バーゼルとUBSが出したアートマーケットの動向に関する最新の報告をよると、前年比15%減の落ち込みがあるという。それに対してジェミョンは意外にも落ち着いた様子で、購買の調子は確かにゆっくりだが人々は買い続けていると言う。韓国の現代アートの歴史は浅く、韓国のコレクター教育はまだまだ発展途上の段階との認識を示していた。
今回、日本から7つのギャラリーが参加していたが、彼らは韓国のアート市場とシーンに何を期待しているのだろうか。参加するうえで工夫したこと、所感や売り上げについて詳しく聞いてみた。
今年ART OnOに初参加となる小山登美夫ギャラリーは、70〜80年代の韓国の家具を什器に用いた親しみやすい雰囲気のブースを構え、アートフェアといえばハイソサイエティのためのものという固定概念をいい意味で壊すチャレンジングな姿勢を見せていた。
小山登美夫ギャラリーディレクターの長瀬夕子によると、ギャラリーの韓国人スタッフと協働してブースを作り上げたそうだ。フェアの来場者(年齢層は20〜30代)が、「この家具おばあちゃん家にあった!」とどこかなつかしく思う雰囲気を作りたかったとのことだった。作品の価格帯は「アートフェア東京」を参考にしており、比較的購入を検討しやすい価格に設定した。
今回出展を決めた理由としては、昨年の来場者からの良いフィードバックを聞いたことや、ジェミョンの努力によって出展料が低く抑えられ、フリーズのようなメガフェアではできないプレゼンテーションが可能なことをあげた。またソウルの東大門デザインプラザ(DDP)で4月25日から所属作家のトム・サックスの個展が開催されるので、その前に韓国で同作家の作品をお披露目したいという意図もあったという。
韓国のアートフェア初出展となるKaikai Kiki Gallery。Mr.、大谷工作室、タカノ綾らギャラリー所属の作家に加え、韓国の若手アーティストの作家たち(ZANGANO、ミンヒ・キム[Minhee Kim]、ハンナ・リー[Hanna Lee]、イェイェ[YeYe])も展示した。
ギャラリーのセールス・ディレクター金多喜に話を聞くと、ジェミョンとはコレクターとしてもともとつながりがあったという。出店にあたっては、まずは韓国市場を探りたい、Kaikai Kikiらしさを韓国の皆さんにリアルに見せたいとの考えを示した。これまで韓国のクライアントとはオンラインでやりとりをしていたので、対面でのコミュニケーションが楽しみだという。韓国のコレクター・ギャラリー双方にとって良いコミュニケーションが取れる予感を感じるとポジティブな様子だった。プレビュー開始直後から多くの作品が即座に購入されたというレポートも出た。
東京ベースのCON_とソウルベースのWWNNの共同ブースでは、山中雪乃、松浦美桜花、Zhao Rundong×Xu Jiaqi、パク・ジョンヒョン(Park Jonghyun)、ユン・ミリュ(Yoon Mi-ryu)、ジュン・ジュウォン(Jung Juwon)らの作品が展示された。
CON_ディレクターのHisatomo Katoは、ソウルを香港と並ぶアジアのアートシーンの重要な都市と位置付けており、それゆえに期待値が高いと言う。初日のVIPプレビューで韓国のコレクターに作品がいくつか売れたが、そのコレクターは日本人アーティストについて事前に知っており驚いたそうだ。
ARARIO Galleryでは韓国で大人気のノ・サンホ(Noh Sangho)の巨大な彫刻が目を引いた。韓国の若手作家をまとめて見ることができるのもART OnOの魅力だ。
ソウルにもブランチを持つエスター・シッパー(Esther Schipper)では、サイモン・フジワラの巨大な絵画がブース中央に据えられ、イヤリングを模した立体作品もあった。
ジェミョンは世界中を旅してギャラリーとコミュニケーションを取り、フェアの参加ギャラリーを決めている。当初意識はヨーロッパのギャラリーを向いていたが、自身がアジア出身ということもあり、出展ギャラリーの地域のバランスを取りたいと思っていると語っていた。
フェアの一角ではアートコレクターのエイミー・リー(Amy Lee)とエリック・ユン(Eric Yoon)のプライベートコレクション「私たちが作品と出会った瞬間(How We Met These Artworks)」を展示していた。展示概要が心に残るものだったので、抜粋して拙訳をここに記す。
世界には無数の作品が存在しますが、実際に私たちの人生の一部となるのはごくわずかです。収集という親密な行為を通じて選ばれたそれらの作品は、たんなる取得物ではなく、長く心に残る出会いなのです。
作品との出会いは、ギャラリーの静かな一角で偶然見つけたり、友人の勧めやアートフェアでのふとした瞬間に訪れたりします。どの作品にも、私たちの空間や人生を形作る物語があり、それは自分自身と向き合うことでもあります。
彼らにどのようにコレクションを形成しているか聞いてみると、まずはギャラリーとたくさん会話をして、リサーチを徹底的に行い、作品を購入するという流れを取るそうだ。韓国ではコレクター同士のつながりも深く、勉強会を開催したり、コレクター向けのレクチャーも多数存在する。韓国のコレクターは勉強熱心で、リサーチにかける情熱がある印象を受けた。日本のアーティストにも精通しており、欧米志向のコレクターが多いなか、アジアにも目を向けるリサーチ範囲の広さも感じた。
ギャラリーがビッグフェアではできないこと、来場者がビッグフェアでは体験できないことを提供するのがART OnO。
ジェミョンがフェアの運営スタッフによく伝えている言葉として、印象に残ったものがある。「我々はアート作品を売っているのではなく、アート体験を来場者に提供しているという姿勢を忘れないでほしい」というものだ。拝金主義だと言われがちなアートマーケットのプラットフォームで、本質的な価値を作ることは一筋縄ではいかない大変なことなのだ。
ART OnO 2025
会場:SETEC
住所:ソウル 江南区 ナムブスンワン路 3104
会期:2025年4月11日〜4月13日(4月10日はVIPとプレスのみ)
公式ウェブサイト:https://art-ono.com/