公開日:2025年3月11日

「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」ディーン・フジオカも登場した内覧会をレポート

国立西洋美術館にて3月11日〜6月8日開催。6月25日からは京都市京セラ美術館へ「どこ見る?どう見る?西洋絵画!ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 feat.国立西洋美術館」展として巡回 撮影:編集部(ハイスありな+福島夏子)

会場にて、音声ガイドナビゲーターを務めるディーン・フジオカ。背景はフランシスコ・デ・スルバランの作品

西洋美術を文脈とともに深掘り鑑賞!

東京・上野の国立西洋美術館にて、「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」展が3月11日に開幕する。会期は6月8日まで。

ルネサンス期から印象派までの作品88点が一堂に会する本展。企画としてのポイントは、アメリカのサンディエゴ美術館から初来日する49点と、国立西洋美術館のコレクション39点を対比させながら、西洋美術史をいつもとは違う切り口で紹介することだ。

会場風景より手前がピーテル・パウル・ルーベンスと工房《聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者ヨハネ》(1625頃、サンディエゴ美術館)

ジョットフラ・アンジェリコルーベンスドガといった巨匠の作品が並ぶほか、サンディエゴ美術館が収集の軸とするスペイン美術の名品も多数集まる。サンディエゴは元々スペインからの入植者たちによって開発されてきた都市であり、そうしたスペインとの深い文化的結びつきを背景に、サンディエゴ美術館はスペイン美術を収集のひとつの柱としている。

開催に先駆けた内覧会では、音声ガイドナビゲーターを務めるディーン・フジオカが登場し、本展の魅力を伝えた。

会場にて、ディーン・フジオカ

共同監修者が語るポイント

また本展を共同監修した国立西洋美術館主任研究員の川瀬佑介は、「サンディエゴまで(メジャーリーグで同地拠点のチーム)パドレスを見に行く人はいても、美術を見に行く人はいないかもしれないですが」と冗談めかしつつ、「サンンディエゴ美術館はじつは、アメリカ西海岸で西洋美術の収集を先導してきた」と紹介。

「(「⚪︎⚪︎美術館展」のような)ひとつの美術館からの借用作品のみで構成する美術展では、1点1点の名作を見ることはできるが、作品のあいだにあるコンテクスト(文脈)はなかなか理解しづらい。それは本館の常設展でも同じことが言える。今回はふたつの美術館の収蔵品をかけ合わせることで、作品をグループごとに並べ、深掘りする試み。西洋美術をどこから見るか、わかりやすくお伝えしようと考えた」(川瀬)

川瀬佑介(国立西洋美術館主任研究員)

実際に展示室では、絵画作品がペアや小グループごとに展示されている。同じ宗教画でも制作地や時代の違いによって表現がどのように変化したのか。同じ主題、もしくは同じ画家による2枚でもそれぞれにどのような違いがあるのか。そんな注目ポイントに、展示壁の解説文が鑑賞者を誘導する。

最初の展示室に入ると、ルネサンス美術の先駆者であるジョット《父なる神と天使》(サンディエゴ美術館)がお出迎え。日本での展示機会が少ない作家だけに、西洋美術ファンにとってはいきなり「ありがたい」導入だ。ここでは、これらの宗教画が描かれた背景をふまえ、なぜ四角形ではなく三角形や半円などのかたちで絵画が残っているのかが解説されている。

会場風景より、ジョット《父なる神と天使》(1328-35頃、サンディエゴ美術館)
会場風景

ジョルジョーネの「サンディエゴのモナリザ」とは

ヴェネツィアで絵を学んだカルロ・クリヴェッリの聖母子像、そしてヴェネツィアにおける盛期ルネサンス絵画の創始者とされるジョルジョーネの傑作《男性の肖像》の来日も貴重だ。《男性の肖像》は、同時代のほかの作品と比べると人物描写のリアリティが一目瞭然。髪の毛のふわふわした感覚まで伝わってくる正確なディテールの描写と柔らかな陰影表現が素晴らしい。本作はほぼ同時期に制作されたレオナルド・ダ・ヴィンチの《モナリザ》とも比較され、「サンディエゴのモナリザ」とも呼ばれる一作だ。

会場風景より左がアンドレア・デル・サルト、右がカルロ・クリヴェッリの作品
会場風景より、左がティントレット(ヤコポ・ロブスティ)、右がジョルジョーネの作品

《快楽の園》などで人気のヒエロニムス・ボス《キリストの捕縛》(サンディエゴ美術館)は、「この邪悪な表情、一度見たら忘れられない!」というコメントとともに展示。その左には国立西洋美術館のヨース・ファン・クレーフェ《三連祭壇画:キリスト磔刑》が並び、「ネーデルラント絵画における写実と幻想」というテーマで解説が行われている。

会場風景より、手前がヒエロニムス・ボス《キリストの捕縛》(1515、サンディエゴ美術館)

現存6点、知られざる重要作家の静物画

川瀬が本展最大の見どころとだと語ったのが、16〜17世紀のスペインの画家フアン・サンチェスコターンによる静物画《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》(サンディエゴ美術館)。

会場風景より、フアン・サンチェス・コターンによる静物画《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》(1602年頃、サンディエゴ美術館)

17世紀初頭、スペインでは「ボデゴン」と呼ばれる静物画のジャンルが花開いた。サンチェス・コターンはこの「ボデゴン」の始祖とされる画家だが、早くして僧籍に入ったため、静物画は6点しか現存しない。そのなかでも最良の作とされるのが、今回来日したこの作品なのだ。スペインの台所にあった典型的な素材を描いた作品だが、抑制の効いた構図や、右下のきゅうりの影は伸びているのに、吊り下げられたマルメロやキャベツの影が見当たらないといった画家の意図的な演出が本作を特別なものにしている。

会場風景より、フランシスコ・デ・スルバラン《神の仔羊》(1635-40年頃、サンディエゴ美術館)

またギリシア生まれ、スペインのトレドで活躍したエル・グレコ、柔和で甘美な宗教画が人気のフランシスコ・デ・スルバラン、内省的な人物描写が傑出しているジュゼぺ・デ・リベーラなど、スペインゆかりの巨匠の作品も見どころだ。

会場風景より、エル・グレコの作品
会場風景より、ジュゼぺ・デ・リベーラの作品

ロココから新古典主義へ、フランス画壇の女性画家

フランス画壇におけるロココから新古典主義への流行の変化が見て取れる2枚が、マリー=ガブリエル・カペ《自画像》とマリー=ギユミーヌ・ブノワ《婦人の肖像》の比較だ。18世紀末から19世紀初頭にかけて、フランスでは女性芸術家が活躍す流ようになり、このふたりはともに女性が初めて出品を認められた1791年の官展に出品している。

会場風景より、左がマリー=ガブリエル・カペ、右がマリー=ギユミーヌ・ブノワの作品

カペが自身の実力を示すように堂々と描かれた自画像ではロココ趣味のファッションが全面に目立つのに対し、ジャック=ルイダヴィッドに師事したブノワの女性像は、安定感のある構図で古代風な衣服をまとった姿で描かれており、新古典主義の美的理想に沿うものになっている。

構成としてやや気になったのが、「女性画家の存在感」を紹介する意図はわかるものの、このように女性画家だけをまとめて取り上げることで、大文字の「美術史」における周縁としての「女性枠」という構図を結果的に強調してしまっているのではないかということだ。女性の作家の台頭を紹介しながら、男性作家と並べても良かったのではないだろうか。また会場の解説ではカペについてに説明の冒頭が「本作は画家22歳の頃の自画像」と“若さ”が強調されており、見どころとして「勝負服」がプッシュされていることから、この画家を「描いた人」よりも「まなざされる対象」へと還元する印象が強まっていた。ここ数年の西洋美術の展覧会では、以前よりも「女性作家の活躍」に多少の幅が割かれる傾向にあるが、本展に限らず紹介の仕方にジェンダー的な非対称性がないかなど、より慎重な検討を加えてもいい頃ではないだろうか。

ただし、図録には小林亜起子「18世紀フランスの女性画家たちー旧体制から革命期へ、創造の歩み」という論考が収録され、この時代の女性画家たちについて丁寧に紹介されていたので、こちらも合わせてチェックしてほしい。

会場風景より、左がアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック、右がエドガー・ドガの作品

さて、展覧会後半にはほかに風景画や印象派なども登場。「誰もが知る人気作家のあの作品」というような華やかさよりも、西洋絵画を「どう見るか」という鑑賞方法や楽しみ方を伝授することで惹きつける本展。西洋美術ファンにも、そうではない人にも、新鮮に楽しめるポイントが多々あるのではないだろうか。

会場風景

また今回は、サンディエゴ美術館からさらに5点を借用し、常設展示室にも展示されている。「作品同士の対話を見ることができ、常設作品のまた違った魅力や側面が見て取れる」と川瀬。こちらもお見逃しなく。

常設展示室より、左がソフォニスバ・アングイッソラ《スペイン王子の肖像》(1573頃、サンディエゴ美術館)、右が国立西洋美術館の新収蔵品であるラヴィニア・フォンターナ《アントニエッタ・ゴンザレスの肖像》(1595)

京都への巡回&グッズ情報

本展はこの後、京都市京セラ美術館「どこ見る?どう見る?西洋絵画!ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 feat.国立西洋美術館」展として巡回する予定(会期:6月25日〜10月13日)。美術の見方に新しい発見を付け加えてくれる貴重な機会を、ぜひ体験してほしい。

*本展のオリジナルグッズを紹介する記事も公開中。スルバラン《神の仔羊》ぬいぐるみなど本展ならではのグッズにも注目だ。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。
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