『ファブリックの女王』(2015) © Bufo Ltd 2015
名だたるアーティストの知られざる人生を知る入口は、展覧会や本だけではなく映画にも。今回は、オンラインで楽しめる9本のアートムービーをピックアップ。映画を通じてアーティストが過ごした日々を追体験してみよう。
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生前は評価されることのなかった不遇の画家としても知られる、フィンセント・ファン・ゴッホ。彼は晩年、世界をどのように見ていたのか。『永遠の門 ゴッホの見た未来』(2019)は映画『潜水服は蝶の夢を見る』(2007)を監督し、自身も新表現主義の画家であるジュリアン・シュナーベルが手がけた、ゴッホが見つめた世界の美しさに迫る映画だ。アルルの田園風景をはじめとする映像美はもちろん、ときに役者がカメラを持って撮影するなど、一般的な伝記映画とは異なる本作ならではの「ゴッホのまなざし」に注目したい。
監督: ジュリアン・シュナーベル
時間:1時間51分
配信:Amazon Prime、Netflix、U-NEXT、Hulu、Apple TV、Youtube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)
ゴッホとも親交を持ったポール・ゴーギャンの生誕170年を記念する『ゴーギャン タヒチ、楽園への旅』(2017)は、ゴーギャンが滞在したタヒチでの生活を描き出す作品。妻と子を残し単身渡ったタヒチで、ゴーギャンはテフラという娘と出会い、モデルとする。傲慢で自己本位でありながらも精神的な脆さが伺える面や病に苦しむ姿から、プリミティヴィスムの作家として著名なゴーギャンがいかに作風を獲得したのかを垣間見ることができるはずだ。
監督:エドゥアルド・デルック
時間:1時間40分
配信:Amazon Prime、U-NEXT、Apple TV、Youtube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)
『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』(2016)は、コルビュジエがその才能に嫉妬したと言われるアイリーン・グレイが南仏コート・ダ・ジュールに設計した「E-1027」をめぐる物語。「E-1027」とは、もともとは家具デザイナーであったグレイが恋人でありコルビュジエの友人でもあった建築評論家のジャン・バドウィッチと過ごすために建てた別荘のこと。コルビュジエの「近代建築の五原則」に従いながらも、住みやすさを重視した建築となっている。「E-1027」に魅了され入り浸り、彼女の許可なく壁面に抽象画を描くなど、「巨匠」コルビュジエの衝動的で人間らしい面を見ることができる。
コルビュジエの絵画作品は現在、国立西洋美術館で開催中の「調和にむかって:ル・コルビュジエ芸術の第二次マシン・エイジ ― 大成建設コレクションより」(〜9月19日)で鑑賞可能。本作と合わせてぜひ押さえておきたい展覧会だ。
監督:メアリー・マクガキアン
時間:1時間48分
配信:Amazon Prime、Youtube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)
北欧テキスタイルの代表格、マリメッコ。その創設者であるアルミ・ラティアは男性に独占されていたビジネス界と徹底的に戦い、その破天荒なキャラクターや天才的なプロデュース能力で知られる。フィンランドで唯一のオスカー受賞者であり、初期マリメッコの役員でもあったヨールン・ドンネル監督のもと、『ファブリックの女王』(2015)はラティアの波乱の半生を描き出すことを試みた映画だ。
映画の幕開けはラティアを演じるミナ・ハップキュラ自身がラティアを語ることから始まり、以降もラティアを演じることの難しさを語る場面が描かれる。演者が葛藤しながらラティアの実像に迫る姿にも注目したい。
監督:ヨールン・ドンネル
時間:1時間24分
配信:Amazon Prime、U-Next、Apple TV、Youtube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)
『ジャコメッティ 最後の肖像』(2017)は、「見えるものを見えるままに」作品として実現することを目指した芸術家ジャコメッティと、デッサンのモデルとなった若き批評家ジェームズ・ロードが描かれた作品。1964年頃のパリが舞台の映画だ。
到達することの不可能な現実を目指し絶望する制作途中の様子や、女性たちとの微妙な関係、画商とのやりとりなど、史実に基づいたジャコメッティの姿をとらえながらも、監督が『プラダを着た悪魔』(2006)への出演などで知られるスタンリー・トゥッチということもあり、ユーモラスでポップに仕上がっている。
監督:スタンリー・トゥッチ
時間:1時間30分
配信:Amazon Prime、Hulu、Apple TV、Youtube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)
ニューヨークのストリートから現れたジャン=ミッシェル・バスキアは1980年代、一躍人気のアーティストになる。『バスキア』は公園で寝泊まりしていた頃から、恋人との出会い、美術批評家ルネ・リチャードによるフックアップやアンディ・ウォホールとの親交など、ティーンエイジャーのバスキアが27歳で没するまでを描いた作品。
監督を務めたのは、冒頭で紹介した『永遠の門 ゴッホの見た未来』も手がけたジュリアン・シュナーベル。バスキアを演じたジェフリー・ライトやウォホール役のデヴィッド・ボウイ、 ゲイリー・オールドマンなど豪華な役者陣にも注目の映画だ。
当時のバスキアを知る関係者のインタビューによるドキュメンタリーとしてはサラ・ドライバー監督の『バスキア、10代最後のとき』(2018)も合わせて見ておきたい。
監督:ジュリアン・シュナーベル
時間:1時間48分
配信:Amazon Prime、U-NEXT
匿名でありながら、日本でも知名度の高いバンクシー。『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』は、「Better Out Than In」というプロジェクトとして1ヶ月に及んで街中に描きつけられたバンクシー作品と、それを追いかける人々を記録した映画だ。作品を見つけた人の行動は、記念撮影をしたり、消されたり、盗まれたり様々。事態は警察が出てくるほどまで発展していく。
「都市や屋外、公共の場所こそアートが存在すべき場所」「アートは市民とともにあるべき」という持論を展開するバンクシーのスタイルや人々の熱狂を知ることができる作品となっている。
監督:クリス・モーカーベル
時間:1時間19分
配信:Amazon Prime、U-NEXT、Apple TV、Youtube(レンタル・購入)、Google Play(レンタル・購入)
中国でもっとも影響力のある現代美術家のひとりであり、権力に徹底して対抗する作風で知られるアイ・ウェイウェイ(艾未未)。2010年彼は北京で逮捕され、軟禁状態に。しかしアイは国外へ移動できない状況を逆手に取り、ロサンゼルスにあるかつて脱獄不可能の刑務所だったアルカトラズ島にて「@Large(アットラージ)」を展開。ネルソンマンデラやマーティン・ルーサー・キング・ジュニア、エドワード・スノーデンなど、投獄や亡命を経験した活動家の発言や肖像画を用いた作品を廃墟に配したアートプロジェクトを、現地に訪れることなしに企画した。当時の一連の様子を収めたドキュメンタリーが『アイ・ウェイウェイ:ユア・トゥルーリー』だ。
監督:シェリル・ヘインズ
時間:1時間17分
配信:Amazon Prime、Apple TV
ハンク・ヴァルゴナという画家を知っているだろうか。『何も変わらない:ハンクとして芸術家の魂』は世界的には無名なこの芸術家の仕事を、ヴァルゴナ自身や近隣のアーティスト、ジャーナリストなどへのインタビューをもとに明らかにしたドキュメンタリーだ。
世間で広く知られたり、美術史のなかで評価されるアーティストは一握り。他者の評価ではなく、自身が描きたいものを描き続けるという営為の記録である本作を通じて、等身大のアーティストの生き方を見ることができるだろう。
監督:マシュー・カプロヴィッツ
時間:1時間14分
配信:Amazon Prime