公開日:2023年3月2日

【女性映画】の傑作10本。「国際女性デー」に見たい、時代と表現を更新するおすすめ映画。【連載】#MeToo以降の女性映画(4)

3月8日の「国際女性デー」に合わせて、劇場や配信で見られるおすすめの「女性映画」ベスト10をセレクト。罪、戦争、性愛、クィア、ガールズ・ムービーなど、様々なテーマで紹介する。(※上映・配信情報は2023年3月時点の情報です)

左から時計回り:『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』、『ソウルに帰る』、『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』

シリーズ「#MeToo以降の女性映画」は、「#MeToo」のハッシュタグとともに自身の性暴力被害を告発する人々が可視化され、この運動が時代を揺さぶる大きなうねりとなったいま、どのような映画が生み出され、それらをどのように語ることができるのかを考える連載企画。

「#MeToo」運動が一躍世界に広まったきっかけは、2017年10月に「ニューヨーク・タイムズ」紙がハリウッドでもっとも影響力のあるプロデューサーのひとり、ハーヴェイ・ワインスタインによる様々な女性たちへの性暴力とセクシュアル・ハラスメント疑惑を報道したことだった。以降、映画界の長年にわたるジェンダー不平等は様々なかたちで問題視されることとなり、こうした問題を意識的に取り上げる作家・作品も増えている。

連載第4回となる今回は、3月8日の「国際女性デー」に合わせて、様々なテーマごとに「女性映画ベスト10」を映画批評家の夏目深雪がピックアップ。作品は劇場やDVD、配信などで観られるものから選定し、製作年順に紹介する(1作のみ2023年8月公開)。【Tokyo Art Beat】

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975)/シャンタル・アケルマン

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』  © Chantal Akerman Foundation

▶︎罪を犯す女性

女性映画を一本だけ選べと言われたら、この映画を選ぶだろう。昔は日仏学院などのシネクラブでたまに上映されるだけだったが、昨年のGWに開催された「シャンタル・アケルマン映画祭」で上映され、老若男女の観客で満席になったのは感無量であった。

じゃがいもを剥いたりお皿を洗ったりといった主婦の日常が繰り返され、その反復と執拗さがどこか狂気を感じさせ、驚くべきある行為の発覚と突発的な犯行につながる作劇は何度見ても見事。その後犯罪者の女性は幾人か描かれ、同行している男性への愛だったり、精神疾患が原因だったり理由は様々だが、几帳面でひとり息子に愛情を注ぐ平凡な主婦が犯すこの犯罪ほど観客の心に突き刺さるものはないだろう。

※4月7日〜27日『シャンタル・アケルマン映画祭2023』(ヒューマントラストシネマ渋谷)で上映。ほか全国順次ロードショー

『冬の旅』(1985)/アニエス・ヴァルダ

▶︎放浪する女性

私はこの映画を公開当時に見た。日本での公開に6年を要し、1991年だった。32年も経つのに、バックパッカー然としたモナが農地をひとり歩いていく鮮烈な印象は残っていて、見直しても変わらなかった。

家庭も、労働も、勉強も、恋愛すらも拒絶する「放浪する女」はこの映画によってひとつの定型となり、ケリー・ライカートの『ウェンディ&ルーシー』(2008)やクロエ・ジャオの『ノマドランド』(2020)などに引き継がれている。「家がない」ということは家父長制からも自由なのだが、人々の厚意によって家をわたり歩いたり、車上で生活する彼女らが見つける小さな自由が胸をうつ。類似作品のなかでももっとも悲劇的な結末を持つ本作の重みは時間が経つにつれ増している。

※全国公開中

『RAW 少女のめざめ』(2016)/ジュリア・デュクルノー

▶︎クィア映画/人喰い・吸血鬼の女性

吸血鬼映画『ボーンズ アンド オール』(2022)などの「人喰い」人種の映画、また『ボーダー 二つの世界』(2018)のように人間の亜種が主人公の映画を、「クィア映画」と呼ぶことは賛否があるだろう。だが迫害されること、つがいになった彼らが人目を忍ぶカップルであることなど、クィアのアレゴリーに溢れている。

『RAW』は「恋愛」がないところが異色である。車との性愛を描いた新作『TITANE チタン』(2021)が衝撃的なジュリア・デュクルノーの長編デビュー作で、食人への目覚めが性の目覚めのアレゴリーとして描かれ、姉への情愛と連帯が描かれ(初めて食すのも姉の指で、白眉は女同士の立ちション)、異様で切実な美に満ちたガールズ・ムービーとなっている。

※Blu-ray・DVD発売中、各社配信中

『金子文子と朴烈』(2017)/イ・ジュンイク

▶︎フェミニズム/アナーキズムと女性

フェミニストの女性は昨今珍しくはないが、韓国や日本といった男尊女卑が強い国にて、映画で描かれるのは珍しい。とくに大正期を生きた金子文子はフェミニストの走りであろうし、韓国人監督によって日本人の文子のその数奇な人生が見出された意義は大きい。

アナーキストの女性がヒロインの映画というと、ほかに岡田茉莉子が伊藤野枝を演じた『エロス+虐殺』(1970)くらいしか浮かばない。関東大震災のさなかに、文子は恋人の朴烈とともに逮捕され、伊藤野枝は愛人の大杉栄とともに虐殺された。時代的にもかぶるのだが、愛と政治、そして歴史を常に念頭に置いて女性を撮ってきた故・吉田喜重の後を追うのがイ・ジュンイクしかいないのかと思うと複雑な気分になる。

※DVD発売中、各社配信中

『リトル・フォレスト 春夏秋冬』(2018)/イム・スルレ

▶︎ガールズ・ムービー

ガールズ・ムービーは少女=性の目覚めを描くというクリシェに反旗を翻したものが多いが、ソフィア・コッポラ以降、その動きがもっとも盛んなのは韓国映画だ。ヒロインは42歳(『サニー 永遠の仲間たち』、2011)や70歳(『怪しい彼女』、2014)なのにガールズ・ムービーといった驚くべき作品群や、まったく性が絡んでこない『わたしたち』(2016)、『はちどり』(2018)といった「少女映画」。後者はとくに女性監督の進出と関連していて、少女と性を結び付ける男性目線を炙り出した。

韓国映画史上6人目の女性監督であるイム・スルレのこの作品も、キム・テリの美しさもあり、彼女が田舎の一軒家で母親のことを思い出しながら料理し、食べるだけで映画的なダイナミズムが発動する。

※DVD発売中、各社配信中

『戦争と女の顔』(2019)/カンテミール・バラーゴフ

▶︎戦争と女性

戦争映画で女性はどのように描かれてきたか。もっとも凄惨な悲劇としては、『南京!南京!』(2009)や『金陵十三釵』(2011)で描かれたように、性奴隷である。近年になって『バハールの涙』(2018)のように女性兵士が描かれるようになったが、兵士/性奴隷はどちらかであり、両方はあり得なかった。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの著書『戦争は女の顔をしていない』(1985)を原案としたこの映画は、ヒロインのイーヤとマーシャのクィアな関係を基盤とし、兵士兼性奴隷の日々のなか不妊手術をしたマーシャの、婚約者の母親へのそのことの暴露がクライマックスとなる。製作は2019年で、現代的かつ苛烈な劇作はロシアが始めた戦争を予見していたかのようである。

※Blu-ray・DVD発売中

『シンプルな情熱』(2020)/ダニエル・アービッド

▶︎性愛と女性

「性愛と女性」といえば大島渚の『愛のコリーダ』(1976)を想起する。男性を殺害後、局部を切り取ったという「阿部定事件」が発動させるエロスとタナトスが、凡百のポルノ的性表象から映画を際立たせた。

現代において、この映画に匹敵するような政治性を持った女性と性愛に関する映画というと、昨年ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノー原作の映画化作品しかないのではないか。大学教師のシングルマザーが、年下の外国人男性との不倫にうつつを抜かす。『愛のコリーダ』並みに性行為が白日のもとで克明に描かれる。阿部定並みに一途なヒロインを「愛」というフィルターを通してではなく、「性行為」によって描こうとした試みがすこぶる刺激的だ。

※各社配信中

『あのこと』(2021)/オドレイ・ディヴァン

『あのこと』

▶︎リプロダクティヴ・ヘルス/ライツと女性

もうひとつのアニー・エルノーの映画化作品。人工妊娠中絶が禁止されていたフランスを舞台に、予期せぬ妊娠によって、秘密裡の堕胎を余儀なくされた女子大学生を描く。

エルノーの実体験をもとにした本作は、避妊の情報すら禁止されていた時代の出来事だが、昨年アメリカで「ロー対ウェイド判決」が覆され、昔話だと静観してもいられなくなった。事実をもとにし、いままでの映画のように、中絶に罪悪感を持たせたり、逆に必要以上にヒロインを悲壮的に描いたりせず、ヒロインの暗中模索と焦りを体感できるようカメラワーク・テロップ・音響などで工夫されている。抽象的な結論ではなくあくまで「出来事」だけを突き付けているところが優れてポリティカルである。

※全国公開

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『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』(2022)/ケイシー・レモンズ

『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』

▶︎現代の魔女

ホイットニー・ヒューストンを「現代の魔女」と見なすことは、賛否があるだろう。だが、この映画で彼女の「神がかった」歌唱を聞き直すことができて、私はジャンヌ・ダルクに関する映画が製作国を問わず作り続けられ、現在もなお名匠たちの創作欲を掻き立てていることともに、真剣に考えるべきだと思った(最新作はブリュノ・デュモンのミュージカル仕立ての『ジャネット』[2017]と『ジャンヌ』[2019])。

突出した才能を持つ女性が、周りの男性によって持ち上げられるとともに利用され、最後は破滅させられる。同性愛や麻薬などのスキャンダルによって失墜していた彼女の名誉回復を狙った映画でもあり、技術の発達によって興隆する傑作音楽伝記映画のひとつでもある。

※各社にてプレミア配信中

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『ソウルに帰る』(2022)/ダヴィ・シュー

『ソウルに帰る』

▶︎移民の女性

『冬の小鳥』(2009)、ユン・ヨジュンがアカデミー賞助演女優賞を受賞した『ミナリ』(2020)と、このジャンルは韓国優勢。両作とも監督自身が韓国系の移民だ。『ソウルに帰る』も監督はフランスで生まれ育ったカンボジア移民2世だが、主人公は韓国に生まれ、フランスで養父母に育てられた25歳の女性、フレディ。

文化の違いや差別に耐え忍ぶことが多い故か、通常移民女性に突出した性格は与えられないが、フレディは苛立ちを暴力的な言動と奔放な性行動で発散する。フレディを捨てたことを悔やみ毎日のように酒を飲んで電話をかけてくる実父など、韓国社会との衝突がクリアに描かれ、「耐え忍ぶ」だけではない、国に縛られない自由で奔放な女性像を創出した。

※8月より全国公開予定


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夏目深雪

夏目深雪

なつめ・みゆき 映画批評、編集業、多摩美術大学非常勤講師。主な著書に、『岩井俊二:『Love Letter』から『ラストレター』、そして『チィファの手紙』へ』(河出書房新社 、2020)、『新たなるインド映画の世界』(PICK UP PRESS、2021)、『韓国女性映画:わたしたちの物語』(河出書房新社、2022)など。