「アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術-若冲からウォーホル、リヒターへ-」会場風景より
新たな美術館、鳥取県立美術館が3月30日に開館した。
鳥取県倉吉市に誕生した鳥取県立美術館は、1972年に開設された鳥取県立博物館の美術部門が独立するかたちで作られた。美術館の理念に「OPENNESS!(オープンネス)」を掲げており、これは明るく開かれた空間という美術館建築の特性だけでなく、様々な価値観に対して開かれ、新しい価値を創り出すことを恐れない美術館の精神を象徴しているという。
建築は槇文彦が率いた槇総合計画事務所と竹中工務店の設計共同事業体によるもの。3階までの吹き抜けの「ひろま」や、美術館前の大御堂廃寺跡を一望できる展望テラスなど無料で入場できるエリアも多く、陽の光が差し込む開放的な広がりが特徴になっている。(建築についてのレポート記事はこちら)
収蔵作品数は1万点を超え、「鳥取県が持っている前田寛治や辻晉堂の作品を中心としながら、それをひとつの文脈ととらえられるようなコレクションを形成していきたい」と尾﨑信一郎館長。
館外には、青木野枝による高さ約3.9mの《しきだい》や、李禹煥の《Relatum--Infinity Lake》といった屋外彫刻も展示されている。今年度中には、リクリット・ティラヴァーニャ、SUPERFLEX、鈴木昭男らの作品も設置される予定だ。
開館記念展として3月30日からスタートしたのは、「ART OF THE REAL アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術-若冲からウォーホル、リヒターへ-」。
鳥取県立美術館のコレクションの特徴のひとつには、表現における「リアル」に対する多様な関心があるという。本展ではこのようなコレクションの特性を背景に、江戸時代の絵画から現代美術まで、100名を超える国内外の様々な作家によって制作された油彩画、日本画、彫刻、写真など多彩なジャンルの作品を「リアル」をキーワードに読み解くことを試みる。担当学芸員は同館主任学芸員の藤巻和恵。
尾﨑館長は本展の見どころとして、「非常に大規模な展覧会であること」「一点豪華主義ではなく、作品の文脈やストーリーを見せていく作りの展覧会であること」などを挙げたほか、「女性作家や鳥取県の作家、若い作家、第三世界の作家の作品を含めることを考えながら作品を選んだ」と説明した。
展覧会は2階と3階にわたって展開され、約180点の作品を「迫真と本質」「写実を超える」「日常と生活 」「物質と物体」「事件と記憶 」「身体という現実」という6つの章とエピローグの全7章から展観する。
第1章「迫真と本質」では、現実のリアルな再現や写実的な表現によって対象の本質や実存をとらえようとした作家たちの作品を中心に紹介。土方稲嶺《群鶴図》、前田寛治《西洋婦人像》、辻晉堂の彫刻《詩人(大伴家持試作)》という鳥取を代表する作家の作品で展覧会は幕を開ける。
さらにクロード・モネやギュスターヴ・クールベの風景画をはじめ、ジョルジュ・モランディ、高橋由一、岸田劉生らの静物画、ゲルハルト・リヒターら現代の作家による肖像画などが並ぶ。リアルなゴキブリが目を引く作品は、「生と死」をテーマにリアルな自在置物を制作する満田晴穂による《識<八識>》だ。
「写実を超える」表現に光を当てる2章では、キュビスムやシュルレアリスム、日本画における「奇想の系譜」などから新しい「現実」の表現をたどる。
鳥取といえば砂丘が有名だが、「砂丘とシュルレアリスム」と題されたミニコーナーでは、砂丘を舞台に画家たちが繰り広げた幻想的な表現が紹介されている。ここでの見どころは、やなぎみわによる高さ4mを超える大作《Windswept Women 2》。力強く立ち上がる女性の姿が表現された本作は、2009年のヴェネチア・ビエンナーレ日本館での展示「老少女劇団(Windswept Women)」の出品作のひとつ。やなぎは本作の制作時に鳥取を訪れ、一部は鳥取で撮影されている。鳥取にゆかりのある作品として同館で収蔵することになったという。
さらにこの章では、海と陸で対峙する鯨と象の白黒の対比が印象的な伊藤若冲の水墨画《象と鯨図屏風》をはじめ、ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》、ジョルジュ・デ・キリコ《ヘクトールとアンドロマケー》、パブロ・ピカソ《裸婦》などの名作が並ぶ。
日常の風景やありふれた日用品のなかの美の新しい可能性をテーマとする第3章「日常と生活」では、2022年に鳥取県が購入したアンディ・ウォーホルの《ブリロ・ボックス》5点を初お披露目。県は約3億円で本作を購入し、当時県民から賛否両論の声があがるなど大きな話題となった。
藤巻学芸員は「購入の話題が先行したが、ウォーホルの重要性をみなさんにより良く知っていただきたいという思いがある」と語る。本作を《キャンベル・スープ缶(チキン・ウィズ・ライス)》《キャンベル・スープⅡ》《6枚組の自画像》といったウォーホル作品や、本章のほかの作品とともに展示することで、商品の反復や背景にある大量消費者社会へのまなざしなどを伝えたいとの意図があるという。鳥取県では、《ブリロ・ボックス》を引き続き県が所有すべきかなどを問う来館者アンケートを行う。
このほか本章ではマルセル・デュシャン《自転車の車輪》、草間彌生《マカロニ・コート》、さらに三島喜美代、ヴォルフガング・ティルマンス、ロイ・リキテンスタインといった作家の作品も展示されている。
3階の展示を締めくくる「物質と物体」では、絵具や金属板といった素材そのものを作品とした作家を取り上げる。本展タイトルが1968年にニューヨーク近代美術館で開催された「アート・オブ・ザ・リアル Art of the Real」に由来していることにちなんで、同展の出品作家からカール・アンドレ、ドナルド・ジャッド、ロバート・モリス、フランク・ステラの作品を展示。
また絵具や和紙そのものを素材にした作品として、具体美術協会の吉原治良や白髪一雄、白髪富士子、さらに現代の作家として27225本の画鋲で作られた冨井大裕の《ゴールドフィンガー》なども紹介されている。
展覧会は2階の展示室へと続く。第5章は、主に20世紀以降の美術のなかに刻まれた社会的な現実を検証するもの。震災などの災害や戦争をアーティストはどのように表現してきたのかを探る。
藤田嗣治による戦争画《アッツ島玉砕》、従軍画家としても戦争画を残した鳥取出身の画家・小早川秋聲による《護国》《虫の音》をはじめ、ジャン・フランソワ=ミレーの《晩鐘》を引用し、湾岸戦争を背景に制作された森村泰昌《Brothers(Late Autumn Prayer)》、ピカソの《ゲルニカ》を連想させる山本敬輔《ヒロシマ》や石内都《ひろしま #71 寄贈者:畑村タケ代》などの原爆投下を題材とした作品、さらに東日本大震災後の海岸をとらえた志賀理江子《螺旋海岸 46》といった作品が紹介されている。
第6章「身体という現実」は、身体そのものを表現にした作品など、身体に関わる作品を取り上げる。フランシス・ベーコン《スフィンクス》や、オノ・ヨーコ《カット・ピース》、女性モデルに絵の具を塗りキャンバスにかたどったイヴ・クラインの《人体測定170》、生まれつき目の見えない人に「あなたにとって美しいものは何か」と問いかけ、その答えを肖像写真とともに展示するソフィ・カル《盲目の人々》などが並ぶ。
さらに「浴室の中の身体」というサブテーマを設け、河原温の《浴室》シリーズや塩田千春《バスルーム》などの作品も紹介されている。
最後に展覧会を締めくくるエピローグ「境界を越えて」。ミヤギフトシの映像作品《アメリカン・ボーイフレンド:ザ・オーシャン・ビュー・リゾート》、やなぎみわが多様な若い女性の「50年後の理想の自分」を特殊メイクやCGによって表現したシリーズ《My Grandmothers》などを紹介。様々な境界を超えて、未来に向かっていく希望を示唆し、本展は幕を閉じる。
新たな美術館の開館にあたり、同館ならではのコレクションに加え、全国各地の美術館や関係施設から集まった名品が並ぶ、ボリュームたっぷりの本展。藤巻学芸員は「非常に貴重な作品が一堂に集まっている。(来場者が)自身の関心のあるところで一点一点の作品と出会い、これまで(県立の)美術館のなかった鳥取の地で美術作品に触れていただける機会を設けることができたのではないかと思っている」と自信を見せる。県立としては全国でもほぼ最後発となる鳥取県立美術館が今後どのような取り組みを展開していくのか、その歩みに引き続き注目したい。
なお、本展では多彩なグッズも登場。《ブリロ・ボックス》のキャンディー缶やお菓子ボックス、トートバッグなどが用意されている。さらに美術館オリジナルグッズにはサクラクレパスとコラボし、1本1本が鳥取ゆかりの色の名前になっているオリジナルクーピーなど、鳥取ならではのユニークなアイテムも。美術館を訪れた際はグッズショップもチェックしてほしい。