毎週更新でやってみよう! みんなのペット自慢でもすればいいじゃん! とノリ始めたTAB編集部日記。第1回からすでに3週間が経過し、早々の失速に不安が高まっておりますが、こんにちは。編集の福島夏子です。
今回は、ヴェネチア出張のこぼれ話をお届けします。
はい。今回は大変幸運なことに関係者の方々の協力を得て、「アート界のオリンピック」とも言われる第60回ヴェネチア・ビエンナーレに取材に行くことができました。担当したのは編集部の野路と私、日程は移動含めて4月15日〜21日。毛利悠子さんが個展を開催した日本館の取材をはじめ、各国パビリオンやメイン企画展、関連展示などをまわって来ました。速報で公開した日本館のレポートをはじめ、いくつかの記事を準備中ですのでご期待ください。
円安の影響も大きい昨今、実際のところ編集部の懐事情も決して潤沢ではありません。私たちが出張で行ったのはヴェネチア・ビエンナーレの「ベルニサージュ」と呼ばれる期間で、20日の開幕に先駆けて関係者やプレス向けのいわば内覧会が3日間あります。ということは、世界中からアート関係者やVIPも集まってくる。当然ヴェネチアの宿泊費は非常に高額になり、この時期のホテルは「1泊18万円くらいする」とも聞いて震え上がっておりました。そんなところ、ある方から「メストレという手もありますよ」と教えていただきました。
メストレというのはヴェネチア市の一地区で、ヴェネチア本島の対岸にある、本土側の都市です。ヴェネツィア・メストレ駅がこのあたりの鉄道網の拠点となっており、ヴェネチア本島の玄関口であるヴェネツィア・サンタ・ルチーア駅まで電車で約10分。メストレ駅周辺は、はまっこの私としてはどことなく新横浜みを感じて親近感があるというか、ターミナル駅周辺らしい雰囲気で、本土にはない新興のビジネスホテル型の大きなホテルが立ち並んでいます。(ちなみに野路さんはメストレ〜本島までの海をわたる車窓の景色が湘南っぽいと言っていました。神奈川……)。
こうしたメストレの大型ホテルは、ヴェネチア本島に比べるとかなり宿泊費が安く抑えられるということで、私たちはここで駅前のホテルのひとつに宿泊しました。実際の値段はツインルームで食事なし1泊200€(約3万3000円)ほど。ビジネスホテル然とした部屋の雰囲気は日本の地方都市だったら1万円しないかな〜という感じなので決して安くはないですが、それでも本島に比べれば格段に出費が抑えられました。ただ私の事前のチェックが甘く、なんと掃除が含まれていなかった(がーん)。しかもティッシュも歯ブラシもシャンプーもないという簡素な部屋でしたが、エスプレッソマシーンだけはあったのは、さすがイタリアといったところでしょうか。
そんなこんなで若干の不便さはありますが、本島までのアクセスもよく、ホテル代を抑えたいというときにはメストレはおすすめの場所だと思いました。
ちなみにメストレ駅〜サンタ・ルチーア駅の乗車券は1.45€。
また私たちはヴェネチア本島のヴァポレット(水上バス)やメストレからの陸路バスなどに乗り放題となるシティカードも活用しました。1日券、3日券など日程に合わせて購入できるので便利です。
メストレは旧市街のような情緒はないですが、大型スーパーや地元密着のレストランがあったり、東京でもよく見るようになった電動キックボードを乗り回す若者の姿など、この地域で暮らす人々のリアルが垣間見えるのも興味深いところ。Wikipediaによると「メストレの人口は約8万人であり、これはヴェネツィア本島上の都市「ヴェネツィア」(約5万人)を上回る」そうです。
また、アラブ系の移民やその子供たちと思われる人々の姿をよく見かけました。大通り沿いにはケバブやハラールレストランがあったり、日用品店にアラビア語のパッケージの飲み物やフードがあったり。
ちょっと印象的だった出来事があります。夜、一度タクシーに乗ったとき、運転手は気のいいおじさんで「日本人! 日本食いいよね!」とフレンドリーに話をしてくれたものの、メストレのピザ屋の話になると「あのピザ屋は偽物!あのピザ屋も!アラブ人がやっているケバブピザだよ!」などと窓から見える飲食店を指しながら饒舌な様子。でも、中東やアフリカにもピザやパンのような食べ物はあるし、アラブ人がやっているからといって「偽物」扱いか〜と、白人のタクシー運転手さんから差別意識を感じて、ちょっとしょんぼりしてしまいました。
「どこにでもいる外国人(Foreigners Everywhere)」というのが、今回のヴェネチア・ビエンナーレの総合テーマです。そう、外国人はどこにでもいる。メイン企画展は、そうした「外」や「周縁」に置かれた人々の生や闘い、そして創作に光を当てたものでした。でも、ほんの目と鼻の先でやっているそんな展覧会を、ここに住む「外国人」の人々は見に行ったりするのだろうか?
運転手のおじさんに「ケバブピザ」と呼ばれた、おそらく安価であろう飲食店のネオンの下に寄り集まっている非白人の若者たちを見ながら、アートの枠組みにおけるこうしたテーマと、「外国人」として生きることのリアリティについて、日本から来た外国人の私はもやもやと割り切れない思いを巡らせたのでした。
福島夏子(編集部)
福島夏子(編集部)