公開日:2025年3月28日

「生誕150年記念 上村松園」 (大阪中之島美術館)レポート。近代美人画のパイオニアであり日本における女性画家の先駆者、その全体像に迫る

会期は3月29日〜6月1日。独自の女性像で高く評価をされた画家の、初期から晩年までの100件を超える作品を展示

会場風景より、上村松園《わか葉》(1940)

明治から昭和にかけて活躍した画家の歩みを総覧

日本美術史に名を刻む画家、上村松園(1875〜1949)の生誕150年を記念した大回顧展が、大阪中之島美術館にて3月29日に開幕する。会期は6月1日まで。前期(3月29日~5月11日)と後期(5月13日~6月1日)で一部展示替えが行われる。巡回はなく、大阪でのみ開催される。

会場入口

京都に生まれ育った松園は、女性芸術家がまだ少ない時代に、並外れた努力を重ねて名声を築いた稀代の日本画家だ。京都府画学校をへて、鈴木派の鈴木松年と四条派の幸野楳嶺、竹内栖鳳に学んだ。美人画の名手として知られ、四条派の伝統を継承しながらも独自の美意識を貫いた。男性中心の明治期美術界において実力を示し、文化勲章を受章した初の女性の画家としても知られる。

音声ガイドを担当した俳優の木村多江

大阪中之島美術館では、本展担当者である小川知子学芸員を中心とする女性の日本画家研究の成果として、これまでも「決定版! 女性画家たちの大阪」展(2024)などを開催してきた。本展もこうした流れにおいて、関西で活躍した女性の日本画家たちの多様性を立体的に紹介する機会となる。記者会見で、小川は本展の意図や見どころをこのように語った。

「150年という節目に、上村松園の作家像をきちんと紹介したいと考えました。明治から昭和にかけて作風は大きく変わっていきます。いっぽうで努力を惜しまない制作態度は一貫しています。

また松園は男性が9割以上を占めた当時の画壇に風穴を開け、ブレイクスルーとなった。そうした日本における女性芸術家としてのパイオニアであるという視点も盛り込みました」(小川)

記者会見にて解説する小川知子学芸員

同館の菅谷富夫館長は、「松園の全体像を見る機会を、美術館としてぜひ作りたいと考えてきた」という。本展では、重要文化財《母子》《序の舞》(後期展示)をはじめ、《草紙洗小町》《晩秋》など代表作を含む100点以上を展示。作品を通じて、松園が描いた理想の女性像や、人生の機微を映し出す表現の変遷をたどることができる。また、完成作に至るまでの素描や下絵も紹介され、松園の制作過程に迫る構成となっている。

会場風景

展示は4つの章で構成。「人生を描く」では、女性の生き方や美しさを表現した作品群を紹介。会場パネルでは松園の描く女性像の特徴について、男性画家による美人画は女性の若さ、艶やかさに焦点をあてがちだが、松園は女性の生き方に敬意を払い、温かな愛情や共感の眼差しを向ける。松園の絵筆がとらえるのは一般的にあるべきとされた女性像ではない」と書かれていて興味深い。

本章では松園の母親への思慕についても言及されており、冒頭に展示された《青眉》は、そうした作例のひとつ。本作は、明治初期頃までの風習であった産後に眉を剃りお歯黒をした女性が描かれている。松園の母親も眉を剃っていたらしく、母親の死後すぐに描かれた本作は、亡き母へのオマージュだと考えられる。

会場風景より、《青眉》(1934)
会場風景より、《月食の宵》(1916)

「季節を描く」では、四季折々の風情を纏った女性像が並ぶ。

会場風景より、《待月》(1926)

「古典を描く」では、伝統芸能や古典文学を題材にした作品を通じて、松園の気品ある美意識が浮かび上がる。

会場風景より、《草紙洗小町》(1937)
会場風景

「暮らしを描く」では、日常の情景を捉えた作品が並び、時代の移り変わりとともに松園のまなざしの変化が読み取れる。

傑出した女性画家の先駆者として、後進の指針ともなった松園の活躍は、池田蕉園や島成園をはじめ、多くの女性日本画家が誕生する土壌を育んだ。四条派の伝統が色濃い京都画壇にあって、自ら美人画の系譜を切り拓いた上村松園は、様々な意味でパイオニアであった。

会場風景より、《16歳の自画像》(1891)

「彼女の強さには現代的な部分がある。これからの日本の若い方にも共感を得るのではないかと思います。(その現代性とは)自分を貫ける、自分を大事にできるというところ。松園は父親がいなかったこともあり、母親に尊重されて育ったことで、自分の人生において進むべき方向を自分で判断できた。その結果、画業を貫くために未婚のシングルマザーにもなり、周囲から様々なことを言われることもあったが、類まれな努力を続けた。こうした現代的というか、普遍的な強さがある。そのような画家は、私は上村松園以外に知りません」(小川)

上村松園の芸術の真価を、ぜひ美術館で確かめてほしい。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。
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