公開日:2017年2月14日

作品が生まれる場所、アーティストと制作環境

アーティスト・井出賢嗣に訊く、作品制作に必要不可欠な活気ある場所 その豊かな土壌作り

制作活動を続けていく中で、環境は作品にどのように影響しているのでしょうか。
オルタナティヴな場所で発表を続け、2013年から10~11月に開催されている相模原の20個以上の合同オープンスタジオイベント、SUPER OPEN STUDIOの前代表であり、現在巣鴨のXYZ collectiveで開催中の「シルバニアファミリービエンナーレ2017」のキュレーションも行なっているアーティストの井出賢嗣さんのスタジオにお邪魔し、インタビューを行いました。

相模原にあるTANA Studioにて
相模原にあるTANA Studioにて
photo by Karuna Niino

――まずここ、TANAスタジオの変遷やメンバーの紹介を伺えますか。
この場所を借り始めたのが2005年の春くらいだったと思います。ここを始めたメンバーは、大学院を卒業したタイミングだった諏訪未知さん、油井瑞樹さんと僕と同学年だった福永大介くんのペインターの3人。その数ヵ月後に僕も展示のための制作で、入口付近の小さい所を借り始めました。
大きく分けて手前が立体、奥壁を平面の作家が使用している。右奥に写っているのはスタジオメンバーである菊池奈緒さんの制作中の作品。
大きく分けて手前が立体、奥壁を平面の作家が使用している。右奥に写っているのはスタジオメンバーである菊池奈緒さんの制作中の作品。
photo by Rikako Kashima

――その時は既にスタジオの内装は今と同じ様子だったのでしょうか?
机の並ぶ窓際、机をメインで作業する作家も。
机の並ぶ窓際、机をメインで作業する作家も。
photo by Rikako Kashima
全然違います。机とか壁も全然無くて、そのときあったものをそのまま使う感じでスタジオが始まりました。2年毎にメンバーの入れ替えがあったので3、4回くらいメンバーは変わっています。それで2011年にみんな環境変えたかったりとかで、1回リセットされました。ただ、僕だけ立体をやっていて物がいっぱいあったので、大家さんに待ってもらってるうちにそのまま借りてしまって。だから1人で借りてる時期もありました。そういう変遷を経て、現在ここを使ってるのは、僕と、中村太一くんと菊池奈緒さん、大野晶さん、川名紀子さんの5人です。
主に倉庫として使用されている二階。手前の棚はプロジェクターを置くために自作されたもの。
主に倉庫として使用されている二階。手前の棚はプロジェクターを置くために自作されたもの。
photo by Karuna Niino
倉庫にしまってあった作品を解説する井出さん
倉庫にしまってあった作品を解説する井出さん
photo by Rikako Kashima


――立体だけ、平面だけというスタジオもあるなかで、TANA Studioでは今のメンバーはメディアミックスになっているし、空間的にも仕切りなど無いのでお互いに作用しやすいと思います。それについてはどうお考えですか?
最初借りた2005年頃は僕の周りはペインター志向が強かったんですが、あとから思うと、そういう空気とは違う場所にしたかったのかな。
勿論メインストリームはペインティングでいいんだけど、色んなことやってるアーティストがぐちゃぐちゃに繋がって、皆変な面白いものを作るっていうような。そういう発想がもとにあるから、スタジオの使い方や、入って欲しいアーティストも多メディアで、かつ、人と影響を受けあいながらできる人がいいなと思って選んではいるんですけど。
――スタジオメンバーが入れ替わることで自分の制作にも変化は起こるんでしょうか?
変わる変わる。例えば、途中で一緒だった田上桂さんは鉱物や無機物を作品に使っていたので、かえって自分の作品で使用しているベニヤはもっと有機的なものにしたいと思いました。ってひねくれたいわけではないですが。また、それぞれメンバーが持ち寄る情報や無駄話から作品になることも多いです。
――展示として作品を見せるということと、制作現場で作品を見せることの印象の違いについてはどう思いますか?
もともと制作過程を見せて成立する作品を作っていたので、制作現場で作品を見せるのは僕にとっては自然なことです。ですが、スタジオで見せることで思わぬものが見えるし反応される、ということが展示とは大きく違います。例えば手遊びで出来てしまったものや、普段使っているマグカップなどから生まれる会話やイメージが、そこにある作品に重なってくるような。
制作過程で立体と作者が共に過ごす様子が記録されたビデオ
制作過程で立体と作者が共に過ごす様子が記録されたビデオ
なみだくん ©Kenji IDE


更に僕の欲求のことで言えば、オープンスタジオでは制作現場で作品を見せるだけでなく、変なお祭りをやってみたかったんだと思います。一人でスタジオを借りていたときに、こんな大きな場所が自由に使えるなら、色んなことができるなって思って。アトリエで見せると言うよりは、自分の自由な空間で好きなようにやるという感覚です。
「One day screening」 斎藤玲児・戸田祥子 @TANA Studio
「One day screening」 斎藤玲児・戸田祥子 @TANA Studio

――それがSUPER OPEN STUDIOに繋がっていく?
僕の個人的な入り口はそこですね。2012年ごろに、友達の紹介でこの近所に「REV」っていう大きなスタジオがあることを知りました。そこにいたアーティストの山根一晃くんと合同オープンスタジオを「REV」とここ「TANA Studio」、あと先輩スタジオである「牛小屋」の3つで企画しました。更に相模原のアーティストスタジオをリサーチしていた「アートラボはしもと」の職員だった加藤慶くんが入って、2013年に今の形が生まれました。元々同世代のスタジオで行き交いはあったけど、そこから更にジェネレーションもメディアも所属も卒業学科も違う人がミックスしたものが結果的にSUPER OPEN STUDIOになった、というのが僕個人の感想です。
©SuperOpenStudio network
SUPER OPEN STUDIOの様子
SUPER OPEN STUDIOの様子
©SuperOpenStudio network


それから、去年から千葉正也くんの企画でSuper Open dialogというものが始まりました。毎月1回運営方針の会議をアートラボでしてたんですが、去年からその会議の日にオープンスタジオの作家から3人選んで作品のプレゼンテーションしてもらうことになりました。プレゼンをあんまりしたことがなかった人は他人にプレゼンするいい機会になる一方で、それまであまり知らなかったオープンスタジオ参加作家のことを、作品やその人の人生を通してよりよく知れる上に、作品を通して喋り合う有意義な会になってます。
――それは一般にも公開されてるんでしょうか?
あんまり一般の人は来ないけどされています。そこまで告知してないせいかな。
オープンスタジオも段々大きくなっていて、僕は個人的に興味あるアーティストがいればコンタクトをとるし、オープンスタジオに参加しているほかの100人の中では違うユニットも生まれてくるだろうし、そういう化学反応が起きる場が生まれてきている気がします。
Super Open dialogの様子
Super Open dialogの様子
©SuperOpenStudio network

――いま伺ったようにアーティスト間でもそういった繋がりが生まれていると思うんですが、参加作家ではない人にスタジオをある期間公開することで、何か変化や反応はありましたか?
変化はありました。自分の作品を見る層がイレギュラーに拡大したり、同業者の人たちが面白いとか欲しいとかっていうのを即断して作品を直接買ったり、プロジェクトのお誘いが増えたりだとか、ポジティブなエフェクトは割と多いです。
――これだけ大きな塊として動いていると観客としても来やすいです。
固まってるとなんか活気がない?ほんと単なるお祭り好きなんじゃないかって感じなんですが(笑)活気って作品作りとか土壌作りに結構重要だと思うんですよ。活気が出てきているのは一番いいことだと思います。
©SuperOpenStudio network

――作家がただ作品を作って見せる、という活動だけではないことを井出さんを見ているととても感じます。
シルバニアのお話に移っていこうと思うんですが、あの展覧会の出展作は作家それぞれがキュレーションを行いながら、ミニチュアであるためにハウス内に配置する作品を自分で作っていて、入れ子状の構造になっているのが面白いと思いました。単なる現実のミニチュアではなく作品としてハウスが見えてくるということも、普段の作品制作と比べて、かなり異質に感じました。

和田昌弘による今回の出展作品 マリーナ・アブラモヴィッチやヨーゼフ・ボイスの作品をキュレーション
和田昌弘による今回の出展作品 マリーナ・アブラモヴィッチやヨーゼフ・ボイスの作品をキュレーション
photo by Rikako Kashima
コンセプトとかそれぞれのアイデンティティを含めた普段のアートワークを作るふるまいに比べて、シルバニアハウスではもう少し軽い、初期衝動的なものだと思います。でもどこか、彼らのアイデンティティが彼らの本気の作品とは違うレベルの軽さで出てる。あと、シルバニアファミリーの世界観があって、展示の想定としてマケットを作るというよりは、アーティストがおもちゃ使ってアート遊びをした結果みたいな。
子どものときから僕はシルバニアハウスの家具を動かすのが好きで、シルバニアハウスの中にこれ置いたら作品っぽいし展示じゃん、と思っていて。それがどういうアートとして回収されるかということはいずれにせよあると思うんですが、その作品の裏側にあるいたずら心とか遊び心が直接的に見えるのが面白いかなって思ってるんです。短絡的にクマの人形を椅子に座らせたらアブラモヴィッチに見えた、というような。

シルバニアファミリービエンナーレ2017の会場風景
シルバニアファミリービエンナーレ2017の会場風景
photo by Kenji IDE

――実際の展覧会のキュレーションはどのように行ったんでしょうか?
キュレーションとしゃしゃり出て言うのは得意じゃないので経緯を言うと、八王子でリサイクル屋巡りしていた時にシルバニアハウスをギャラリーにしようという話が生まれて。すごく突発的な思いつきで、これ面白くない?って始まりました。平山昌尚さんとインスタグラムでシルバニアギャラリーの写真をあげていたら、XYZ collectiveのディレクターCOBRAさんが興味持ってくれて今回の展示に繋がりました。参加作家は個々にお話ししたことがある方たちで、それぞれ全然違う理由がありますが、シルバニアハウスでこの人が普段の作家性で遊んだらどうなるんだろう、という興味が根本にあります。あとは…友達?(笑)友達と近所で遊ぶ感覚でやりたいみたいなノリはありました。でも意外と無いんですよあの組み合わせ。万代洋輔と今津景とか。僕と千葉君とかも、展示では初めてです。
――色んな流れの中で活動が続いているんですね。
シルバニアもそうですけど、1つ何か面白いことが生まれると近くの人と楽しむということがあります。同世代で制作続けている人が多かったし、同世代の友達とつるんでいくうちに色んなものが生まれていった感じがします。そのままそれが自分の作品にもどんどん影響を与えて、そういうことを繰り返して10何年か経っているという感じですね。なんか意識が途切れないんですよね。イメージ、発想の沼、共有空間みたいなものがあって、皆それぞれ違う場所からぐちゃぐちゃと色んなことをそこに持ち込んで、繋がったり違う展開になったりして、そのあと自分のところに戻ると自分の作品が更新されるような。これがなくなったら面白くないって言うか、だから皆この共有空間を意識してると思うんですよね。これって、僕だけじゃないと思うんだよな。
スタジオにあった作品と井出さん
スタジオにあった作品と井出さん
photo by Rikako Kashima

興味を軽やかに行動に移し、途切れない流れの中で作品制作やイベントを行う井出さん。今回のインタビューでは作品作りに必要な活気のある環境とその影響を伺うことができました。
開催中のシルバニアファミリービエンナーレはもちろん、秋ごろのSUPER OPEN STUDIOやアートラボはしもとでのdialogもチェックしてみてください!

Profile
井出賢嗣 Kenji IDE
1981年生まれ。2006年多摩美術大学大学院絵画専攻修了。恋愛、生活をテーマに立体インスターレションで表現をする。即興による制作で生まれる不自然な形を美しいものとしてその作品の根幹に置く。主な活動に『After the summertime』(statement,2016)、『立体』(Art Center Ongoing,2015) など。

[TABインターン] Rikako Kashima: 都内美大で油絵を専攻。よく噛んで味わうのが苦手なので、食事はのど越しをメインに楽しみ、食わず嫌いは納豆と生牡蠣。

TABインターン

TABインターン

学生からキャリアのある人まで、TABの理念に触発されて多くの人達が参加しています。3名からなるチームを4ヶ月毎に結成、TABの中核といえる膨大なアート情報を相手に日々奮闘中! 業務の傍ら、「課外活動」として各々のプロジェクトにも取り組んでいます。そのほんの一部を、TABlogでも発信していきます。