Yoshitomo Nara We Are Outlaws Yes!, 2024 Acrylic on wood 30 1/8 x 26 7/8 x 2 1/2 inches (76.5 x 68.2 x 6.5 centimeters) Photo: Hayato Wakabayashi (Filename for internal reference: YN 2292) © 2024 Yoshitomo Nara; Courtesy of the Yoshitomo Nara Foundation and BLUM Los Angeles, Tokyo, New York

奈良美智 「I Draw the Line」

BLUM
1月11日終了

アーティスト

奈良美智
この度BLUM東京は、奈良美智の個展を開催いたします。ここ1年間に生み出された作品を多く含むこの展覧会において、作家はモノクロームの描線によるドローイング、抑制された色使いのペインティングなど、切りつめられた造形による表現の可能性を追求しています。

直感と身体性が創造の根幹にある奈良にとって、ドローイングはきわめて重要な営みです。作家は初期の頃から、ノートの切れ端、郵便で届いた封筒、段ボールの断片など、身近にあるさまざまな紙の上に、瞬間のひらめきを捉えながら自由に筆を走らせてきました。そこには、繊細な線やポップな色彩によって作家のみずみずしい創意が定着されてきました。奈良の制作の中心であり続けてきたドローイングですが、近年はその趣に変化が見られます。手元の視界の中に鉛筆やポールペンなど比較的細い線描によって親密な表現世界を築き上げてきたこれまでのドローイングとは異なり、近年それらはよりモニュメンタルな性格を強めています。

《DEFIANT GUYS》は、若い頃から聞き続けてきたパンクロックグループTHE STAR CLUBの著名な楽曲に触発された作品で、画面にはそのタイトルや歌詞の一部が描き込まれています。お気に入りの音楽をモチーフとしたドローイングは、これまでもよく見られたものですが、ここではそれがポスターに近い大判の紙に黒一色の太い線で描き出されています。奈良はここで、紙のテクスチャーになじみ、濃淡や抑揚といった線の表情を出すために、程よい柔らかさを持った工業用の特殊なマーカーを使っています。大きなカーブを描く顔や頭、たなびく前髪、釣り上がった目元、振り上げた拳、それぞれをかたどる線が迷いなく一息に引かれています。「反抗するやつら」の炸裂するエネルギーをそのまま乗せたような、これらの線のスピードとリズムそしてその大画面の迫力が観る者を圧倒します。

今年の夏に北海道の洞爺で制作された一連の作品もまた、同じようにモノクロームの大型ドローイングのシリーズに位置づけられます。東日本大震災以後、青森で過ごした幼少期の記憶を呼び戻すような、豊かな自然や素朴な人々の暮らしが見られる北海道は、奈良の活動の重要なフィールドとなってきました。奈良はこの夏も、洞爺湖畔の小さな集落にある木造の小屋の一間をアトリエに借りて制作を行いました。火山が作り出した湖と島々の美しい景観、そして村の親しい人々に囲まれた時間の中で生み出されたドローイングでは、浮島を帽子のように頭にのせた頭部を画面にいっぱいに描いたり、険しい目つきの狼のような獣の毛皮を被った子どもを描いたり、自然と人間あるいは動物と人間が一体化した表現が特徴的です。それは震災後の奈良が、自らの存在をより大きな世界と歴史の中で捉えるべく踏み出した、今なお続く長い旅路の産物とも言えるでしょう。

本展には、3点のペインティングも出品されています。これらは、奈良が今年初め、ノートの切れ端に黒のマーカーでスケッチしたドローイングが下絵となっています。それら下絵の画像をプロジェクターで木製パネルに拡大投影し、映し出された像をアクリル絵具でトレースしながら制作されています。小さなドローイングをプロジェクションによって拡大し、大画面に仕上げる手法は、2000年代の半ば頃から奈良が手がけてきた「ビルボード・ペインティング」と呼ばれる大型の木製パネルの絵画の制作で用いられてきたものです。ビルボード・ペインティングは、ドローイングと絵画、親密な個の宇宙と開かれた大衆の場の間を行き来するこの作家特有のメディアと言っていいでしょう。流れる線の動きやスピード、筆圧など、ドローイングが放つエネルギーは、ビルボード・ペインティングにおいて、パステル調の色彩のポップなインパクトと木材のテクスチャーがもつ温かな風合いの魅力に置き換えられています。時折ドローイングに書きつけられる心の叫びのような言葉、あるいはお気に入りミュージシャンの歌詞などは、看板にも似た大画面に拡大されることで、強い訴求力を帯びてきます。

《POWER IN A UNION》では、廃材に施された薄いレモンイエローの地の上に、茶色い太い輪郭線で目を大きく見開きポカンと口を開けた人物の上半身を描いています。この人物が見つめる画面下方にはワインレッドで「POWER IN A UNION」というタイトルの文字が記されています。この言葉は労働者間の連帯を呼びかけるビリー・ブラッグの歌『There Is Power in a Union』(1986年)に由来します。この引用は、奈良が若い頃から触れていた1950〜60年代のカウンターカルチャー、ロックやフォーク音楽に根ざした社会的関心や政治的意識を反映しています。奈良はここで子どものように頼りない胴体を持つ人物を、そのちんまりとした印象には不釣り合いな過剰な大きさで描き出しています。小さな下絵あるいは原型を拡大し、スケールの大きな作品として仕上げる時、そこに奈良はいつも弱小に見える者が有する強大な力という価値の逆転の意味を込めてきました。ここでもこの人物のサイズ自体に、彼/彼女のように弱小なる者同士が連帯した時に発せられる力の強大さを語らせています。「持てる者」と「持たざる者」の格差が広がる現代社会に、奈良はこの作品を通じてアクチュアルなメッセージを投げかけています。

今年6月からスペインのビルバオ・グッゲンハイム美術館で始まった大規模な個展が現在ヨーロッパを巡回中の奈良。BLUMでの9回目となる本展では、国際的な評価が高まり続けているこの作家の現在地を知ることができます。

スケジュール

開催中

2024年11月7日(木)〜2025年1月11日(土)あと30日

開館情報

時間
12:0018:00
休館日
月曜日、日曜日、祝日

オープニングパーティー 2024年11月7日(木) 12:00 から 18:00 まで

入場料無料
会場BLUM
https://blum-gallery.com/
住所〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森 5F
アクセスJR山手線原宿駅竹下口より徒歩1分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅2番出口より徒歩2分
電話番号03-3475-1631 
関連画像

各画像をタップすると拡大表示します

0件の投稿

すべて表示

まだコメントはありません