Tokyo Art Beat(TAB)は12月2日から2週間、「あなたが選ぶ2023年ベスト展覧会」と題したアンケートを実施。読者のみなさんからベスト展覧会とコメントを募りました。ベスト展覧会として挙げられた展覧会の数は100件以上。そのなかからとくに人気のトップ5を寄せられたコメントとともに紹介します。
なお、TABアプリのクリップ数を集計した展覧会トップ30はこちらの記事で公開中です。
堂々の1位は、東京都現代美術館で行われた「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展。パリ装飾芸術美術館での成功に続き、ロンドン、ニューヨークと世界を巡回してきた本展は、日本でも大きな話題を呼び会期終盤にはチケットが入手困難となりました。
意外にも感動して泣きそうになった
とにかく圧倒されました。空間や展示数や展示の仕方に魅了されました。展覧会で長時間滞在したのと、何度も観たいと思ったのは初めてのことでした
と、圧倒の世界観に賛称の声が。また「作品はもちろんのこと、会場デザインが素晴らしかった。巡回しないのが勿体ないくらいです」と、会場デザインに言及する声もいくつかありました。空間デザインを手がけたのは、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの設計でも知られる建築家の重松象平(OMA)。
TABでは本展のレビューも公開中。表だった華々しさだけではなく、より多面的に展覧会を読み解く手引きとなるレビューをぜひご一読ください。
2位は、20世紀の巨匠アンリ・マティスの日本で約20年ぶりの個展「マティス展」です。世界最大規模のマティス・コレクションを所蔵するポンピドゥー・センターの全面的な協力を得て開催する本展は、絵画に加えて彫刻、ドローイング、版画、切り紙絵、ロザリオ礼拝堂にかんする資料が集まりました。
とにかくマティス尽くしで充実していました!
美しい作品が多く見れて満足
と、日本でまとまった点数を見ることのできないマティスを堪能した方多数。2024年2月14日より国立新美術館で行われる「マティス 自由なフォルム」もいまから楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。
3位にランクインしたのは、現代アートチームの目[mé]ディレクションによる「さいたま国際芸術祭2023」。「わたしたち/We」のテーマで、気候変動や社会格差、分断など様々な問題を抱える世界を、参加者に新たな目線で見てもらおうというメッセージを込めた芸術祭でした。
本展で話題となったのは「スケーパー(SCAPER)」というキーワード。これは「景色の人」を意味する目 [mé]の造語で、たとえばベレー帽にくわえパイプでイーゼルを立て風景画を描いている “絵に描いたような画家”や、計算されたように並んだ落ち葉など、演出なのか現実なのかが曖昧になる現象のこと。アンケートでもスケーパーに言及する方が目立ちました。
会場構成とスケーパー研究所がよかった!
会場の作り込みと、scaperという概念とで日常の景色も変えてしまった
4位には同数で2つの展覧会がランクイン。まずは、東京都現代美術館で行われた日本で27年ぶりとなる「デイヴィッド・ホックニー展」。2023年人気展覧会トップ30の記事では1192点を獲得し、堂々の1位に輝いた本展には、とどまることのない創作意欲に感動したというコメントが多く寄せられました。
圧倒的な技術とアーティストとしてのあくなき探究心に心を打たれた
生きる喜びに溢れていた
TABでは本展のレポートに加え、2本のレビューや佐々木健、梅津庸一によるレビュー、担当学芸員楠本愛のインタビューも大ボリュームで公開中。ホックニーを理解するキーワードが散りばめられた記事はいまから読んでも遅くない、タイムレスな記事になっています。
ホックニーと同票を獲得したのは、2024年2月25日まで青森県立美術館で開催中の「奈良美智: The Beginning Place ここから」。
読者コメントでは、
大学時代の作品から最新作までを網羅的に展示していた。高校生で関わった音楽バーの再現まであり、若いころから光っていた奈良さんの才能を体感した。自由を願う首尾一貫したインディペンデントな奈良さんの生き方に改めて尊敬の念を抱き、強く孤独で清々しい絵の中の少女一人ひとりが自分や他人に見えてきて、胸に迫るものがあった
奈良美智さんの生まれた地での開催で、これまでの軌跡を追いながら作品に触れることができた
と、故郷ならではの展示構成を印象深く感じた方が多いことがわかります。本展はトップ5のなかで唯一、2024年も見られる展覧会。公開中のインタビューで予習復習はいかがでしょうか。
5位は、アーティゾン美術館の3フロアにまたがる全展示室を使った「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」。約150点の石橋財団コレクションに、国内外の美術館や個人コレクションからの作品を加えた264点が集結。抽象絵画の流れを俯瞰できる貴重な機会となりました。
抽象絵画の種類と量が多く、空間として圧倒された
展示の量、質に圧倒されました
若干多すぎて疲れるほどボリューミーで、抽象画の系譜をキュビスムなどを通して近代から現代までみれる、非常に稀有な展覧会だった
と、コメントでは作品ボリュームへの嬉しい悲鳴が目立ちました。担当学芸員・新畑泰秀のインタビューは抽象絵画入門にもおすすめのインタビューです。
以上、5位までの展覧会を紹介しました。ここからは惜しくもランキングからは外れたいくつかの人気展覧会もコメントとともに紹介します。
観てるだけで脳が焼き切れそうな展示。言い方が良くないけど気持ち悪さというか…あちら側の世界が見えてしまった人・扉を開けてしまったの表現物を見ただけでコレなので作者自身の精神どうなってるんだ。図録を開くのが少し怖い。それだけインパクトのある展覧会だった。このテーマを選んで展示作品を選定したキュレーターさんに賛辞を送りたい
*本展は2024年1月5日~2月25日にかけ碧南市藤井達吉現代美術館に巡回予定。
待望の山口晃の大規模個展。所蔵作品と、現代作家とのコラボレーションという企画がよい。双方の作品への解釈が広がった。山口晃の個展でしか見られない大規模なインスタレーション作品も全身を使って体感できるもので、見ごたえがあった
19世紀末〜20世紀前半位までの南仏で制作された作品を一気に見られて面白かった。戦争に翻弄される芸術家たちの話など今考えさせられる内容で興味深かった
この展示を見る前と後で不可逆的な変化が自分に起きたと感じる。表現方法も展示構成も圧倒的で、いちばん人に伝えたくなった展示だった
美と躍動感と高級感と斬新性
網羅的にキュビズムの歴史や現代アートにつながっていく過程が素晴らしかった。ブラックの作品も良かった
今年もありがとうございました。来年もTAB一同、みなさんと魅力的な展覧会の橋渡しができるようにがんばります。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)