公開日:2025年3月6日

3月8日「国際女性デー」を機に見たい展覧会14選。女性作家の個展や、フェミニズム、ジェンダーをテーマに含む展覧会を紹介

3月に開催されている全国の展覧会から、女性のアーティストの個展や、フェミニズムやジェンダーについて考えるきっかけとなる企画展を紹介

3月8日は「国際女性デー」。1908年3月8日にアメリカの女性労働者が婦人参政権や労働環境の改善を求めるデモを行ったことなどに由来し、国際婦人年である1975年に国連が制定した記念日です。女性たちの功績を祝福し、女性の権利や政治的、経済的分野への参加、ジェンダー平等を推進する日であるこの日。美術館やギャラリーを訪れてみませんか?

ここでは、アメリカやイギリス、オーストラリアなどでは「女性史月間」でもある3月に開催中の展覧会から、女性のアーティストの個展や、フェミニズム、ジェンダー、セクシュアリティについて考えるきっかけを与えてくれる企画展を紹介します。

  1. 「風船爆弾作戦と本土決戦準備 —女の子たちの戦争—」(明治大学平和教育登戸研究所資料館、神奈川)
  2. ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 「Dance Floor as Study Roomーしたたかにたゆたう」(山口情報芸術センター、山口)
  3. 「今津景 タナ・アイル」(東京オペラシティ アートギャラリー、東京)
  4. 「生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った」(東京ステーションギャラリー、東京)
  5. 「ザ・マスターズ・トゥールズ・ウィル・ネヴァー・ディスマントル・ザ・マスターズ・ハウス(The Master's Tools Will Never Dismantle the Master's House、主人の道具で主人の家は壊せない)」(KAG、岡山)
  6. 井上裕加里 「JIN JIYAN AZADÎ 女性、命、自由」(A-LAB、兵庫)
  7. 「フェミニズムと映像表現」(東京国立近代美術館、東京)
  8. 上映イベント 「日本の女性映画人(3)―1990年代」(国立映画アーカイブ、東京)
  9. 「コレクション2 Undo, Redo わたしは解く、やり直す」(国立国際美術館、大阪)
  10. 「わたしたちの返事:1975-2025」(アニエスベー ギャラリー ブティック、東京)
  11. 「ヒルマ・アフ・クリント展」(東京国立近代美術館、東京)
  12. 「FIFTYS PROJECT ジェンダー平等とわたしたち」(渋谷パルコ、東京)
  13. 「CAMP」(オオタファインアーツ、東京)
  14. 本間メイ「Women were gatherers?:女は採集者だった?」(GALLERY MoMo Projects、東京)

「風船爆弾作戦と本土決戦準備 —女の子たちの戦争—」(明治大学平和教育登戸研究所資料館、神奈川)

1944~1945年の時期、日本陸軍の研究所である登戸研究所は、日本陸軍が強い期待をかけた風船爆弾の開発・製造に全力を挙げていた。9300発が発射された風船爆弾は、その多くを学徒動員で集められた10代の女学生たちが製造したことで知られる。本展では、風船爆弾作戦がどのように計画され、製造に多数の女学生たちを動員し、どのような結末を迎えたのか、なぜ陸軍は風船爆弾にこだわったのかを明らかにすることを試みる。また日本陸軍と登戸研究所による本土決戦の際の計画や、遊撃戦における構想、敗戦に際しての証拠隠滅の指示など、当時の様子を残された資料から詳細に検証する。

会場:明治大学平和教育登戸研究所資料館
会期:2024年11月20日〜5月31日

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 「Dance Floor as Study Roomーしたたかにたゆたう」(山口情報芸術センター、山口)

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《彼女たちの》(2022年) courtesy of Artist, MUSEUM OF CONTEMPORARY ART TOKYO

映像作品やインスタレーションを通じて、人種差別、ジェンダー問題、歴史、植民地主義などの支配的言説や権力構造に対峙する作品を発表してきたオランダのアーティスト、ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ。近年は、日本とオランダ、インドネシアにゆかりのある女性アーティストのリサーチを進めており、本展で公開される新作は、田中絹代や林芙美子をはじめとする、1930年代から50年代にかけてそれぞれの国で活躍した女性たちにインスピレーションを受けて制作された。抑圧的な体制下での個人の闘争に焦点を当て、女性たちの共通点や今日まで連なる人種差別やジェンダー問題といった課題の根本を問いかける。また会場には、クィア文化に触発された「ダンスフロア」を取り入れた展示構造を制作し、展覧会テーマを体現したインスタレーションを展開する。

会場:山口情報芸術センター
会期:11月30日〜3月15日

「今津景 タナ・アイル」(東京オペラシティ アートギャラリー、東京)

会場風景 撮影:編集部

国内外で大きな注目を集める現代アーティスト、今津景による初の大規模個展。2017年にインドネシアに移住した作家は、環境問題やエコフェミニズム、神話、歴史、政治などの多様なモチーフが交錯するダイナミックな作品を制作している。本展では、インドネシアでの生活をきっかけに深めた植民地主義や環境問題などへの深い関心を反映させた作品や、若桑みどり『女性画家列伝』に紹介された女性の画家たちの作品をモチーフにした絵画《RIB》なども展示されている。神話や歴史といったスケールの大きいテーマを、自身の個人的な体験やルーツとも結びつけたエネルギッシュな作品群は、見る者自身の生活や生きる場所についての問いを投げかけるだろう。

会場:東京オペラシティ アートギャラリー
会期:1月11日〜3月23日
ミューぽんで200円OFF!(2名まで割引)

「生誕120年 宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った」(東京ステーションギャラリー、東京)

会場風景 撮影:編集部

生前アプリケの作家としてよく知られた宮脇綾子(1905〜1995)。野菜や魚といった主婦として毎日目にしていた身近なものを対象に、布の端切れや紙などを用いて、美しく親しみやすい作品を生み出した。本展は、アプリケ、コラージュ、手芸などに分類されてきた彼女の作品を美術史の言葉を使って分析し、宮脇の芸術に新たな光を当てようとする試みだ。対象を徹底的に観察し、時にはそれを割って断面をさらして、構造を確かめるなど、たゆまぬ研究の果てに生まれた作品群を、造形的な特徴に基づいて分類し、紹介する。

会場:東京ステーションギャラリー
会期:1月25日〜3月16日
ミューぽんで100円OFF!(1名まで割引)

「ザ・マスターズ・トゥールズ・ウィル・ネヴァー・ディスマントル・ザ・マスターズ・ハウス(The Master's Tools Will Never Dismantle the Master's House、主人の道具で主人の家は壊せない)」(KAG、岡山)

ミミ・グエン Slant no. 5 1996

本展のタイトル「主人の道具で主人の家は壊せない」は、詩人で活動家のオードリー・ロードのスピーチをもとにした著書から引用されている。ロードはシモーヌ・ド・ボーヴォワール『第二の性』の出版30周年を記念する学術会議において白人中心主義フェミニズムに対する批判的なスピーチを行い、さらにボーヴォワールを引用して「私たちが生きるための力と行動の理由を導き出すのは、私たちの生活の真の状況を知ることである」と指摘した。本展は、カルプ・リンジー、ミミ・チ・グエン、サエボーグ、ジェニー・シムズという4名のアーティストによるグループ展。言語や文化間に生じる親密性と暴力性を探究し、支配的な観点を混乱させながら近代の神話を暴こうと試みるアーティストたちによる表現を通じて、二元論的な思考に揺さぶりをかける可能性を追求する。

会場:KAG
会期:2月1日〜4月19日

井上裕加里 「JIN JIYAN AZADÎ 女性、命、自由」(A-LAB、兵庫)

国内外でリサーチを行い、「世界の女性の地位の問題」などをテーマに制作を続ける井上裕加里。本展では、日本も下位に位置する「ジェンダーギャップ指数」の指標自体が欧米中心の価値観に基づいているのではないかという疑問をもとに、2022年にイランを訪れた作家が、現地での滞在経験を経て制作した近作・新作を中心に展示する。イランでは2022年にヒジャブの不適切な着用を理由に逮捕された女性が死亡する事件が発生し、そのデモで掲げられたスローガン「「JIN, JIYAN, AZADÎ 女性、命、自由」をテーマに、現代の複雑な問題に向き合う。

会場:A-LAB
会期:2月1日〜3月30日

「フェミニズムと映像表現」(東京国立近代美術館、東京)

マーサ・ロスラー キッチンの記号論 1975 Courtesy of Electronic Arts Intermix (EAI), New York

1960年代から70年代にかけて、テレビの普及やビデオカメラの登場などのメディア環境の変化を受け、作家たちは新たなテクノロジーを取り入れ始めた。同じ頃、アメリカの公民権運動やベトナム反戦運動をはじめ、世界各地で社会運動が広がり、フェミニズムも大衆的な運動となっていった。昨年に行われた前会期から続く本展では、こうした時代背景を起点とする1970年代から現代までの映像表現を、マーサ・ロスラー、ナンシー・ホルトとロバート・スミッソン、出光真子、遠藤麻衣×百瀬文、キムスージャという5組のアーティストの作品を通して紹介する。なかでも、「個人的なことは政治的なこと」というスローガンを掲げたフェミニズム運動のもとで映像制作を始めた出光による、自身の体験も含む女性たちの日常に根差した作品群は現代に生きる私たちにもリアリティを持って語りかけてくるだろう。同会期のヒルマ・アフ・クリント展とあわせて訪れたい。

会場:東京国立近代美術館
会期:2月11日〜6月15日

上映イベント 「日本の女性映画人(3)―1990年代」(国立映画アーカイブ、東京)

1980年代以前の日本映画界では、一般劇映画の作り手として女性監督がキャリアを築くのは困難で、1990年代に入り、ようやく継続的に作品を発表する監督が目立つようになる。本企画では、日本映画史において女性が監督を「職業」とし始めた最初の時代であった1990年代前後にフォーカスし、劇映画、ドキュメンタリー、実験映画、アニメーションなど計52作品を紹介する。大手映画会社のもとで拡大公開される映画を送り出した女性監督の先駆として位置付けられる山﨑博子、佐藤嗣麻子、松浦雅子や、個人映画・実験映画の作り手として登場した小口詩子、和田淳子、寺嶋真里、歌川恵子ら、さらには女性映画プロデューサーの台頭にも光を当て、それぞれの女性映画人を顕彰するとともに、日本映画史を見据える新たな視点を提示する。

会場:国立映画アーカイブ
会期:2月11日〜3月23日

「コレクション2 Undo, Redo わたしは解く、やり直す」(国立国際美術館、大阪)

会場風景より、ルイーズ・ブルジョワ《カップル》(1996) ©︎ The Easton Foundation/VAGA at ARS, NY/JASPAR, Tokyo 2024 E5724 撮影:編集部

国立国際美術館が2023年度に収蔵したルイーズ・ブルジョワとレオノール・アントゥネス、2024年度に収蔵し、今回初公開となるルース・アサワの3作家による作品を起点としたコレクション展。現代美術における糸や布などの身近な素材の使用に目を向け、さらに編み縫うという制作行為をラディカルな創造行為ととらえ、同館のコレクションに新たに光を当てる。素材や構造、歴史をほぐし、それらを再構成していくことでこれまでと異なる見方や世界を提示する作品が紹介される。展覧会タイトルは、ブルジョワが2000年にテート・モダンのタービン・ホールで発表した作品《I Do, I Undo, I Redo》のタイトルおよび手塚愛子をはじめとする作家の制作行為に着想を得ているという。

会場:国立国際美術館
会期:2月15日〜6月1日

「わたしたちの返事:1975-2025」(アニエスベー ギャラリー ブティック、東京)

国連が3月8日を「国際女性デー」と定めた1975年、アニエス・ヴァルダは、「女性とは何か?」という問いに女性たちが率直に応える姿をとらえた短編映画『RÉPONSE DE FEMMES: NOTRE CORPS, NOTRE SEXE(女性たちの返事:私たちの体、私たちの性)』を制作した。本展では、1975年以降に生まれたアーティストたちが同作の声を読み解き、身体、記憶、対話、土地、生き様、そしてアイデンティティというそれぞれの物語をもとに「わたしたちの返事」を紡ぎ出す。参加アーティストは、片山真理、小林エリカ、スクリプカリウ落合安奈、東京QQQ×海老坐禅。

会場:アニエスベー ギャラリー ブティック(agnès b. galerie boutique)
会期:2月22日〜3月23日

「ヒルマ・アフ・クリント展」(東京国立近代美術館、東京)

会場風景 撮影:編集部

スウェーデン生まれの画家、ヒルマ・アフ・クリント(1862〜1944)のアジア初となる大回顧展。アフ・クリントは、当時の女性としては珍しく正統的な美術教育を受けたいっぽう、神秘主義思想に傾倒し、降霊術の体験を通して独自の抽象絵画を制作した。長らく限られた人々にしかその作品が知られていなかったが、21世紀に入ってから急速に評価が高まり、2018年のグッゲンハイム美術館での回顧展は、同館史上最大となる60万人を動員。本展では、高さ3m超・10点組の絵画《10の最大物》(1907)をはじめ、すべて初来日となる作品約140点が出品されている。同時代の神秘主義思想・自然科学社会思想・女性運動といった多様な制作の源の紹介を交えながら、その画業の全容を展観する。

会場:東京国立近代美術館
会期:3月4日〜6月15日

「FIFTYS PROJECT ジェンダー平等とわたしたち」(渋谷パルコ、東京)

セレクトブティックのSisterと、「政治分野のジェンダーギャップ、私たちの世代で解消を。」を掲げて活動するFIFTYS PROJECTが、女性参政権獲得から今年で80年を迎える節目に開催する展示。いまだ男性主体の政治が続く日本において、これまでの歩みとこれからについて、来場者とともに考える展示を目指す。会期中は、NHK連続テレビ小説『虎に翼』のタイトルバックを手がけたシシヤマザキによる展示グッズの販売を行い、売上の一部はジェンダー関連図書として自治体へ寄贈する。

会場:渋谷パルコ
会期:3月7日〜3月9日

「CAMP」(オオタファインアーツ、東京)

嶋田美子+ブブ・ド・ラ・マドレーヌ、ミン・ウォン、ウォーターメロン・シスターズ(ユ・チェンタ+ミン・ウォン)、ユキ・キハラによるグループ展。参加作家は社会構造に対する鋭い批評眼を駆使し、リサーチを重ねてきたアーティストたちであり、かれらに共通してみられる感覚が「CAMP(キャンプ)」だ。過剰なまでに誇張されたスタイルや、人、もののなかに見られる人工性などを愛好するキャンプは、クィアを自認するかれらにとって馴染み深い概念であり、混沌とした現代においても大胆不敵な自己主張を繰り広げる。アイロニー全開で独自の美学を貫くアーティストたちの表現を体感できる展覧会となる。

会場:オオタファインアーツ
会期:3月15日〜5月10日

本間メイ「Women were gatherers?:女は採集者だった?」(GALLERY MoMo Projects、東京)

《Female Hunter》  2025 ガムオイルプリント 80.0 × 120.0cm © Mei Honma

インドネシアと日本を拠点に活動する本間メイは、両国の歴史的関係をリサーチしながら、社会・政治的な問題や多国間の関係性を考察する作品を発表している。近年は女性の歴史に焦点を当てた作品制作に取り組い、国内外での展示のほか、キュレーション活動も行う。本展では、本間が自身の子育てを通じて感じたジェンダーバイアスに対する違和感を出発点に、「男は狩猟、女は採集」という古くからの固定観念を問い直す。原始の狩猟武器「アトラトル(投槍器)」を持つ女性をモチーフにした写真作品や、リサーチやインタビューをもとにした映像作品を展示し、「母性」という概念に対する多角的な考察を試みる。

会場:GALLERY MoMo Projects
会期:3月1日〜3月30日

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