公開日:2023年11月20日

麻布台ヒルズの「オラファー・エリアソン展」速報レポート。「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」は11月24日オープン

森ビル株式会社が運営する「麻布台ヒルズ」。そのなかの「麻布台ヒルズギャラリー」の柿落としはオラファー・エリアソン展。

会場風景より、《蛍の生物圏 (マグマの流星)》(2023)

都心な新たなアートスポット、麻布台ヒルズ

六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズに続く新たな大型複合商業施設「麻布台ヒルズ」が、11月24日にオープンする。”緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街 - Modern Urban Village -”をテーマに、広大な中央広場、オフィス、住宅、ホテル、インターナショナルスクール、商業施設、文化施設などが集うここには、いくつかのアート関連施設が入居する。なかでも大きなスペースが、麻布台ヒルズギャラリーだ。

オープンに合わせ、開館記念展として「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」が、11月24日から2024年3月31日まで開催される。企画は、片岡真実(森美術館 館長)、德山拓一(森美術館 アソシエイト・キュレーター)。

オラファー・エリアソン(1967年、デンマーク生まれ)は、環境問題などの社会的課題への積極的な取り組みでも世界的に注目されているアーティスト。自然現象や色や光、動きが導く知覚体験を通して、人と自然との関係性についての新たな考えを促すアーティストで、「Green」と「Wellness」を掲げる麻布台ヒルズの柿落としに抜擢されたのも頷ける。

麻布台ギャラリーの会場風景より、オラファーエリアソンのインタビュー動画

パブリックアート《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》

麻布台ヒルズギャラリーへと向かう前に、まず見ておきたいのが、エリアソンによる新作パブリックアート《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》(2023)だ。麻布台ヒルズで一際高いビル、「麻布台ヒルズ森JPタワー」に位置し、建物と中央広場とのあいだを行き来する人びとの頭上に4つの螺旋状の構造体が吊り下げられている。

《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》(2023)

遅さ、ディープ・タイム(地質学的な時間)、そして量子幾何学の隠れた構造からインスピレーションを得たという本作は、幾何学的なモジュールの反復で構成されている。また、持続可能性への取り組みとして、リサイクルされた金属を鋳造する実験的な技法を採用しているという。

本展をキュレーションした片岡真実(森美術館館長)は、本作について以下のコメントを公式サイトに寄せている。

本作では多面体が複雑に連なり、ひとつの点がねじれながら移動する軌跡を想起させます。あらゆるものの原子レベルの繋がりだけでなく、この麻布台の地に蓄積された歴史、人々の活動や生活によって新たに生成される磁力、惑星としての地球のエネルギーなど、目に見えない時間やものの繋がり合いも想像させてくれるでしょう。デンマークとアイスランドの大自然に囲まれて育ったエリアソンは、今日、世界が直面する喫緊の課題、気候危機に対し、現代アートの領域から積極的に発言をしてきた第一人者でもあり、本作ではスタジオ・オラファー・エリアソンとして初めて再生金属を使用しています。

麻布台ヒルズギャラリー

麻布台ヒルズギャラリーは、低層階の建物「ガーデンプラザA」MB階にある。森JPタワーから行く場合は中央広場を抜け、屋外を歩いて5分ほど。もしくは神谷町駅から地下で直結している。

ガーデンプラザA外観

会場に入ると、《蛍の生物圏 (マグマの流星)》(2023)が反射させるオレンジの光に包まれる。小さな多面体は関連する16の吊り彫刻シリーズのひとつで、スタジオ・オラファー・エリアソンの数十年にわたる研究が結晶化したもの。

会場風景より、《蛍の生物圏 (マグマの流星》(2023)

次の展示室には、《終わりなき研究》(2005)。振り子を用いて幾何学像を生成する機械「ハーモノグラフ」に紙をセットすると、回転運動の力によって、ペンが円運動のリズムを記録する。本作はスタジオ・オラファー・エリアソンが行った空間と音の相関関係についての研究の一部だという。(動く様子は下部にあるInstagramの投稿から見てほしい)

会場風景より、《終わりなき研究》(2005)
会場風景より、《終わりなき研究》(2005)

同じ展示室には、ほかにもドローイングや立体作品がある。上部にファンが取り付けられた《呼吸のための空気》(2023)は本展のための新作。《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》と同じモジュールとリサイクル素材を使用しており、これらの2作品は作家が再生金属に特化して制作した初めての作品だ。

会場風景
会場風景より、《呼吸のための空気》(2023)

水を使った大型インスタレーション《瞬間の家》(2010)は本展の見どころのひとつ。天井高5m、全長20mを超える暗闇の空間にストロボの光が瞬間的に照らされ、その瞬間瞬間に水の動きが彫刻のように浮かび上がる。水と光によって無限に生み出される曲線の抽象表現からは、一瞬と永遠、主観と客観、内と外、重力と反重力といったものへの思考を誘う。これもエリアソンが長年取り組んでいる幾何学形体の研究や自然素材に内在する美しさを表現した作品のひとつだ。

会場風景より、《瞬間の家》(2010)
会場風景より、《瞬間の家》(2010)
会場風景より、《瞬間の家》(2010)

カフェ、ショップ

1階下がると麻布台ヒルズギャラリーカフェとショップがある。

麻布台ヒルズギャラリーカフェ
麻布台ヒルズギャラリーカフェ
麻布台ヒルズギャラリーカフェ。料理はビュッフェスタイルでランチが3850円、カフェ1650円、ディナー4620円(すべて税込)

カフェでは展覧会の会期中限定で、スタジオ・オラファー・エリアソン キッチンとコラボレーションし、東京近郊の食材を使用した特別メニューを考案。ベルリンにあるエリアソンのスタジオに日本からシェフを派遣し、本展のためのオリジナルメニューを共同開発した。詳細は以下の記事を見てほしい。

ショップ
ショップ

環境への取り組み

本展では環境への様々な取り組みを行っている。

まず、作品を輸送する際のCO2排出の抑制のため、スタジオからの提案を受け空港輸送ではなく海上輸送を利用。《瞬間の家》では日本で制作することで輸送量自体を大幅に減らした。またチラシとポスターにはFSC森林認証紙「MTA+ -FS」を使用している。

コラボレーションカフェでは環境に配慮した方法で作られたメニューを提供。客には食材の産地や、提供までに排出する二酸化炭素量の抑制の成果についても具体的に伝えるという。

なお、通常チケットは一般 1800円、高大専門学生 1200円、4歳〜中学生 900円。この規模の展覧会としては強気な価格設定だというのが筆者の率直な感想だ。
オンラインサイトから購入可能で、11月23日(木・祝)24時までにご購入すれば割引クーポンが適用できるので、気になる人は利用してみてはいかがだろうか。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。