「海、山、人、黙す——震災と言葉」

​日本近代文学館
残り2日
立春を過ぎ、まだ肌寒さの残る頃、当館では毎年、震災展を開催してきました。
今年は原点に立ち返り、実作者たちの肉筆による、現代の俳句・短歌・詩作品を中心に展示します。

本展のシリーズは、詩人であり当館名誉館長である中村稔氏の呼びかけにより、2013年から始まったものです。東日本大震災の起こった年(2011年)から、今年で14年。その間も、震災地震・原発事故の影響は残り続け、感染症の世界的大流行を挟んで、私たちの社会は大きく変わりました。大地をえぐった傷は、今、見えない裂傷となって、心の深部、生活の深部に達しているように思えます。日本社会の構造そのものが、今もがたがたと揺れているのです。

あのとき、波は壁となり、陸を侵し、船は陸にあがり、看板の文字はばらばらになった。具体的な意味でも抽象的な意味でも、言葉は破壊され、直喩も暗喩も存在意義を失いました。言葉の本質は虚しいものです。現実をなぞろうとして、現実は常に言葉よりも大きい。言葉が作る世界と現実の世界。その、ずれ、きしみ。悲劇を前に、私たちは死者たちの沈黙に寄り添い同意する他はありません。表現は、そこを乗り越えて出てきます。

震災に、厳密な意味で、ピリオドを打つことはできません。東日本大震災を切れ目でなく、大きな流れのなかで見ていきたい。その観点から、今年の展示のなかには、震災前の作品もわずかに混ぜてあります。
昨年、2024年に私たちは、現代を代表する詩人を次々失いました。白石かずこ、新川和江、谷川俊太郎。詩人たちの肉筆を本展に眺めながら、埋めようのない欠落感を味わっています。しかし失われたものの穴を埋める必要はないのかもしれない。今を生きる私たちは、常に死者と共に在るのですから。

今年も春が巡ります。皆様それぞれの、震災の記憶とつなぎ合わせながら、言葉とその奥に横たわる沈黙に、触れていただければ幸いです。

スケジュール

開催中

2025年2月22日(土)〜2025年3月29日(土)あと2日

開館情報

時間
9:3016:30
休館日
日曜日、月曜日
2月25日・27日、3月27日は休館
入場料一般 300円、高校生・中学生 100円
展覧会URLhttps://www.bungakukan.or.jp/cat-exhibition/cat-exh_current/15236/
会場​日本近代文学館
https://www.bungakukan.or.jp/
住所​〒153-0041 東京都目黒区駒場4-3-55
アクセス京王井の頭線駒場東大前駅西口より徒歩7分
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