国内外の近代から現代の美術を扱う複合文化施設・東京オペラシティ アートギャラリー。多様な表現活動を紹介する企画展を年に4回程度開催している。このたび同館で行われる2025年度の展覧会ラインアップが公開された。企画展と同時開催で国内の若手作家を紹介するシリーズ「project N」とあわせて、4つの展覧会の見どころをお届けする。
同時開催:収蔵品展083 愛について
本展では、装いを巡る憧れや熱狂、ときに葛藤や矛盾を伴って発露する私たちのうちなる熱情や欲望を、ファッションに対する「LOVE」ととらえ、その多様なかたちを考える。自己と他者の境界、老い、ジェンダー、アイデンティティに関わる苦悩や願望などの問題を抱える現代の「私」のありようは、一貫性があるものではなく「着替える」ように日々変化する。展覧会では、豪華な宮廷服から現代のデザインまで、京都服飾文化研究財団(KCI)が所蔵する衣服と装飾品に、アート作品を加え、着ることから紡がれる「私」と「LOVE」の物語を見つめ直す。2024年9月〜11月まで行われた京都国立近代美術館での展覧会のレポートはこちらから。
同時開催:収蔵品展084 昼と夜
戦前から画業を始め、戦後は日本の抽象絵画のパイオニアとして足跡を残した難波田龍起(1905〜1997)。海外から流入する動向を咀嚼しながらも、情報に流されたり特定の運動に属したりすることなく、独自の道を探求した。難波田は、東京オペラシティ アートギャラリーの収蔵品の寄贈者である寺田小太郎が本格的な収集活動に乗り出すきっかけとなった存在で、寺田がコレクションを導くコンセプトのひとつである「東洋的抽象」を立てたのも、難波田の画業に触れたことが大きな機縁になっているという。難波田の生誕120周年を機に行われる本展では、同館収蔵品に加え、全国の美術館の所蔵品、個人像の作品なども交え、難波田の画業の全貌を振り返り、今日的な視点から検証する。
同時開催:収蔵品展085 寺田コレクション ハイライト 前期
2024年に101歳で亡くなった染色家の柚木沙弥郎。柳宗悦らによる民藝運動に出会い、芹沢銈介のもとで染色家としての道を歩み始めた柚木は、さらに挿絵やコラージュなどジャンルの垣根を超えて自身の創作世界を豊かに広げた。本展は、柚木の75年におよぶ活動を振り返るとともに、制作において縁のあった都市や地域をテーマに加えて、柚木を巡る旅へと誘う内容になるという。民藝を出発点に、人生を愛し、楽しんだ柚木の創作活動の全貌を堪能できる展覧会となる。
同時開催:収蔵品展085 寺田コレクション ハイライト 後期
1956年にチリに生まれ、建築と映像制作を学んだのち、1982年に渡米し、以後ニューヨークを拠点に活動するアルフレド・ジャー。社会の不均衡に対する真摯な調査に基づいて多様なメディアで制作される、五感に訴えかけるインスタレーションで知られている。誰かを糾弾するのではなく、誰もが幸せになる社会を希求するという制作に通底する姿勢や、その作品は国際的にも高く評価されているほか、2018年にはヒロシマ賞を受賞し、2023年に広島市現代美術館で受賞記念展が行われた。本展は、ジャーによる東京の美術館での初個展となる。
若手作家の育成・支援を目的に1999年にスタートした「project N」は、企画展と同時開催される。
project N 98 楊博/2025年4月16日〜6月22日
映画や音楽といったポップカルチャーとその受容に関わる距離感をテーマとする楊博。たとえば時代や距離、文化的距離が離れた場所で作られた洋楽に共感や親密さを感じることがあるが、楊はそれらを享受する現在の自分の立ち位置を確かめるように、既存のイメージと身近にある生活風景とを織り交ぜた独特の世界を描き出す。
project N 99 大久保紗也/2025年7月11日〜10月2日
大久保紗也が描く線は即興に描かれたようにも見えるが、アクリル絵具の下地を塗ったカンヴァスに、ドローイングで描いた線の通りにマスキングテープを貼り、油絵具で塗りつぶし、再度テープを剥がすという手法で描かれている。主に他者の人体をドローイングのモチーフにしており、崩壊と創造を感じさせる作品を作り出している。
project N 100富田正宣/2025年10月24日〜12月21日
富田正宣の抽象絵画はつづれ織りのような大小の点の集積で描かれる。富田の制作行為は、美的な直観だけでなく、人間の行為や日々の営み、言語に対する独特の知的洞察に裏打ちされて進行しており、そのことにより、凝縮したマチエールと存在としての強度をあわせ持つ構造身体を生み出している。
project N 101 岩崎奏波/2026年1月21日〜3月29日
日常で感じる違和感をきっかけに、見慣れたものが過去の記憶や離れた事物のイメージと結びつき、異なるものに見えてくるという自らの実感をもとに制作を続ける岩崎奏波。神話や小説の物語を表しているかのような作品は、鑑賞者の目を絵画の中へと誘う。