公開日:2023年7月25日

台北、最新アートガイド(1)アートめぐり3つのコツ+美術館から個性豊かな複合アートスペースまで、いま行くべきスポットはここ!

台湾をベースに執筆活動を行う岩切澪と栖来ひかりのふたりが、台北のアートめぐりを徹底ガイド(全2回)。台北ビエンナーレの会場になる美術館から、台北のいまを伝える民間のアートスペースまでを詳しくご紹介。第1回はアートめぐりのコツもお伝えする。

台北市立美術館 外観 提供:台北市立美術館 

コロナ禍前は、日本から訪れる観光客が年間のべ200万人を超え、旅行先として人気を集めていた台湾。台湾といえば美味しいものをしこたま食べて、夜市でワイワイ、足ツボでリラックス、が定番だが、じつはアート好きにも楽しい土地だ。故宮博物院にある珠玉の作品群だけでなく、現代アートや、クロスオーバーな表現にも活気があり、音楽ホールやアートセンターなどの公的施設や民間のアートスペースも次々と誕生している。とくに台北には新旧多くのアートスポットが集まっている。最近目立つのは、複合アートスペースと呼ばれる、書店やカフェを併設した展示空間で、個性的なオーナーたちがそれぞれの理想に基づいて、アートを楽しむための開かれた場を提供している。

文心藝所 書店 提供:文心藝術基金會(Winsing Art Foundation) Photo © ANPIS FOTO

本稿では全2回にわけて、注目の台北アートスポットを紹介したい。

台北アートめぐりのポイント3つ

1:便利な交通手段は?
今回のアートマップでは、近年新しい支線が続々オープンして広がりつつある交通システムMRT(台北メトロ)を使っての回り方を提案してみた。

それぞれのスペースが微妙に遠い場合は、悠遊カードやiCashなどを使って、無人のスタンドから自動で借りることができる公共レンタサイクルYoubikeがとても便利だ。本人確認のために、アプリをダウンロードして台湾のSIMカードを入れたスマホに送られるメッセージのコードを入力する一手間はあるが、一旦登録が済めば、非常に使いやすい。

台北のギャラリーめぐりに便利な公共レンタサイクルの「YOUBIKE」 撮影:栖来ひかり

2:自転車走行中や歩行中は、くれぐれも車やバイクに注意を
台湾の交通事故死は人口比で日本の6倍もあり、安全にはしっかり気を付けて旅行して欲しい。とくに日本と違って車が右側通行なので、道路を渡るときに、われわれ日本人は逆方向を注意しがちだということをどうかお忘れなく。これは歩行者も同じだ。

3:気温差、急な雨に備えて
夏場、6月から10月までの台北は平均35度以上、湿気が高いだけに非常に蒸し暑く感じる。しかし室内は冷房がガンガンに効いていたりと温度差が激しく、この温度ギャップで体調を崩してしまう旅行者は少なくない。室内用の薄手の上着と水分補給できる飲み物をカバンに忘れず、無理のない計画で楽しんで欲しい。また7、8月は急な雨も多いので、日傘を兼ねた折りたたみ傘を携帯するのもおススメだ。

圓山〜中山周辺

台北を訪れるアート好きにおなじみの、台北市立美術館(Taipei Fine Arts Museum)のある圓山(ユエンシャン)から台北当代芸術館(Museum of Contemporary Art, Taipei)のある中山(ジョンシャン)にかけてのエリア。

台北市立美術館 ライ・ヅーシェン(賴志盛)個展「Closer」展示風景 提供:台北市立美術館
台北ビエンナーレ2020 ウー・ユーリン(武玉玲)《Vines in the Mountains》 提供:台北市立美術館

台北市立美術館では常に多くの展示が行われているが、この夏の映画監督エドワード・ヤン特別展や、秋から冬にかけての台北ビエンナーレが特に注目だ。MRT圓山駅周辺には、近年ドイツにも進出している、日本人アーティストの取り扱いが多い也趣藝廊 (AKI Gallery)がある。また、2020年に若手アーティストたちによって設立されたばかりの良室藝術空間 (Serendipity Art Space)は、実験的な展示を行ったり、人材育成にも積極的に関わったりしている。そこから少し南へ行くと、ベテランアーティストやキュレーターを輩出してきた非常廟藝術空間(VT Artsalon、*1)、視覚芸術連盟の運営する福利社 (FreeS Art Space)などのオルタナティブスペースが徒歩圏内に集まっている。ここまでの4つのスペースは、台北市立美術館から徒歩も不可能ではないが、急ぎの場合はYoubikeかタクシーが良いかもしれない。(非常廟と福利社の間は徒歩でOK)

2kmほど南下すると、台北当代芸術館の周辺にも様々なスペースが集まっている。たとえば、草間彌生ややなぎみわも個展を行ったことのある非画廊(Beyond Gallery)。そこから目と鼻の先にある美術専門の典蔵出版社系列のカフェ典藏咖啡館(ARTCO de café)長安店にもオーナーのコレクションが展示されている。また、かつて台湾の美術シーンを支えた専門誌『雄獅美術』のオーナーが7年前に始めた複合アートスペース雄獅星空(Link Lion)を含め、この辺りはまさに台北アート界の影の立役者たちが集まるエリアと言えるが、濕地(venue) や、朋丁(pon ding)など、若い世代による新しい風も吹き込んでおり、サイトで展覧会をチェックして訪れたい。

このエリアからMRTで数駅離れたところには、1990年代から2000年代にかけて、台湾現代アートを牽引していた伊通公園ギャラリー(IT Park Gallery)がある。以前のような活気はないものの、時おり企画展が行われているほか、オフィシャルサイトは、貴重な資料庫としていまも利用価値が高い。

淡水信義線~松山新店線 北から台北駅周辺まで

關渡(グァンドゥ)平原を見下ろす丘の上に立つ国立台北芸術大学にある關渡美術館(Kuandu Museum of Fine Arts)は、市内からはMRTで30〜40分程度と少し遠いが、展覧会は充実したものが多いので、時間があればぜひ訪れてほしい。關渡駅からタクシーが早いが、大学のシャトルバスに悠遊カードを使って12元で乗ることが出来るので、駅で時刻表を確認されたい。

国立台北藝術大学関渡美術館 外観 提供:關渡美術館 Photo : Chu Chi-Hung
關渡美術館 フランシス・アリス個展「Touches of Games」展示風景 提供:關渡美術館 Photo : Chu Chi-Hung

同じ駅から徒歩圏内の本事藝術(Solid Art) は、台湾の中堅アーティストを中心に取り扱う、新しいギャラリーだ。奇岩駅から徒歩4分の鳳甲美術館(Hong-gah Museum)は、近隣地区とのアートをとおした積極的な交流を進めたり、2年に一度国際ヴィデオアート展を開催したりすることで知られる。少し南下すると、芝山(ヅーシャン)駅周辺にはデジタルアート専門のアートセンター台北デジタルアートセンター(Digital Art Center, Taipei)がある。

鳳甲美術館 ルオ・シェンウェン個展「Matter of Scale」展示風景 提供:鳳甲美術館

近隣には、ヴィデオを中心に扱うChi-wen Gallery(要予約)、2017年にオープンした台湾戯曲中心(Taiwan Traditional Theatre Center)や、士林夜市で有名な剣潭(ジェンタン)駅前にはレム・コールハースの建築がひときわ目を引く臺北表演藝術中心(Taipei Performing Arts Center) があり、様々なパフォーミングアーツのプログラムが行われている。台北駅まで南下すれば、順益台灣美術館(Shung Ye Museum of Formosan Fine Arts)で台湾近代美術史の名作を、また、台中の国立台湾美術館が運営している國家攝影文化中心(National Center of Photography and Images, Taipei)で、多世代にまたがる台湾写真家や現代アーティストによる写真作品を見ることができる。

臺北表演藝術中心 外観 提供:栖来ひかり

内湖〜大直

台北中心部から基隆河を挟んだ内湖(ネイフー)は、サイエンスパークとして開発され、近年著しく発展しているエリアだ。IT企業や製造業、テレビ局や新聞社といった大手メディアなど様々な業種の集積地になったことに合わせて、隣接する大直(ダーヅー)は高級住宅街として人気があり、ホテル、レストランやショッピングモールが集まる。そんなわけで、台北市内のなかでも比較的大型の空間を擁するアートスペースが多いのがこの内湖~大直エリア。松山空港から直通のMRT(台北メトロ文湖線)も通っており、羽田→松山空港到着の場合は、まずはこのエリアから見て回るのがおススメだ。

オフィス街だけに、夕方の渋滞に巻き込まれないようまずはカフェが併設された内湖の複合アートスペース文心藝所(Winsing Art Place)でランチかお茶の時間にしてはどうだろう。

文心藝所 外観 提供:文心藝術基金會(Winsing Art Foundation) Photo © ANPIS FOTO
文心藝所工坊 ロニ・ホーン個展展示風景 提供:文心藝術基金會(Winsing Art Foundation) Photo © ANPIS FOTO

このエリアのもっとも東側に位置する文心藝所は、建築やアート関係の書籍を中心にセレクトした書店、カフェ、展示空間が一体となった複合アートスペースだ。ちょっと変わったシステムを取っていて、展示を見るのは無料だが、2階の書店に入るのには$150の入場料を支払う必要がある。本を購入したり、カフェメニューから何かを注文したりすると、$100引いてくれる。数ヶ月ごとに変わる展示はオーナーのコレクションを中心に、作家を招聘し、他機関から作品の貸借も行う本格的な個展で、これまでヤン・ヘギュ、モナ・ハトゥム、アンリ・サラ、ロニ・ホーンなどを開催している。また、周囲の気候条件と連動して水槽内部が可視化されるピエール・ユイグの作品《サーカジアン・ジレンマ(Circadian Dilemna)》が常設されており、運が良ければ観賞することができる。

文心藝所から徒歩で約17分の場所にあるのが、2014年オープンの伊日藝術計劃(YIRI ARTS)および伊日後楽園(BACK_Y)。タクシー利用かYoubikeが便利。

YIRI ARTS 外観 撮影:編集部

そのままレンタサイクルで13分か、またはタクシーに乗り8分ほどで、アートスペース密集エリアへ。MRTなら「西湖」から「剣南路」にかけての3キロ圏内で10軒ほどのアートスペースを見ることができる。尊彩藝術中心(LIANG Gallery)は、1993年設立の現代美術ギャラリーだが、陳澄波、顔水龍、ミニマリストのリチャード・リン(林壽宇)、伝統織物を扱うタイヤル族のYuma TARU、シュウ・ジャーウェイ(許家維)など日本統治時代より活躍した台湾近代美術から現代美術アーティストまで幅広く扱う。日本の青木淳が内装を設計したTAO ARTは、コレクターの父娘によって運営されており、台湾の女性アーティストに特化した展示なども行ってきた。2023年初夏より、フランス人アーティスト、ローラン・グラッソの台湾初の個展が開催されている。

台湾の現代美術ギャラリーを代表するアートスペースのひとつ、文湖線西湖駅から徒歩6分のTKG+は、中華圏の近現代美術を扱う商業ギャラリーとして90年代から知られた大未来画廊(Lin & Keng Gallery)を前身として、2009年に移転オープンした耿画廊(Tina Keng Gallery)のサブブランド的存在だ。1階は耿画廊の展示室で、地階にTKG+が、地上2階にTKG+ Projectsの展示室がある。とくに地階の展示室の広さと天井の高さは圧巻で、この空間で展示することが作品に新たな幅や力を与えると、評判が高い。ウ・ティエンチャン(呉天章)、マイケル・リン(林明弘)、ユェン・グァンミン(袁廣鳴)、チャーウェイ・ツァイ(蔡佳葳)、ジョイス・ホー(何采柔)など日本でも知られる国際的な現代美術アーティストが多く在籍する。

耿画廊とTKG+、TKG+ Projectsに通じるエントランス外観 提供:TKG+
TKG+ Projects 「How to Sing Our Songs on Their Land」展示風景 2022 Courtesy of the artists and TKG+ Photo by Wang Shih Pang
TKG+ ジョイス・ホー個展「Counting」展示風景 2023 提供:ジョイス・ホー、TKG+  Photo by Lu Guo Wei 

索卡藝術台北(Soka Art)は、台南と北京にも支店がある。安卓藝術(Mind Set Art Center)は和平東路で12年ほど運営後、昨年当エリアにスペースを広げて移転、台湾内外の現代美術の紹介に尽力している。また40年以上の老舗である亞洲藝術中心(Asia Art Center)も市内中心部から3年前に移転したところで、天井の高い大きな展示室をいくつも持つ。そこから徒歩で采泥藝術(Chini Gallery)を経由して、ベテランキュレーター、ショーン・フー(胡朝聖)が代表を務める、台湾内外のアーティストを幅広く扱う双方藝廊(Double Square Gallery)に行ってみよう。また、双方藝廊のオーナーでもある、忠泰美術館を運営する建設会社忠泰グループが剣南路駅近くに2023年オープンしたのが「NOKE 忠泰樂生活」。展示空間を併設するショッピングモールで、「微風」デパートのラグジュアリーと「誠品」の“文青”(文学青年の略で、文化的なライフスタイルを好む台湾の若者のトレンド)感の中間といった雰囲気だ。

NOKE 忠泰樂生活 提供:栖来ひかり

第2回ではC-LABがある板南線エリアなどを紹介予定。ぜひあわせて読んでほしい。

*1──近日中に解散、活動停止予定。8人のメンバーから成るオルタナティブスペースであるVT ArtSalonは7月22日、メンバーのひとりで今年度のディレクターであったアーティストミッキー・チェン(陳文祺)が複数名から過去のセクハラを訴えられていることを受けて彼を除名、数千万円の助成を受けて進行中のプロジェクトも中止し、グループを解散、活動も停止することを発表し、謝罪した。今年5月から台湾では#MeToo運動が盛んになっており、本事案もこうした流れに位置付けることができる。(追記:2023年7月27日)

岩切澪+栖来ひかり

岩切澪+栖来ひかり

岩切澪(いわきり・みお) 1971年生まれ。同志社大学文学研究科美学および芸術学専攻博士課程前期課程修了。2000年より台湾在住。2002年〜2006年アジア・アート・アーカイヴ(香港)台湾担当研究員。1999年より日台の美術専門メディアにて現代アートについてのレビューや書評などを執筆。2010年前後からは、教育や農も含めた、芸術をより広く捉えた文筆活動を、翻訳と編集を中心に進めている。/栖来ひかり(すみき・ひかり) 文筆家,道草者。1976年生まれの山口県出身。京都市立芸術大学美術学部構想設計卒、2006年より台湾在住、台湾に暮らす日々旅のごとく、失われていく風景や忘れられた記憶を見つめ、掘り起こし、重層的な台湾の魅力をつたえる。著書に『台湾りずむ~暮らしを旅する二十四節気』『台湾と山口をつなぐ旅』(西日本出版社)、『時をかける台湾Y字路~記憶のワンダーランドへようこそ』(図書出版ヘウレーカ)、『日台万華鏡~台湾と日本のあいだで考えた』(書肆侃侃房)など。ブログ:台北歳時記 https://taipeimonogatari.blogspot.com/