子供と一緒に美術館におでかけはいかが?【東京編】に引き続き、千葉県、神奈川県、埼玉県、茨城県からおすすめ美術館をピックアップした【関東編】をお届け。美術館の方にもご協力いただきながら集めた、子供と楽しむおすすめポイントやユニークな取り組みをご紹介します。さあ、子供と一緒に美術館に遊びに行こう!
千葉県一の貯水量を誇る人口湖高滝湖、その湖畔にある「市原湖畔美術館」。2013年の開館以来、市内の幼稚園、保育園、小学校から絵を公募する「市原湖畔美術館子ども絵画展」が毎年2月~3月に開催されている。この展覧会のユニークな所は、ゲストアーティストを呼び、ともに展覧会のテーマを考え、審査にあたり、会場構成を考え、子供たちの絵とコラボレーションしていること。松井えり菜、鴻池朋子、成田久、鬼頭健吾、長谷川仁、KOSUGE1-16など、現代美術の一線で活躍するアーティストを呼び、子供と触れ合う機会をつくる「普通」ではない絵画展だ。
「じがぞう(自画像)」をテーマに「市原ぞうの国」とコラボレーションし、美術館を湖畔にたたずむ宮殿に見立て、自画像約300点を宮殿絵画のように並べた松井えり菜「市原じがぞうの国」(2024)や、「選ぶ」審査をやめ「なぜ人はものをつくるのか」という根源的な場所に立ち戻り、語り合う展覧会をつくった鴻池朋子「人間いがいのもの、人間がつくったものいがいのもの」(2023)など、丁寧な問いを重ねた展示は、子供だけではなく大人も楽しめる。
子供と市原湖畔美術館に遊びに行った際には、企画展だけでなく恒久展示も楽しみたい。屋外作品や彫刻はさわって鑑賞ができる作品も多く、美術館のなかを探検するように作品を見ていくことができる。親子で参加できる様々なワークショップも開催されており、恒久作品である木村崇人《星ぶどう》のぶどうの収穫を楽しみ、作品制作するワークショップなども楽しい。
授乳室あり、おむつ交換台あり
2020年7月にリニューアルオープンした千葉市美術館。おすすめしたい点は、企画展の子供向け鑑賞用ツールが用意されていること。楽しみながら鑑賞できる工夫が込められたツールが企画展の度に用意されている。著者が子供と一緒に千葉市美術館で鑑賞した時も、問いかけながら一緒に絵を見ることで、子供だけではなく大人も、普段と異なる目線で絵を観る時間になった。
また、4階の「つくりかけラボ」は「五感で楽しむ」「素材にふれる」「コミュニケーションがはじまる」をテーマに、様々なアーティストが滞在制作し、訪れた人々と関わりながらインスタレーションを制作する場所。空間が常に変化し続けるクリエイティブな「つくりかけ」の場所で、のびのびと子供から大人まで表現に参加することができる。
そのほか、子供がいちばん最初にアートに触れる=絵本をはじめ、美術にまつわる本や児童書を中心に4500冊を揃えた「びじゅつライブラリー」や、絵具あそびや陶芸、ダンスに演劇など、様々なワークショップが開催される「みんなでつくるスタジオ」など、一緒に楽しめる場もたくさん! 最後にお伝えしたいのが、1歳半~就学前の子供は託児サービスを無料で利用できる「ちばしび託児サービスデー」が企画展ごとに1~2回開催されていること。ほかの美術館でも託児サービスは増えてきたが、無料で開催している美術館はなかなか珍しく、素晴らしい取り組みだ。
授乳室あり、おむつ交換台あり(多目的トイレ)、ベビーカーレンタルあり
埼玉県立近代美術館では「MOMASのとびら」として、「わくわく鑑賞ツアー」、未就学児向け「み~っけ」、小中学生向けに作品を鑑賞し制作する「みる+つくる」、対話しながら鑑賞する「親子クルーズ」、「工房」など、様々な年齢が参加できるプログラムが開催されている。
著者がグッときたのは、親子で屋外彫刻を洗浄する「彫刻あらいぐま」。2002年に彫刻が壊され、ボランティアによる彫刻を守る活動が始まったことをきっかけに、2006年に開始した人気プログラム。洗う彫刻は毎回異なり、素材によって時には高圧洗浄のできる機械で汚れを落としたり、環境に優しい洗剤を使ってスポンジで洗うことも。面白いのは、洗う前と洗った後に鑑賞活動を行い、彫刻をじっくり見ること。洗うことで、その後も彫刻のことを気にかけてくれる人が多いのだという。
埼玉県立近代美術館では、近代以降の優れたデザインの椅子を収集し、常時数種類を館内に展示している。展示される椅子は定期的に変わり、鑑賞するだけではなく自由に座ることができる。コミックスの表紙や作中に近代の名作椅子が登場する人気漫画『SPY×FAMILY』に登場した椅子に座ることも! HPで「今日座れる椅子」をチェックして出かけると楽しい。
これから夏休みに向けて「MOMASステーション」(7月13日~8月27日)が美術館入口に設置される。美術館を鑑賞する宿題などをお手伝いしてくれるボランティアさんが常駐し、無料のワークシートも配布される。「MOMASのとびら」夏休み拡大版の特別プログラム「サマーアドベンチャー」も開催。夏休みのおでかけにぴったりだ。
授乳室あり(バックヤード側のため、スタッフに声をかけてください)、おむつ替えスペースあり、ベビーカーレンタルあり
「想像力とアニマに遊ぶミュージアム」をコンセプトに、2020年11月に埼玉県所沢市にオープンした角川武蔵野ミュージアム。図書館と美術館と博物館が「まぜまぜ」になった複合文化施設だ。
エディットタウンのブックストリートには、種類別ではなく、この館独自の分類法によって25000冊の本が配架されている。辞書も児童書もマンガも絵本も、まぜこぜに置かれた生き物のような本棚で、大人も子供も本との出会いを楽しむことができる。同じくエディットタウン内、荒俣宏監修の「荒俣ワンダー秘宝館」には、UFOのかけらや鼻で歩く動物、巨大マンモスの牙、自然の美しさを体感できる昆虫標本など、視覚と感覚で楽しめる多種多様な展示品が並び、子供のセンス・オブ・ワンダーをくすぐる。「マンガ・ラノベ図書館」には、児童書・絵本のコーナーも。ここでは、小さな子供を対象とした絵本のよみきかせ会が定期的に開催されている。
そんなミュージアムを象徴する「まぜまぜ」の風景は、美術館の外にも広がっている。隈研吾がデザイン監修を手掛けた
美術館の建物周りにある水を張った水盤が、夏には「じゃぶじゃぶ池」として開放されるのだ。地域の子供連れやインバウンドの観光客が、水盤で遊び、美術館を背景に記念写真を撮るまさにカオスな風景は、角川武蔵野ミュージアムの夏の風物詩のひとつになっているのだという。タオルや着替えを用意しておでかけしても楽しい。夏休みには、広場にキッチンカーなども出展し、毎週末にさまざまなイベントも開催される。
授乳室あり、おむつ替えスペースあり。4階はベビーカーでは入場ができないため、赤ちゃんと一緒の場合は、抱っこひもがおすすめです。
8月1日に55周年を迎える彫刻の森美術館。木造ドームのなかに、カラフルな手編みのネットがいくつもつなぎ合わされた巨大なハンモックのネットの森や、目玉焼きのオブジェなど、楽しい彫刻作品がいっぱい。子供たちが遊ぶことができる造形作品・造形作品が展示されていて、森を散策しながら、遊びのなかで色彩や光の生み出す美しさや造形の面白さを発見することができる。
館内を巡りながら、彫刻を見つけてシールを貼るストーリー仕立ての「シールラリー」も親子連れには人気のプログラム。シールラリーは今年の7月にリニューアル予定で、新バージョン「みんなでさがそう 森のおとしもの」が登場予定だ。
また、55周年を記念して、7月下旬には彫刻の森美術館の「足湯」がリニューアルされる。彫刻の森美術館が立地する箱根ならではの敷地内から湧きだす源泉100%かけ流しの足湯。トラフ建築設計事務所と園田慎二建築設計事務所がデザインした足湯は、箱根の森の景色を一望でき、鳥の声や沢の流れや風の音を感じながらくつろぐことができる。
授乳室あり(新館インフォメーション)、おむつ替えスペースあり、ベビーカーレンタルあり
「ケアリング/マザーフッド:「母」から「他者」のケアを考える現代美術 ―いつ・どこで・だれに・だれが・なぜ・どのように?―」も記憶に新しい水戸芸術館 現代美術センター。地域の人と関わりながら、様々な教育普及プログラムに先駆的に取り組み続けている。
ご紹介したいのは館内案内係や育児ボランティアが案内をしてくれる「赤ちゃんと一緒に美術館散歩」。その歴史は長く、2000年に親子向けの託児プログラムで保護者のグループができたことや、美術館側の館内案内係のスキルを活かしたプログラムの要請が重なりはじまった。「土日は家族がいるが、平日に子供と出かける場所が無い」という声をもとに平日開催するなど、参加者とともにプログラムを作り続けてきた。会場が暗い場合や展覧会内容によっては、別室で託児の場合がある。これには「子供が小さい頃は水戸芸の暗がりを怖がっていた」という担当者の子育て経験も活きている。
2年前から開催されている「造形実験室」は、1ヶ月に1度、2日間に渡って開催される無料の造形ワークショップ。毎回異なるテーマや素材で様々な創作活動を行う。「予約が無いほうが気軽に参加しやすい」という声を元に、気軽に誰でも立ち寄れるかたちで開催。完成物が決まっているワークショップではなく、「からっぽ」「かぜ・くうき」「くるくる」など、色々な解釈ができるテーマを設定し、素材と遊びながら自由に創作できる場を作っている。
地域の高校生の無料招待企画として90年代から始まった「高校生ウィーク」は、ボランティアの高校生たちが運営に参加するカフェが1ヶ月間ギャラリー内に出現し、展覧会と連動したワークショップや読書、裁縫などのプログラムが展開されるゆるやかな場。「高校生ウィーク」をきっかけに、のちにアーティストやデザイナー、キュレーター等になり、水戸芸術館と仕事をする人、赤ちゃんを連れて鑑賞ツアーに参加する人などの循環やつながりも生まれているという。
おむつ替えスペース(トイレに簡易ベッド)あり、ベビーカー貸し出しあり、授乳コーナー(展覧会会期中会場内に臨時のものを開設、詳しくはお問い合わせください)
*Tokyo Art Beatでは展覧会・イベントページで「#子連れで行きたい」展覧会の情報を随時更新中。こちらのタグをぜひチェックしてほしい。