会場風景より
上野の東京都美術館で、20世紀を代表する巨匠、ジュアン・ミロの大規模展覧会「ミロ展」が開幕した。会期は3月1日から7月6日まで。
ミロは1893年バルセロナ生まれ。1920年代にシュルレアリスムの画家として名声を得るが、それにとどまらず様々な表現を試みた。90歳で亡くなるまで、特定の運動に属することのない純粋で普遍的な芸術を追求し、20世紀でもっとも影響力のある芸術家のひとりとなった。本展は、1966年に画家自身が協力した展覧会以来、日本での最大規模のものとなる。
ミロは1918年にバルセロナで初めての個展を開催した。そこに並んだ作品はキュビズムの影響を感じさせるいっぽう、色彩はフォーヴィズムやセザンヌを思わせるものだった。初期の作品にはカタルーニャ人としてのアイデンティティが色濃く反映されており、伝統的な風景と前衛的な表現が見事に融合していた。
本展では、初期の名作《ヤシの木のある家》(1918)、1920年代の傑作《オランダの室内I》(1928)、晩年の挑戦的な作品《焼かれたカンヴァス2》(1973)など、各時代を代表する作品が世界中から集結する。
見どころのひとつはミロの代表作である「星座」シリーズの3点の特別展示だ。本シリーズは、1940年から1941年にかけて戦火を逃れるなかで制作された全23点の作品群であり、夜や音楽、星といった要素から着想を得ている。現在、各作品は世界各地に分散しており、複数の作品を一度に鑑賞できる機会は極めて貴重だという。
ミロの文化的、社会的、そして政治的な活動にも焦点が当てられている。たとえば、1960年代から1970年代にかけて、彼はリトグラフを用いたポスターを数多く制作し、スペイン社会の希望や要求を視覚的に表現した。また、1974年にはFCバルセロナの創立75周年を記念するポスターも手がけることになる。ポスターを通じた社会・政治・文化への積極的な関与は、ミロの芸術活動において重要な位置を占めていると言える。
晩年のミロは、西洋の伝統的な絵画技法に改めて挑みつつ、オブジェや新たな支持体を用いることで、若い頃に試みた芸術の脱神聖化をさらに推し進める決意を固めた。1960年代には、新世代のアメリカ人芸術家たちから影響を受け、より大規模な作品に取り組むようになり、筆遣いも身体の動きを直接反映させる大胆なものへと変化していった。
《花火 I、II、III》(1974)では、バケツやビンに入った絵具を勢いよくまき散らし、絵具を塗ったボールを投げつけ、ほうきや塗装用ブラシを駆使するなど、従来の手法にとらわれない表現を追求した。また、《焼かれたカンヴァス2》(1973)のように、カンヴァスを燃やしたりナイフで切り裂いたりする実験的な手法もこの時代に行っている。絵画の本質を探求し続け、新たな表現の可能性に果敢に挑み続けたミロは、晩年に至るまでその革新的な姿勢を貫き通した。
ミロの多彩な創作活動を包括的に紹介し、その魅力を余すところなく伝える本展。政治的・社会的出来事への鋭い感受性と反骨精神が色濃く反映された作品をぜひ見てほしい。
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