公開日:2024年8月9日

元気になるアート、栗林隆《元気炉》がAOMORI GOKAN アートフェス2024に登場! 原子炉型のスチームサウナが、青森県立美術館など5館を巡る

栗林がタイで体験した薬草スチームサウナを作品に活用した、“元気になるアート”。作品を体験した後は特製ハーブティも楽しめる

《元気炉》と栗林隆。青森県立美術館にて

青森県内で現代アートを扱う5つの美術館・アートセンター(青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森、弘前れんが倉庫美術館、八戸市美術館、十和田市現代美術館)を中心に、5館共同で初となる芸術祭「AOMORI GOKAN アートフェス」が行われている。テーマは「つらなりのはらっぱ」。会期は9月1日まで。

青森県立美術館の掲示

この芸術祭の一環で、栗林隆《元気炉》が各館に出現。8月9日〜9月1日の期間で青森県立美術館を皮切りに、青森公立大学 国際芸術センター青森、八戸市美術館、十和田市現代美術館、弘前れんが倉庫美術館へと巡回していく。

《元気炉》と栗林隆

空間の内と外、自然と人間、人間同士の間にある境界など、あらゆる時代や場所に存在する「境界」に目を向け、その意味を問い直すような作品を制作してきた栗林。2020年から発表を続ける《元気炉》は、原子炉の形状をした構造物に薬草の香りを帯びた蒸気を発生させ、観客が中に入ってスチームサウナのような体験ができる作品だ。

薪に着火

かつてダイビングのインストラクターとして活動していた栗林はタイで薬草を用いたスチームサウナの存在を知り、体のメンテナンスのために度々通っていという。「不調のときに薬草スチームサウナに入ると必ず元気になるんです。それから何十年も自分の作品にサウナを取り入れたいと思っていました」。

その土地土地で用いる薬草は異なる

転機となったのは2011年の東日本大震災。数年にわたって被災地を訪れていた栗林は、不思議と被災地の人々に元気付けられ、励まされるような体験を得たと振り返る。「原発賛成・反対、白黒ではなく、原発を違うかたちで昇華したかった。アーティストとして“ビヨンド原子炉”として、スチームサウナの機能を持つ作品を何十も作るというコンセプトでスタートしました。サウナの後、みんなが異常に元気になるので“原子炉じゃなくて元気炉だね”と、自然に作品タイトルが決まったんです。原子炉も元気炉も、エネルギーの素が核融合か薪なのかという違いがあるだけでやっていることは同じです」。今回展示される《元気炉》は「4機目」だという。

《元気炉》の中へ

薪に着火後、1時間ほどで作品体験の準備は整う。薬草は各地域に自生しているものを使用すると言い、青森県立美術館ではビワや笹の葉を使用。中に入れば視界を遮るほどのスチーム量に驚くが、フワっと優しい香りが立ちこめリラックス効果が感じられる。体験翌日には肌の調子が良くなり足のむくみが取れるなどの効能もあるため、女性のリピーターが多いそうだ。作品体験後は副次的に生成されるハーブティを楽しめるというおまけつき。

数名が体験できる空間
取材のためドアを開けっぱなしでもこのスチーム量

栗林は「この作品を見ただけでは作品を知ったことにはならない。入ってもらえないと語れない。視界が閉ざされ、匂いや音が強調して感じられ、そして元気になる体験をぜひ一度味わってほしい」とアピールした。

体験後のハーブティ

なお、「Aomori GENKI-RO Tript」では、《元気炉》や映像作品の展示とともに、音楽家・辰田翔と地元を拠点に活動する奏者たちとのライブ演奏、さらにエリアごとにドリンクやフードの出店もあり、アーティストと参加者がともに楽しめる企画となっている。参加費無料(飲食費別)。

青森県立美術館
展示期間:8/9〜8/11 *8/10 はナイトミュージアム開催、夜間開館
場所:創作ヤード(屋外トレンチ)
作品稼働日:8/9 18:00〜21:00、8/10 18:00〜20:00
イベント:8/9 は青森県庁ねぶた実行委員会囃子方とのコラボレーションによる音楽イベントを実施します。8/9、10 は「青い森珈琲焙煎所」によるキッチンカーが出店します。

青森公立大学 国際芸術センター青森
展示期間:8/14、8/15
場所:展示棟 水のテラス付近
作品稼働日:8/14、8/15 両日18:00-20:00
イベント:8/14、15 ともに民謡と三味線による音楽イベントを実施予定です。8/14 は焼き鳥屋台と飲み物の出店を予定しています。

八戸市美術館 ※展示のみ
展示期間:8/18 10:00〜21:00 、8/19、21 両日10:00-19:00
場所:美術館内「スタジオ」
イベント:5館で唯一、本作を屋内で展示する八戸市美術館。音楽や、各館展示の様子をまとめた映像と共に作品を鑑賞いただきます。また8/18 は作品の中に特設されたバーや、美術館広場でフードを販売します。

十和田市現代美術館
展示期間:8/24、8/25
場所:美術館 前庭
作品稼働日:8/24 17:00〜19:00
イベント:8/24 の17:00〜は、十和田市内で活躍している音楽バンドによる演奏を行います。併せて美術館併設のカフェcube では営業時間を延長し、ソフトドリンクやアルコール、栗林氏の関連グッズを販売。《元気炉》周辺には、手押し車に木造の屋台テーブルを乗せた作品《YATAI》を展示し、《YATAI》を囲みながらドリンクを提供します。

弘前れんが倉庫美術館
展示期間: 8/28〜9/1
場所:土淵川吉野町緑地(弘前れんが倉庫美術館前)
作品稼働日:8/30〜9/1 全日17:00〜20:00 *8/30、31 は夜間開館
イベント:8/30、9/1 は、弘前ゆかりの音楽家や、自ら制作した土器の太鼓「縄文太鼓」をジャポニズムとアフリカンを融合した独自の演奏スタイルで独奏する太鼓演奏家・茂呂剛伸が登場します。8/30から9/1まで、L PACK.によるイベント《いっしょくたにへば たげめぐなるはんで》を開催。オリジナルの屋台で、コーヒーやクラフトビールが楽しめます。


野路千晶(編集部)

野路千晶(編集部)

のじ・ちあき Tokyo Art Beatエグゼクティブ・エディター。広島県生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、ウェブ版「美術手帖」編集部を経て、2019年末より現職。編集、執筆、アートコーディネーターなど。