宮城県石巻を舞台に、2016年より2年に1度行われてきたアート・音楽・食の総合芸術祭「リボーンアート・フェスティバル」(RAF)。その3回目が8月11日開幕した。キュレーターは窪田研二。
震災から10年目となる今回は、2021年夏と2022年春の2期に分けて開催。今回の夏会期は、石巻市街地、女川、桃浦、荻浜、小積、鮎川の計6エリアで23組のアーティストの作品が展示されている(常設作品のアーティストは除く)。その中からいくつかのエリアと見どころを紹介していこう。
まずは、石巻の中心地である市街地エリア。東日本大震災後、新たなアートスペースが続々と生まれ再生が進むこのエリアでは、雨宮庸介、大友良英、片山真理、髙橋匡太、⻄尾康之、廣瀬智央、バーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカ、HouxoQue、MES、マユンキキが作品を展示している。
震災以降10年間、人の手が入らず忘れ去られた廃墟を併設する旧千人風呂や、かつてサウナとして親しまれた旧サウナ石巻、石巻の小学生は必ず通うと言っても過言ではないというプレナミヤギ アイススケート場など、特色あるロケーションに作品がインストールされている。
アイヌ語で「生きる、死なずにすむ、命を取り留める、生き返る」という意味を持つ言葉を作品タイトルに冠し、日本におけるアイヌに対峙するマユンキキ《SIKNU シㇰヌ》(2021)、地下の薄暗いラドン風呂跡にて、人間が何かを信じること、恐怖心や執着から派生する願望や快楽について問いかける⻄尾康之《磔刑》(2021)《唐櫃》(2015)、人種、性別、アイデンティティなどをテーマに、若者たちのダンスを描くバーバラ・ヴァーグナー&ベンジャミン・デ・ブルカ《Swinguerra》(2019)など、力強い作品が揃うエリアだ。
穏やかな海と山に囲まれた小積エリアでは志賀理江子+栗原裕介+佐藤貴宏+菊池聡太朗の作品《億年分の今日》(2021)を見ることができる。志賀は2019年より小積浜の鹿肉解体処理施設「フェルメント」周辺を舞台に、施設を運営する食猟師・小野寺望とともに継続的に活動を続けてきた。今年はエリア全体に広がる作品を展開。湿地化した土地に空気を送るために掘られた溝は縦横無尽に伸び、掘削土は畑として利用される。
作品全体が牡鹿半島の「地図」となって、作品と自然がどのように結びつきうるかを考えているという志賀。土地に根を張り長期にわたり場所と作品に向かい続ける作家の試行と展開は、今後も継続して見ていきたいと思わせる迫力がある。
リボーンアート・フェスティバルを象徴する作品でもある名和晃平《White Deer(Oshika)》(2017)が悠然と佇むのは、牡蠣殻からなるホワイトシェルビーチが印象的な荻浜エリア。ここでは狩野哲郎、小林万里子、片山真理、布施琳太郎の作品が集まっている。
今回のRAFで最年少作家の布施琳太郎は、第二次世界大戦中に荻浜につくられた秘匿壕(人工の洞窟)の中に作品《あなたと同じ形をしていたかった海を抱きしめて》(2021)を設置。大きなバルーンに、それ自体を手で包み込むようなペインティングが施されている。
牡蠣の養殖がさかんな漁村である桃浦エリアでは、2018年に廃校となった旧荻浜小学校の教室、体育館、校庭に作品が揃う。参加作家は岩根愛、篠田太郎、サエボーグ、SWOON、夏井瞬、森本千絵×WOW×小林武史。
離れた土地の見えないつながりを発見し、結び直すような眼差しでフィールドワーク的活動を続けてきた岩根愛が人と鮭の関係をテーマに2つの物語を交差させた《Coho Come Home》(2021)、人間と自然、生命の誕生と死、人間が抱えるトラウマやそこからの解放をテーマとした、SWOONの詩的なフィルムアニメーション《CICADA》(2021)などのじっくり鑑賞したい映像作品。RAF実行委員長である小林武史が参加した作品《forgive》(2021)もここで展示されている。
旧荻浜小学校は、被災により児童が激減したことが廃校へとつながった。校舎に残る写真や標語は廃校と呼ぶにはまだ新しく、そのロケーションが震災はたったの10年前であることを生々しく伝えてくる。
今回のRAFで新たな展示エリアに加わったのは、震災でほぼすべての建物が倒壊するという壊滅的な被害を受けたことでも知られる女川エリア。「復興した様子を見てもらいたかった」とキュレーターの窪田が話すこのエリアには、会田誠、オノ・ヨーコ、加藤翼が作品が展示されている。
元旦の初日の出が駅舎を照らすように設計されている女川駅周辺。坂茂設計の女川駅から商店街(シーパルピア女川)に目をやると、その視線の先には海が見えるという見晴らしのよさが魅力だ。その海を眺めるように設置されているのは、会田誠《考えない人》(2012)。会田のオリジナルキャラクター「おにぎり仮面」がロダン《考える人》や《弥勒菩薩半跏思惟像》を思わせるポーズを取る本作は、楽観的・なまけ者・いい加減という日本人の実際の性質が投影されているというが、場が持つ意味や文脈すべてを無効化するような脱力感が見どころだ。
津波で倒壊転倒した姿のまま残る旧女川交番の前では、オノ・ヨーコが世界各地で続けてきた願いの木《Wish Tree》(1996/2021)、女川町海岸広場周辺では、加藤翼《Surface》(2021)が震災で海底に残された車を引き上げる様子をとらえた《Surface》(2021)が展示されている。
今回のRAFのテーマは「利他と流動性」。小林武史は本芸術祭の役割について「震災から10年を経た今、コロナ時代のなか、人間が知りえること、コントロールできることなどたかが知れていると自戒の念を持つに至った今、自然の、宇宙の一端であることとつながりを想像力と創造力で補って、描いて、喜びを持って、楽しんで、記憶に残していくこと」だとステートメントの中で述べている。コロナ禍の今だからこそ、RAFを通して想像力と思索の旅はいかがだろう。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)