公開日:2020年9月11日

レポート:これからの国際展はどうなるのか? 連続ウェビナー「『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー」

新しい時代のアートの発信のあり方について議論する連続シリーズ「文化庁アートプラットフォーム事業 連続ウェビナー:コロナ以降の現代アートとそのエコロジー」(全5回)。その第2回「『コロナ以降』の国際展とは?」が9月10日に行われた

コロナ禍において、アート界の様々な立場の人々が対峙している個々の課題を通して、どのような問題や可能性を明らかにすることができるのか? このことを前提に、具体的なアイデアの交換やポスト・コロナ時代の海外発信のあり方や将来の共同研究、新しい時代にふさわしい国際的な展覧会のあり方を視野にいれた議論へとつなげていく文化庁アートプラットフォーム事業の連続ウェビナー「『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー」が始動。その第2回が9月10日に行われた。

第1回「美術分野におけるコロナ以降の海外発信、国際交流とは?」に続く第2回のテーマは、「『コロナ以降』の国際展とは?」だ。

アーティストや関係者の渡航、リサーチ、レジデンス、輸送・展示設営、さらには地域コミュニティとの交流などが前提となる国際展は、「コロナ以降」にそのあり方を変え、この状況は、国際展の開催意義そのものについても再考を促すこととなることが予想される。この第2回では、植松由佳(国立国際美術館 主任研究員/日本現代アート委員会 副座長)をモデレーターに、逢坂恵理子(国立新美術館 館長/横浜トリエンナーレ 組織委員会 副委員長)、ユン・マ(ソウル・メディアシティ・ビエンナーレ アーティスティック・ディレクター)、藤川哲(山口大学 人文学部 教授)が登壇。プレゼンテーションと議論を行なった。

左から植松由佳、逢坂恵理子。ディスプレイ左から、遠隔参加のユン・マ、藤川哲

まず、タイトルにある「国際展」とは、ヴェネチア・ビエンナーレをはじめ世界各地で行われる国際芸術祭を指す。日本には約20の国際芸術祭があり、10月11日まで開催中の横浜トリエンナーレもそのひとつだ。コロナ禍で多くの芸術祭が延期や中止になるなかでヨコトリが開催される理由について国立新美術館の館長で横浜トリエンナーレ組織委員会副委員長である逢坂恵理子は、「アーティスト支援が目的」だと話す。また、2011年の東日本震災後に開催されたヨコトリに多くの来場者があったことなども気持ちを後押しし、「実現することが大切だと実感した」と振り返る。

韓国から遠隔参加したユン・マは、コロナ禍の現状は「TIME」という言葉に集約されると言う。これは、多くの人々が人生を見つめ直すことに時間を費やし、困難な状況下で新たな方法を模索することに時間を費やすなか、この時間を受け入れ、賢く使うことが重要だという意味だ。コロナ禍をきっかけに解雇が相次ぐアメリカの美術館を例に、美術館における資金調達や教育普及の重要性についても提言した。

ユンは続いて、美術館や展覧会を取り巻く状況についても言及。これまで3〜4ヶ月の会期が通常だった企画展会期を長くすること、展覧会を同時開催することへの懐疑、パブリックコレクションを活用していくべきなど、長期的な観点から持続可能なスタイルを模索していくべきだと提案した。

いっぽう、自身がディレクターを務め、今年の5月に開催予定であったソウル・メディアシティ・ビエンナーレは来年の9月に延期。仕切り直しとなったこのビエンナーレは、来場可能な地元の人々に向けた、よりローカルなものにしていくという。

ユンとともに遠隔参加した山口大学教授の藤川哲は、ヴァルター・ベンヤミンの「歴史の概念について(歴史哲学テーゼ)」の一部を朗読。その中には「この嵐が彼を、背を向けている未来の方へ引き留めがたく押し流してゆき、その間にも彼の眼前では、瓦礫の山が積み上がって天にも届かんばかりである」という一節があるが、山口は、コロナ禍での心境をその一節に重ね合わせていたと言う。

プレゼンテーションの中では、今年延期や中止となったさまざまな国際展を紹介するとともに、2度の世界大戦を含め5度の中止や延期を経てきたヴェネチア・ビエンナーレを例に「パンデミックでの中止、延期は数ある中断の一時例でしかない」と主張するとともに、コロナ禍は現代美術やアート界を見直すプリズムであると表現。これからの国際芸術祭のモデルケースとして、ケルン彫刻公園で行われるケルン・スカルプチャーや、個展形式の芸術祭「in BEPPU」を挙げた。

会場の様子

続くディスカッションでは、モデレーターの植松から登壇者へと質問が投げかけられた。まずは、人の移動が困難な中での「国際」はいかに意味をもつのか?という質問。これに対して逢坂は、「日本に住む私たちにとって、海外と結びつく意識は内向きにならないためにも重要。また、国内外のアートに触れることでアーティストの考え方や動向を知ることができ、対立と分断を乗り越えるプラットフォームとしてのアートを通して、多様性の受容と相互理解を促進できる」として、閉塞感と内向き志向を突破するためにも国際感覚とアートは重要であると主張した。

ヨコトリを開催した理由のひとつでもある、五感を駆使し、会場で作品を体感することの重要性についてはユンも同調。来年のソウル・メディアシティ・ビエンナーレはオンラインプログラムなどを折り込みながらも、「可能なかぎり身体的な体験を訴えていきたい」と話した。

いっぽう、移動困難な状況下で、国際展に必要不可欠な各地でのリサーチはどうするか、そして国際展はいかに実現されるのか? これについては、「屋外メインの展示」「個展形式の芸術祭」「海外のネットワークを利用し、その土地土地の人々と連携してプログラムを構成する」などの意見が上がりながらも、「リサーチは難しいかもしれない「難しい状態で無理やり国際展をする必要はあるのか?」などの懐疑的な発言も目立った。

また、雇用問題について逢坂は、3年に1度というヨコトリにおいても「持続可能な組織運営やスタッフ雇用ができないかを考えている」とし、知識の継承のためにもそれらは重要であると述べた。

シンポジウムの最後では、「今は原点に戻る時期。国際展は継続することが一番大切」「ウイルスに囚われるのではなく、現在は進化のための時期であると思いたい」「今は、これまでの問題点を考えるための時間」として、それぞれの登壇者は締めくくった。

ウェビナーの今後の予定は、第3回「『コロナ以降』の展覧会づくりとは?」(仮、10〜11月頃予定)、第4回「『コロナ以降』の美術とは?アーティストの視点から見る表現・支援の課題」(仮、12〜1月頃予定)、第5回「コロナ禍が浮き彫りにした経済的・社会的構造の変化と文化施設の関係性」(仮、1〜2月頃予定)のラインナップとなっている。

シンポジウム各回の様子は後日、編集後に動画や音声で公開予定だという。

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