公開日:2020年9月11日

連続ウェビナー「『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー」が始動:コロナ以降の海外発信、国際交流とは?

文化庁が推進する「アートプラットフォーム事業」が、新しい時代のアートの発信のあり方について議論する連続シリーズ「文化庁アートプラットフォーム事業 連続ウェビナー:コロナ以降の現代アートとそのエコロジー」(全5回)を開催。

世界各地の美術館、現代アート関係者に多大な困難をもたらしているコロナ禍。様々な立場の当事者が対峙している個々の課題を通して、どのような問題や可能性を明らかにすることができるのか? このことを前提に、具体的なアイデアの交換やポスト・コロナ時代の海外発信のあり方や将来の共同研究、新しい時代にふさわしい国際的な展覧会のあり方を視野にいれた議論へとつなげていく文化庁アートプラットフォーム事業の連続ウェビナー「『コロナ以降』の現代アートとそのエコロジー」が始動。その第1回が8月7日に配信された。

第1回のテーマは「美術分野におけるコロナ以降の海外発信、国際交流とは?」。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを受けて、臨時休館を余儀なくされた世界の多くの美術館。感染防止体制を整備しての再開以降も、国境をまたぐ活動についてはしばらく制限が続くことが予想されている。「文化庁アートプラットフォーム事業」の目的でもある自国作家の海外発信は、諸外国においても重要な文化政策のひとつだが、コロナ以降の海外発信や国際交流はどのような形になるのか。ドイツ、イギリス、ニュージーランドの文化政策担当者と議論する。

登壇者はペーター・アンダース(ゲーテ・インスティトゥート東京所⻑)、ジュード・チェンバース(クリエイティブ・ニュージーランド国際事業部⻑)、湯浅真奈美(ブリティッシュ・カウンシル アーツ部⻑)。モデレーターは片岡真実(森美術館 館⻑/日本現代アート委員会 座⻑)。

左から湯浅真奈美、逢坂恵理子、ペーター・アンダース、片岡真実。ディスプレイに映るのは遠隔参加のジュード・チェンバース

現在、国際発信自体が可能なのか? イギリス、ドイツ、ニュージーランドの状況についてプレゼンテーションが行われた。

まずは、支援金として15億7000万ポンド(約2100億円)が文化芸術界へ計上されたイギリス。湯浅真奈美は、イギリスは2015年からアート作品や資料のデジタル化を強化しており、オンラインコンテンツが比較的豊富だという現状がある。さまざまなリソースをオンラインで提供可能なため、コロナ禍のここ数ヶ月でオンラインのプログラムを拡充したという。しかしクリエイティブ産業の収入自体は厳しく、770億ポンド(約10.6兆円)減少見込みの大きな打撃となっている。

また、アーツ・カウンシル・イングランドが行った調査では、アーティストが国際的な活動を行うモチベーションの第1位は「異なる文化を経験し、学ぶこと」だとしており、国際的な交流の重要さを主張。オンラインコンテンツなどで工夫をしながら、「異国との交流を止めることなく進めたい」と主張した。

次に、コロナ禍において「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」と文化相が発言したことが話題となったドイツ。ペーター・アンダースは「いままでになく芸術文化について考えられている最高の時代」だと話す。

EU加盟各国が持つ公的な文化機関によって構成される「EUNIC」の調査報告書では、コロナ以降は1:デジタルリソースへの投資、2:政治的・経済的サポート、3:多国間の協力強化が重要であると示され、アンダースは「ニューノーマルとは、新たなエコロジー。ショーケースではなく知識をシェアすることが重要だと思います」と語った。

いっぽう、ニュージーランドから遠隔参加したジュード・チェンバースは、人の移動に制約はあるが、作品やクリエイティブなアイデアは移動ができ、影響がないと主張。「作品、コンセプトは旅ができる」として、アーティストはコラボレーションの可能性を広げて行くチャンスであり、なぜ、世界に向けて作品を発表しているのかを考える時間になるのではないかとの見方を示した。

シンポジウムの様子

パネルディスカッションにおいて片岡真実は、コロナ禍によって社会的に「弱い」立場の人々の脆さが前景化してきたが、各国でそれらに対する議論は発展したか、あるいは新たな議論が生じていれば知りたいと問いかけた。

それに対して湯浅は、イギリスでは1980年代より障害者活動支援が活発化していたが、今回のコロナ禍でそれら支援の手が止まるのではないかとの声が上がり、「#WeShallNotBeRemoved(私たちは削除されない)」といったハッシュタグの活動が生まれたという最近の動きを例示。他方、ネットワーク環境の差により、オンラインのデータへのアクセス状況にも不均衡があることを指摘した。

また、「実空間と比較し、オンラインで人々と関係性を構築することには限界がある」ということを前提に、オンラインの可能性・不可能性について片岡が質問。するとアンダースは現在、ゲーテ・インスティトゥートの空間を美術大学に使用してもらう機会をつくっているという実例とともに、「現在の制約のなかでface to faceのフォーマットに立ち戻る必要がある」と強調。いっぽうチェンバースは、「私たちはアートそのものに立ち戻るべき」と発言し、デジタル上の作品ではなく実際の作品を見せるため、国際巡回展の予算確保に努めていることを明かした。

話題はアーティスト支援の形態にも及ぶ。湯浅は、スコットランドではコロナ禍を機に、作品完成と発表を必須としないアーティスト支援金が生まれたことに触れ「国際交流がフィジカルにできない今だからこそ、来るべき未来のためにどういうふうにサポートできるのかを考えるのが必要だと思う」と語った。

シンポジウムの最後では、コロナ禍における変化とその必要性にも言及。アンダースは今回のコロナ禍がアートマーケットにおける作品価格高騰、増加するアートフェアなどの意味を見直すきっかけになること、チェンバースは、人々の移動が少なくなることで地球環境には良い影響がもたらされていることから、それは継続すべきであると訴えた。

ウェビナーの今後の予定は、第2回「『コロナ以降』の国際展とは?」(9月頃予定)、第3回「『コロナ以降』の展覧会づくりとは?」(仮、10〜11月頃予定)、第4回「『コロナ以降』の美術とは?アーティストの視点から見る表現・支援の課題」(仮、12〜1月頃予定)、第5回「コロナ禍が浮き彫りにした経済的・社会的構造の変化と文化施設の関係性」(仮、1〜2月頃予定)のラインナップとなっている。

なおシンポジウム各回の様子は後日、編集後に動画や音声で公開予定だという。

文化庁アートプラットフォーム事業

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