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[画像: Cecily Brown "This must be the place", 2017-2021, oil on linen, (c) the artist, photo: Genevieve Hanson]

セシリー・ブラウン 「The end is a new start」

BLUM
終了しました事前予約制

アーティスト

セシリー・ブラウン
※本展示は事前予約制となっております。詳細は公式ホームページよりご確認ください。
セシリー・ブラウンは、抽象と具象が入り混じった身振りを伴った大きなスケールの絵画作品によってその名を知られてきた作家です。その作品が参照とするモチーフは、古典、近代の絵画からポップミュージックのアルバムカバーにまで及び、セクシャリティや欲望についての批判を湛えたあくなき問いを続けてきました。12点の新作が一堂に会する本展では、作家が近年探求してきた「難破船」という歴史的表象についての考察、そして30年にもわたるキャリアの中で生まれてきた自身の作品を土台とした新しい探究という二つのテーマに取り組んでいます。

ブラウンは、ここ数年にわたって「難破船」についてのイメージに着目してきました。人間劇に焦点を当てた枠組みを描いてきた一方で、歴史的に頻出してきたこのようなモチーフ群の追求もまたその制作の一貫したテーマです。ブラウンのリサーチは、ドラクロワ、テオドール・ジェリコーといったフランスの画家や、特に本展においては、ウィリアム・エッティや彼の1837年の作品「セイレーンたちとユリシーズ」を対象とし、それは絵画史を訪れる旅とも形容できるでしょう。特定の登場人物やディテールを拡大するように描かれたその作品群においては、自然の力によって引き起こされた大惨事を目前にした船上の切迫感や、閉所恐怖症的な感覚が増幅されています。さらに、本展で紹介される数点のエッティの絵画作品を起点として描かれた作品群では、航海における危機を招く元凶としてのセイレーンの存在を伴った主題の追求がさらに複雑な方法で試みられています。ここで参照されている「セイレーンたちとユリシーズ」はホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』の一場面を切り抜いた作品です。セイレーンの歌から身を守る為に、船の乗組員がユリシーズを縛ることによって彼女らの妖艶な歌に抵抗しようとする場面を写し出しています。同作品では、かつての冒険者だった船の乗員たちの亡骸や骨が散乱した島上から聞こえる歌声を放つセイレーンたちが画面の手前に捉えられています。セイレーンやギリシャ神話におけるファム・ファタル(運命の女)像は、男性主権的なナラティブによって世にはびこった女性のセクシュアリティがもたらす脅威の象徴とも指摘できるでしょう。ブラウンは、このように絵画史上の正当な主題を選び取り、その線によるペインタリーな探究を絶え間なく作品に組み入れながらも、同時に複雑な男女間の力関係についても言及しているのです。

ブラウンにとって、絵画は終わらせるものというよりむしろどこかで止めるものだと言います。完成という概念に囚われない、臨機応変な彼女の制作姿勢は、潜在的に多様な成果をはらんでいます。この無限の潜在的可能性や、いわば多元性を持つ宇宙としての絵画についての態度は、まさにブラウンが近年その新しい手法とともに探ってきたものであると言えます。この新しい取り組みでは、最新技法を用い、描きはじめの作品の撮影データを同一素材、同サイズのキャンバス上に転写するというプロセスがとられています。時には複数個に渡って作られるレプリカ群を支持体とし、ブラウンは新たな作品制作を行っていきます。同じ原型の由来をもつ作品でもあっても、その描かれ方は多種多様です。非常に似通った作品が生まれる一方で、見かけ上では全く異なって見える作品もあります。構造についても同様に、展示作品中の4点のように、絵具や画材の上部の層から地のキャンバスが透け出た構造を持つ作品、反対に転写キャンバスの存在が不透明な絵具によって隠された構造を持つ作品が存在します。ブラウンは、この一連のプロセスを「瞬間を捕まえる、あるいは、絵画の中で時間を停止し・起動する」試みと似ていると考えています。

初の試みとなったこの二つ目のテーマでは、絵画史の巨匠たちによる絵画作品やカウンターカルチャー的イメージではなく、自身の過去作に目を向けました。1990年代から2000年代の初期の作品を振り返ることで、ブラウンは過去の自分のアイディアを新しい探究の触媒として用いています。ゲオルグ・バゼリッツの有名な「リミックス」シリーズのように、作品をグループ化する手法は、個人的な思想や回顧的な客観的視点への再考を伴った、新作で構成される小さな回顧展的アプローチとして始まりました。転写したキャンバスの取り入れ方に見られるように、時を止め、時を再考し、時の流れを臨機応変で潜在性を持つものとして捉えるという<一時性>という観点から、ブラウンは、反復において行われる数々の実験の様子をその絵画の枠組みに持ち込んできたと言えます。 キュレーターのクレア・ギルマンは、こう述べています。「ブラウンの手法は、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズが語ってきた意味での<反復>という概念と深く関係している。ここで言う反復とは、無機質な拡散や独創性のない模写の身振りではない。一瞬にして生まれることのない、むしろ、繰り返される瞬間の中で生まれる、創造的で超越的な行為の身振りをブラウンは訴えているのだ。」

※本展示は「ART WEEK TOKYO」に参加しています。

スケジュール

2021年10月22日(金)〜2022年1月15日(土)

事前予約制

開館情報

時間
12:0018:00
休館日
月曜日、日曜日、祝日
入場料無料
展覧会URLhttps://www.blumandpoe.com/exhibitions/cecily_brown
会場BLUM
https://blum-gallery.com/
住所〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森 5F
アクセスJR山手線原宿駅竹下口より徒歩1分、東京メトロ千代田線・副都心線明治神宮前駅2番出口より徒歩2分
電話番号03-3475-1631 
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