公開日:2023年11月16日

「タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023」が12月9日開幕。難民や少数民族を支援するNGO施設等に作品を届けるプロジェクト「ZOMIA IN THE CLOUD」に注目

3度目となる「タイランド・ビエンナーレ」が、チェンライを舞台に12月9日~2024年4月30日開催。芸術監督はリクリット・ティラヴァーニャとクリッティヤー・カーウィーウォン。

リ(Ri) Is It Sweet Like Honey 2023

タイの最北端で開催される「タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023」

国際芸術祭「タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023」が、12月9日~2024年4月30日に開催される。コンセプトは「オープンワールド」。

タイランド・ビエンナーレは今回で3度目の開催となる。第1回の2018はクラビ県、第2回の2021はコラート県で開催され、長谷川祐子が芸術監督を務めた。そして2023はタイ最北端の地、チェンライ県が舞台だ。

芸術監督はアーティストのリクリット・ティラヴァーニャ(Rirkrit Tiravanija)と、ジム・トンプソン・アートセンターの芸術監督であり、数々の国際的な展覧会をキュレーションしてきたクリッティヤー・カーウィーウォン(Gridthiya Gaweewong)。キュレーターはアンクリット・アッチャリヤソフォン(Angkrit Ajchariyasophon)とマヌポーン・ルアングラム(Manuporn Luengaram)。

参加アーティストとして、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ホー・ツーニェン、ナウィン・ラワンチャイクン、ヤン・ヘギュ、エルネスト・ネト、ブスイ・アジョウ、マリア・ハッサビ、プレシャス・オコヨモン、許家維(シュウ・ジャウェイ)らが名を連ねる。

地方移動型で行われるタイランド・ビエンナーレは、過去2回もその土地固有の歴史や文化、自然と関連し世界のあり方の再考を促すプログラムが組まれてきたが、本展も13世紀にまで遡るチェンライの長く複雑な歴史を出発点に、世界と芸術に対する人々の認識を開くことを目指す。

チェンライはミャンマー、ラオスと国境を接しており、かつてタイ北部を統治したラーンナー王朝最初の都があった場所。隣接するチェンマイなどとともにタイ北部独自の「ラーンナー文化」がいまなお色濃く残る。チェンライ市内には有名な寺院などが数多く存在し、メコン川のほとりのチェンセーンにはラーンナー王朝時代の遺跡群が残っており、また山岳地帯には様々な少数民族や旧中国国民党軍の子孫が暮らしている。

本展はアジアにおける政治的・文化的な交差点となってきたこの地域の多文化性を起点に、伝統、神話、アニミズム、地政学、生態学の絡み合いから、中央集権的な制度やコミュニティのあり方を見直し、より良い未来の可能性を想像させるものになりそうだ。

「ZOMIA IN THE CLOUD」のパビリオンとプロジェクト

「タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023」では、アーティストらの作品展示に加え、パビリオン展示も行われる。韓国館をはじめ、チェンマイにある美術館MAIIAMや、アーティストらによるコレクティブ、プロジェクトなどがパビリオンを構え、展示を行う。

ここで紹介したいのは、「プロダクション・ゾミア」による「ZOMIA IN THE CLOUD」のプロジェクトとパビリオンだ。

プロダクション・ゾミアは、タイをはじめとするアジア各地でアートへの助成、展覧会の企画等を行う藪本雄登を中心に、アジアのアーティストやキュレーターら芸術に関わる専門家ネットワークとして2021年に結成。「ゾミア」とは東南アジア大陸部、中国、インドの山岳地帯を意味し、そこに暮らす「ゾミアの民」は、国家による課税、兵役、奴隷などの支配から逃れ、分散/移動と口承伝承を特徴としながら、アニミズムを信仰し、 非階層的な社会を構築しながら暮らしている。「プロダクション・ゾミア」は、こうしたゾミア世界の思想性を踏まえ、各地で現代アートの展示やアートプロジェクトを展開してきた。

「タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023」では、チェンライ近郊のいくつかの地域で、難民と少数民族の支援や教育、福祉活動を行っているNGOなどが運営する様々な場所に作品を届け、展示活動のプラットフォームを構築する「ZOMIA IN THE CLOUD」プロジェクトを実施。

国際的に活躍するアジアのアーティスト20名以上による作品がプロジェクトのウェブサイト上にアップロードされ、参加を希望した団体はそこから自由に作品を選んでダウンロードし、無料で展示することができる。場所はギャラリーなどアート専用の施設である必要はなく、学校、図書館、 病院や集会所など、適切な場所で行える。こうした取り組みにより、通常のアート展示の来場者とは異なる観客、つまり抑圧的で不平等な状況にあり、解放と連帯を必要としている人々がアートと出会うことを可能にする。

また本プロジェクトは、9.11以降、新たな帝国主義が台頭するなか、異なる社会を構想するものとして、2003年にリクリット・ティラヴァーニャらがヴェネチア・ビエンナーレで行った「ユートピア・ステーション」への、20年後のオマージュでもあるという。

プロダクション・ゾミアは、タイ/ラオス/ミャンマーの国境が隣接する地域で暮らしてきた人々や自然の生き物たちと関わるプロジェクトを提案します。彼らは長い時間をかけて生態系を形成し、流動的で生き生きとした生活を営んできましたが、近年、国家権力やグローバルな経済開発によってその領域が侵食されています。その結果、故郷を離れて他地域への移住を余儀なくされる少数民族や難民などが年々増加しています。私たちは、表現する行為やアート活動による連帯が個人を解放し、肯定し、力を与えることができると信じ、それを困難な状況にある人々に届けたいと願っています。(公式ステートメントより)

同時に、チェンライ市内のアートスペースであるシンガクライ・ハウスを会場に、5名のアーティストによるグループ展を12月11日〜2024年2月28日に開催。参加アーティストはリ、シュエ・ウッ・モン、アウン・ミャッテー、カニータ・ティス、前田耕平

シュエ・ウッ・モン(Shwe Wutt Hmon) Noises Are Too Close Here 2023-
前田耕平 Breathing 2021  Photo:Shimoda Manabu

関連イベントとして「Vol.2 『場所』を超えていくための芸術」を、12月16日(土)日本時間16~18時に開催。秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科主催による国内外のゲストを交えて複合芸術の可能性を多様な視座から検討する公開型のイベント「複合芸術会議」の一環で、ビエンナーレ出展アーティストであり、「ゾミアの民」といわれるアカ族出身のアーティスト・ブスイ・アジョウ、アカ族研究者の清水郁郎を招待して、シンガクライ・ハウスからのオンライン配信(日本語・タイ語通訳予定)、アーカイブ配信も予定(近日URL発行予定)。

詳細はウェブサイトをチェックしてほしい。

タイランド・ビエンナーレ チェンライ 2023
Thailand Biennale, Chiang Rai 2023
会期:12月9日~2024年4月30日
会場:チェンライ、チェンセーン各所
公式サイト:https://www.thailandbiennale.org/en/

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。