横浜創造界隈「ZAIM」は、アートに限らない様々な創造的な活動をする団体が入居するクリエイティブ雑居ビルだ。もともとは1927年に関東財務局として国が建設し、その後労働基準局、横浜地方裁判所の庁舎などとしても使われて来た「国の役所の建物」であったが、近年、横浜市がクリエイティブ・シティ構想の中でこの場所を所有し、横浜市芸術文化財団がアーティストや創造的な活動をする団体に活動拠点/発表拠点として貸し出している。ZAIMはカフェのある中庭を挟んで本館と別館の2つに分かれている。日本大通に沿った方が本館で、中華街より、中区役所に隣接している方が別館だ。本館にはクリエイティブ団体の事務所が多く置かれ、別館は展示やパフォーマンスのスペースとして使われている。今回のZAIM FESTAでは、主に本館でオープンスタジオが、別館で展示が行われている。
このイベントが面白いのは、フェスタの範囲が明確でないところにある。期間中にZAIMで同時開催される様々なクリエイティブなイベントが、イベントの企画者やそのジャンル区切りをほとんど感じることなく、建物を回っているうちに同時に見られてしまうのだ。国際的に活躍するアーティストや北京からの芸術家交流事業で来たレジデンス中のアーティストの個展的な展示、コスプレイベント主催団体による素晴らしくデコレーションされた撮影ルーム、YOKOHAMA創造界隈コンペ2008受賞者による作品展、またパフォーマンスフェスティバルであるNIPAF横浜まで、様々なクリエイターたちがそれぞれの活動を見せており、横浜トリエンナーレのボランティアとサポーターによる座談会など、様々な主体によるイベントが開催される。だから、特に目的がなく足を運んでも面白いし、他のイベントのついでに行っても驚きがある。
古いモジュールで設計された元役所の庁舎の天井の低い部屋という単位がそのまま残されているZAIMは、廃校ほどではないけれど、なかなか「難しい」展示空間だ。しかし、そのような部屋であるからこそ、観客の視点を物理的に動かすタイプの作品や、空間に干渉していくタイプの作品は新しい面白さが見えてくる。足立喜一朗の展示や、北京から来た王衛と何頴宜の夫婦のそれぞれの作品などはまさにそうした特徴をうまく利用したものだ。また、小部屋を遮光した空間で、ZAIMにスタジオを置く近年活躍が目覚ましいSHIMURABROS.のEICONシリーズをじっくりと見ることができたのも個人的には良かった。
空間的な体験以外の面白さもある。ZAIMフェスタ全体を見れば、外国人を含む様々な横浜内外のアーティストやクリエイティブな活動をしている人たち、そしてクリエイティブ・シティに取り組む行政の現場の人たちとリラックスした雰囲気で出会うことができるというのが最も面白いところではないかと思う。その 意味では、展示前から展示中まで連日アーティストを呼んでパーティーをしながら空間に手を加えていくという、どう転ぶかわからない危うさを含んだキャンプ 型の展示、梅津庸一「ZAIMIZAMZIMA エキシビジョン・フォーラム」の展開が楽しみだ。
来場者にとっては、こうしたイベントをすべて含んだものがZAIMフェスタに見えるし、そうした見方で足を運ぶのはむしろ正しいように私には思える。横浜との縁の強さや展示に対する熱意の込め方へ多少のばらつきがあることにはこの際、眼をつぶるべきだ。重要なのは、既に活躍しているアーティストも新しいことをやりたくなり、クリエイティブな団体はその活動を存分にプレゼンテーションしたくなるような雰囲気を作っているZAIMという場所の持つポテンシャルだろう。適度な内輪感、適度な居心地の良さが生み出す、新しいもの、異質なものに対して身構えずに出会うことがしやすい空気。私たちは、こうした状況では生まれないものに対するのと同様に、こうした状況でしか生まれないものをも、もっと評価すべきではないか。個人的には、小学生の頃に自由な校風で有名な高校の文化祭に行った時の感じを思いだした。そう、これは横浜を代表するクリエイティブ拠点ZAIMの、展覧会でもあり、アートイベントでもある、文化祭なのだ。
作田 知樹
作田 知樹