2007年のヴェネチア・ビエンナーレではスイス館代表を務め、ピピロッティ・リストの次の世代を担う映像インスタレーション作家として注目を集めるイヴ・ネッツハマー(1970〜)による日本初個展「イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い」が開催される。会場は宇都宮美術館、会期は3月10日〜5月12日。これまでの代表的な映像作品を紹介するとともに、宇都宮で現地制作された大規模な新作インスタレーションを展開する。
シャフハウゼン生まれのイヴ・ネッツハマーの表現の起点は、コンピューターによるデジタル・ドローイングの純化された線にある。ドローイングの航跡それ自体はエレガントなまでに明晰でありつつ、描かれたイメージには、世界に対する違和の痛みを感じさせるような奇妙さが漂っている。これまでには大学や病院など、公共建築と一体化したプロジェクトでも現代的な感性と機知にあふれた作品を手がけてきた。今年は、長編デジタル・アニメーション映画『旅する影』も公開予定だ。
今回の見どころは、宇都宮の地下空洞に触発された新作のインスタレーションだろう。神殿を思わせる魅惑的な地下空洞が広がっている、宇都宮に産する大谷石の採掘場。その光景に着想を得たネッツハマーが、竹を用いて大規模なインスタレーションを現地制作したものだ。
もちろんネッツハマーの代表的な映像作品も上映される。ネッツハマーは、デジタル・アニメーションの虚空間と奇妙なオブジェを掛け合わせた繊細な作品を描き出してきた。アニメーションに繰り返し登場する抽象的な〈人像〉は、顔を持たず、性別もさだかではない。この〈人像〉は、無防備な傷つきやすさと同時に、変容へと開かれた可塑性を感じさせる存在なのだ。
宇都宮の大谷採石場跡や、近隣の足尾銅山跡の地下空間に触発されたネッツハマーが、私たちの深層に広がる空洞にどのように潜り、何を照らし出すのか期待したい。