生きているミュージアム・ニフレルが、「かおノート」でも知られる絵本作家tupera tuperaとデザインチームminnaと初コラボレーションした「あなたも愉快な生きものだ!展」が、2025年1月13日まで開催中。テーマは、生きものと人との共通点。tupera tuperaが創り出した自由な作品と「愉快な生きものワークショップ」によって、生きものの個性に気付きながら、自分自身の個性も振り返る「じぶんにふれる」特別な体験型企画となっている。早速、足を運んできた。
過去にもニフレルでは、宇野亞喜良や川島小鳥、金氏徹平などによる空間演出を施した「生きものとアートにふれる展」(2018)や、多様性をテーマに、生きものが奏でる音や自然環境の音を体験できる「ひびきにふれる」での映像上映(2023)などを実施。アート思考を元に、いきものの魅力をより深め、広めるための趣向を凝らした機会を提供してきた。
今回の企画展に際して、ニフレルの館長・小畑洋は、「人と動物がつながる展示を目指した。人も生きものも普段見ていると、それぞれ異なる生き物のように思うが、そうではない。人と生きものの小さな共感をたくさん感じてほしい」とコメント。そして自分が共感する生きものとしてヒラメを例に出し、「ヒラメは周りの環境に合わせて、目立たないように暮らしている。自分もそれに似ているから、ヒラメに親近感が湧いています」と続けた。
すべてのヴィジュアルやワークショップの作品制作は、tupera tuperaが担当。バナーやポスター、グッズ、プロダクト、会場デザイン、会場の音楽、映像などはデザインチームminnaが主に担当した。今回の展示を経て、デザインチームminnaの角田真祐子は、「いきものを表面的な姿や形だけでなく、内面的な部分から見る機会になり、子どもたちや周りの人にも伝えやすい新しい視点が加わった」と感想を述べた。
ニフレルで企画が催されているのは、展示エリア2つとワークショップブースだ。最初の展示エリア「いろにふれる」では、13台の水槽の中から生きものが自己紹介を交えて、来観者に吹き出しでメッセージを投げかける。「あなたはどんな食べ方をする?」などの問いかけは、自分自身を振り返るきっかけを優しく促してくれる。
水槽の中の生きもの生態については、常設で「5・7・5」で紹介されているが、今回はそれに加えて、生きものと人に共通する点をヒューチャーしたtupera tuperaのイラストとコメントが合わせて添えられている。積み木を組み合わせたような、ユニークな形のイラストが目を引く。
続いて、メインエリア「わざにふれる」では、生きものと人の共通点を表現したtupera tuperaによる新作「にてる?にてる!」が描かれた大型作品10点が展示。そして、生きものと人の共通点がわかる、30種類の「あなたはどんな生きものだ?カード」が並ぶ。(参加無料)
カルタのようなカードには、「世話好き」「古風」「ジャンプ力がある」など、30種類のキーワードがイラストとともに描かれている。その中から自分らしいと思うカードを4枚セレクト。裏面には、自分と共通点のある生きものとニフレルでの居場所も書かれており、どんな生きものがいるのか会いにいける。さらに、台紙にカードをセットして、裏面を見るとなにやら不思議な言葉が……、これはあなたの新しい生態名なのだ。「生きものって人間が勝手に色んな名前をつけていますよね。この理不尽さを体験する仕掛けです(笑)」とtupera tuperaの亀山達矢。
会期を通して開催されるのが、「わたしは愉快な生きものだ!ワークショップ」だ。これはtupera tuperaが描き下ろした多彩な生きものパーツを組み合わせてお面をつくるワークショップで、完成後はお面を着用して、館内を巡って写真撮影を楽しめるものだ。8種類のベースに、目・鼻と口・変身パーツを自由に選び、自由に生きものを作ることができる。(参加有料:1人1000円、ペアで1800円)
パーツは、写真とイラストが混在しており、組み合わせると立体的な表情になっていく。当初はイラストだけのお面を想定していたが、そうすると平べったく作りもの感が出てしまったため、写真を組み合わせる趣向に変更したそうだ。お面を作ってみると不思議なことに、まるで自分が生きものになったかのように愛着が湧いてくる。付けてみると自分と生きものの間を浮遊するような、面白い体験ができるので、ぜひ子供だけでなく、大人も体験して欲しい。
ワークショップ参加者が特別に楽しめるフォトスポットもある。水槽の中に入って、ニフレルの生きものと同じ状態を体験できる。tupera tuperaの中川敦子は、「美術館や動物園は、基本的に見る側と見られる側が決まっています。でも見ているあなたも面白いよということにも気づいてもらえる展示にしたかった。自分を見つめ直したり、自分と生き物の共通点を探したり、ここで体験を通した思いを持ち帰ってほしい」と話した。
本展は、一見入り口は面白くて可愛いというポップだが、本質的には深いテーマが潜んでいる。楽しみながら、生きものを通して、多様性社会の中での自分というものを知るきっかけにもなりそうだ。