公開日:2018年1月16日

エスパス ルイ・ヴィトン東京にて個展を開催中! ヤン・フードン(楊福東)インタビュー

白黒からカラーへ、フィルムからデジタルへと変化した作品について語る

映像を使った大型インスタレーションで知られ、国際的に活躍している中国人アーティスト、ヤン・フードン(楊福東)(b.1971)の個展「The Coloured Sky: New Women II」が表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京にて開催されている。

古い映画が映像体験の出発点だというフードンは、1935年に上海で公開された映画『New Women』(監督: Cai Chusheng)をオマージュした同名の映像作品《New Women》(2013)を制作した。

本展の出品作であり、展覧会タイトルにもなっている《The Coloured Sky: New Women Ⅱ》(2014)は、シリーズの2作目に当たる。5面スクリーンのビデオ・インスタレーションという点は同じだが、モノクロームのフィルムで作られた1作目と違い、極彩色の世界が広がるデジタルカラー作品だ。

新しい女性像を色鮮やかに描き、現実と空想が入り混じる情景を表現したフードンに、本展にまつわる話を聞いた。

ヤン・フードン(楊福東) エスパス ルイ・ヴィトン東京にて撮影
ヤン・フードン(楊福東) エスパス ルイ・ヴィトン東京にて撮影
Photo: © Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat

展示会場に施した色の仕掛けについて

──モノクロームのフィルム作品が代表的ですが、今回デジタルカラーで制作したきっかけを教えてください。

モノクロームが多いですが、以前から稀にカラーフィルムの作品を作っていました。カラーを使ったきっかけの1つは、デジタルの時代になったことです。映画もフィルムからデジタルになりました。デジタルはよりカラーの表現に適しています。社会や技術の変化は非常に速く、今までできなかった表現方法を叶えてくれました。日々発見が多いですが、斬新な方法がまだ他にあるのではないかと思っています。

──会場の壁に色をつけたのはなぜですか? 映像に登場するカラフルなパーテーションとの繋がりはありますか?

この作品は、少女が大事にしている飴の包み紙を空にかざして見ている世界を表現しています。少女はカラフルな包み紙をかざしながら、現実に起こりえるかもしれない遠い将来を夢見ています。
私はこの作品において7つの色を使いました。純粋さを表現するために、あえて人工的で強烈なカラーを選択しています。

実はこの作品の制作に入る前から、暖色と寒色を組み合わせた展示環境にすることをあらかじめ決めていました。そして、作品にたどり着くまでのアプローチを真っ暗にしました。鑑賞者は暗い通路を通って展示会場に入ります。目が慣れて周りの空間が明るくなってきたように感じると、壁の色がそれぞれ違うことに気づくはずです。いつのまにか空の色が明るくなるように壁が色づいていく訳です。つまり、壁は空の色を象徴しています。

© Yang Fudong. Courtesy Fondation Louis Vuitton

また、スクリーンに使われている色と呼応する仕掛けにもなっています。この仕掛けは、はっきりした物事は逆説的に曖昧であるということを暗示しています。

展示会場のスクリーンが一列に並んでいないことにも理由があります。1つのスクリーンを見ているとき、別のスクリーンが横目に見えるように配置しました。それにより、鑑賞者が映画監督のように、自分のなかで作品を再構成できるようになっています。

ガラスのカラープレートは、目に見えない人間の心理や感情が重なり浸透し合う状況を表しています。人間の心理や感情は時とともに上書きされていきます。これは、私が考える生活のあり方です。

Courtesy of Fondation Louis Vuitton © Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat

白黒とカラーの本質は同じ

──学生時代に絵画を学ばれ、制作のなかで特に色を大事にしてきたかと思います。色について考えていることを教えてください。

私は小さい頃から絵が好きで、大学では油絵を学びました。私の作品は大きく2つに分けられます。およそ半分はモノクロで、もう半分はカラー作品です。モノクロは私にとって距離感を表します。しかも、そこには時間の感覚も含まれています。モノクロ・白黒にはピュアな質感を感じています。これに対して7色、カラーもピュアな存在だと思っています。

小さいときによく7色に塗られたコマを回して遊びました。とても早く回すと、色が混ざって白っぽい単色に見えてきます。カラフルな色を極めるとピュアな単色になるという一例です。逆も然りで、白黒を追求していくとだんだんと発展してカラーに見えてきます。ですから、白黒も7色も本質は同じです。

私はとてもピュアな何かを追い求めています。それをこれからも探していきたい。
ずっと白黒が好きで魅せられてきました。白黒は私にとって印象深い存在です。しかし社会ではさまざまな変化が日々起こり、私自身も変化していきました。その結果が、白黒からカラーへの移り変わりだったのだと思います。

Courtesy of Fondation Louis Vuitton © Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat

「新しい女性」は誰もが心に秘めている

──作中に登場する女性たちは、女性的な体つきをした大人に見えます。ピュアなものを表現するのであれば少女がモチーフになるのではと考えるのですが、この年代の女性をキャスティングした理由を教えてください。

この作品は5歳の少女の空想がモチーフになっています。少女は昼下がりにベッドに横たわり、飴の包み紙を通して見えるカラフルな空を眺めながら空想にふけっています。彼女はこれからの未来に、一体どのような変化が自分に訪れるのかを考えています。女性的に成熟しているかもしれないし、そうならないかもしれない。それがこの作品を取り巻くストーリーです。
少女の空想する、そして私たちの誰もが心に秘めている”新しい女性”は、美しい生活に憧れています。ですから、新しい女性はいい生活を象徴します。私は生活に興味があります。

中国では、シカは霊感がありいい生活を意味します。この作品に映っているシカは剥製ですが、馬は生きています。これは、何が本当の答えなのかを観賞者に委ねるためです。「鹿を指して馬と為す」という故事を引用し、虚実が倒錯し逆転する状況を表しました。

──女性たちが踊っているダンスが中国舞踊のように見えます。シナリオがないとのことですが、インスピレーションから映像化しているのでしょうか?

私の創作にはパターンがあります。まず、ある考えが生まれたら時間をかけて熟成させます。構想が実行に移れると決まってから大雑把な計画を立てます。このとき、具代的な脚本やシナリオは書きません。次に大体のシーンを決めていきます。そのうえでチームと相談しながら雰囲気を作っていきます。具体的に考えたものもあれば、一時的に思いついたものを採用することもあります。また、この日起きたこと、役者、美術を見て直感で決めることもあります。
例えばダンスをしている女性は、撮影中に彼女が古代の中国舞踊を習っていて踊りが上手いことがわかりました。そこからインスピレーションを得て、急遽このシーンを作りました。他にもこういう例はたくさんあります。

Courtesy of Fondation Louis Vuitton © Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat

それぞれのモチーフが持つ意味

──コオロギの鳴き声が聞こえる理由を教えてください。

この作品は映画のようにセットを作って撮影しており、いわば人工的に作られています。ただ、このセットには人間や人工物以外のものも存在しています。コオロギの象徴するものは小さな生き物、あるいは息吹や呼吸というものです。ガランとした空間の中に、見えざるものをも含んでいるというメッセージです。

──マスカットにナメクジが這っているシーンも、コオロギと同じように人間と対比する小さな生き物が存在するというメッセージでしょうか?

これは生活を意味しています。ヘルシーなものもいつかは変わります。生活の中によくあるマスカットが徐々に変質していく。生活が変化していくことの暗喩として入れました。

──女性たちが年代の違う水着を着ている理由を教えてください。

この作品は、何が嘘で何が本当なのかがわからない夢の境地を表現しています。よって、色々なズレや年代の交錯が起こります。ノスタルジックな水着にはそういったことが現れている訳です。
これらのファッションは大量の資料を参照しながら制作チームと相談して決めました。私は脚本を作りませんが、環境が脚本の役割を果たしています。彼女たちの体型やファッションがひとつのメッセージになっています。

──カラフルな家やテントといった建築物がよく出てきますが、建築に興味がお有りなのでしょうか?

私は建築は素人ですが、本当に素晴らしいものだと思っています。絵画をする人にとって、建築は非常に密接に関係してきます。たくさん見なければならないし、勉強する必要があります。同じような理屈で演劇や文学も必要です。アーティストはいろいろなジャンルの造詣を深めていかなければなりません。海外に行ったときに古い絵画や現代アートの作品をよく見ていますが、それらが見えざる影響として作品に投影されています。

Courtesy of Fondation Louis Vuitton © Louis Vuitton / Jérémie Souteyrat

今は生活、感情、時間に興味がある

──フードンさんは国際的に活躍されていますが、日本のアートシーンについてどう思われていますか?

2001年の横浜トリエンナーレに参加してから日本と関係を持つようになりました。あれから日本の色々なコンテンポラリーアートに触れています。日本には本当に素晴らしいアーティストたちがたくさんいますし、日本の歴史的な建築と現代の建築にも心酔しています。

──最後の質問です。今フードンさんが興味があるもの、考えていることを教えてください。今日起こったことが撮影に取り込まれるとおっしゃっていました。今何に惹かれているかということが、おそらく今後作る作品に反映されていくのではと考えます。例えば建築に興味があるとおっしゃっていましたが、それが映像に反映されています。

私の学生時代に比べると、今は随分変化しました。私にとって生活そのものがとても興味深いものです。年齢とともに、生活、感情、時間にますます興味を持つようになりました。それらについてよく考えることを、今とてもおもしろく思っています。
それからもう一つ考えていることがあります。アーティストは、自分が本当に考えているものを作品にしなければなりません。つまり、真心を込めた作品を作ること。それがアーティストにとって重要なことだと思います。
後半の質問にも関係しますが、もし将来建築を作品に使う場合には、私は建築の意味を拡大した形で解釈すると思います。例えば感情の表現としての建築、物事を叙述するナラティヴな建築、あるいは具体的な作品を理解したときの思想そのものとしての建築というように、自分の感じていることを表現するかもしれません。

■開催概要
会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-7-5 ルイ・ヴィトン表参道店 7階
開催期間:2017年10月18日(水)〜2018年3月11日(日)
開館時間:12:00〜20:00
休館日:ルイ・ヴィトン 表参道店に準ずる
入場料:無料
http://www.espacelouisvuittontokyo.com/
http://www.tokyoartbeat.com/event/2017/D384

Kyo Yoshida

Kyo Yoshida

東京都生まれ。2016年より出版社やアートメディアでライター/編集として活動。