公開日:2020年11月25日

美術館が続々閉鎖へ、抽象美術の歴史を再整理、注目したい15名のアフリカ系アーティストなど:週刊・世界のアートニュース

ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目ニュースをピックアップ

いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、11月14日〜20日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「コロナによる美術館とアートマーケットへの影響」「アメリカの美術館も再閉鎖へ」「アートフェアへの影響」「その他コロナ関連のニュース」「できごと」「アフリカのアートマーケットの勢い」「おすすめの本」の7項目で紹介する。

国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館 出典:Wikimedia Commons(Frank Schulenburg)

コロナによる美術館とアートマーケットへの影響

◎美術館の危機は続く
アメリカではコロナの第三波が広がっているが、アメリカ博物館教会によるコロナの影響調査の結果が公表された。調査に答えた850の半数以上の美術館博物館でなんらかのリストラが行われ、平均すると2020年の年間予算の35%が失われる予定で、また2021年も28%の収入源を見込んでいる。また半数以上がこのままでは半年以内に運転資金が尽きると答えた。状況はまだまだ悪化すると見られており危機的な状態。
https://www.theartnewspaper.com/news/from-bad-to-worse-over-half-of-us-museums-have-laid-off-or-furloughed-staff-survey-shows

調査結果のページ

◎オンラインでのアート購入の実態
NY在住コレクターへの大掛かりな調査が行われ、調査結果の中からロックダウン後のバーチャルなアート購入について分析した記事。オンラインでも頻繁に買うのはたった1割。それも多くは付き合いのある画廊のサイトもしくはメール経由が多く、オンラインフェアはあまり芳しくない。そもそもオンラインイベントが多すぎることと凝ったサイトに辟易しているコレクターが多い様子。
https://news.artnet.com/market/new-york-art-market-online-viewing-rooms-1924575

調査結果のページ

◎「文脈の崩壊」とは?
さらに上記調査結果とともに指摘されているのがcontext collapse(文脈の崩壊)。1年前の記事だが、ギャラリストでIndependent Art Fairのディレクターであるエリザベス・ディーが指摘しているもの。そもそもコロナ前から大規模化して数が増えたアートフェアなどで大量の知らない作家を見て大量のコレクターがアーティストや作品についての文脈を得ることなく買っており、アートフェアの原理的な問題点であると。それがオンラインになるとさらにアーティストについて知る機会が失われ、それを恐れてオンラインアートフェアで買うのをさけているのではないかという指摘。少なくとも通常のフェアでは、作品を前に、ギャラリスト、アドバイザー、友人などと会話しながら買えるが、オンラインではモニターの前の自分一人で決断する必要があり、ハードルを上げていると。
https://news.artnet.com/opinion/context-collapse-ruining-art-fairs-heres-us-art-business-concerned-1633852

アメリカの美術館も再閉鎖へ

◎イリノイ州で文化施設に閉鎖命令
シカゴを含むイリノイ州でコロナの第二波が猛威を振るうなか、州知事からイリノイのすべての美術館、博物館、劇場に閉鎖命令が出た。6月から再開していた。再開は未定だが、シカゴ現代美術館は12月4日の再開を目指している。
https://news.wttw.com/2020/11/18/chicagos-museums-shutting-down-second-time-due-covid-19-reopenings-uncertain

◎美術館が続々閉鎖へ
コロナの影響でワシントンD.C.のスミソニアンが全美術館・博物館の閉鎖を決定。ミネソタでもウォーカーアートセンターを含む複数の美術館が閉鎖を決定。ニューヨークでは今のところ美術館の閉鎖には至っていないが、患者数は増えており、学校が閉鎖になったこともあり、余談を許さない状況。
https://hyperallergic.com/602582/as-covid-19-cases-climb-museums-across-us-announce-closures/

アートフェアへの影響

◎マイアミでは展覧会を開催決行か
今年のアート・バーゼル・マイアミはすでにキャンセルされているが、マイアミ地元のギャラリーや美術館は、フェア期間であった時期に展覧会を開催決行予定。またニューヨークの画廊、ダイチ・プロジェクトやラミケン、salon94などもポップアップギャラリーの形で展覧会を開催するそう。たしかに寒いニューヨークからマイアミに行きたい人はたくさんいるが、コロナの猛威はぶり返しており、どうなるか。
https://news.artnet.com/art-world/wet-paint-miami-popup-galleries-1923278

来年3月に開催予定だったアートバーゼル香港が5月に延期を決定。
http://artasiapacific.com/News/ArtBaselHongKongDelayedToMay2021

ロサンゼルスのFriezeアートフェアは来年2月開催予定だったが7月に延期。
https://news.artnet.com/market/frieze-los-angeles-bumped-july-1924335

その他コロナ関連のニュース

◎絵画の意外な落札者
ロンドンのロイヤルオペラハウスがコロナによる財政難を理由に17億円強で売却したホックニーの絵画は、なんとオペラハウスの理事長でコレクターのDavid Rossが落札していたことが判明。絵画はすぐにオペラハウスに寄託され、オペラ再開後はこれまで通り展示されることになった。
https://www.theartnewspaper.com/news/carphone-warehouse-billionaire-david-ross-did-buy-the-royal-opera-house-s-usd12-8m-hockney-now-he-is-loaning-it-back

◎バーチャルツアーは収入源になるか?
大きな話題を呼んでいたロンドンのナショナルギャラリーのArtemisia Gentileschi展だが、コロナで少なくとも12月2日まで一時閉館。代替策として、担当キュレーターが30分のバーチャルツアーをするとのこと。参加費は8ポンド。財政難の美術館の新しい収入源になるか。
https://www.theartnewspaper.com/news/national-gallery-artemisia-gentileschi-virtual-tour-charges-8

◎ペース・ギャラリーの強気な計画
コロナやBrexitでロンドンから撤退するギャラリーがいくつもある中、ペース・ギャラリーは現在のロイヤルアカデミー内のギャラリーを来夏に閉め、別の場所に約2倍に拡大する強気の計画を発表。破産したメガギャラリーのBlain Southernがあった場所。
https://www.artforum.com/news/pace-gallery-announces-london-expansion-84480

できごと

◎腕時計コレクターとしてのウォーホル
ウォーホルは実は腕時計のコレクターだったそうで、亡くなったときにパテックフィリップ、ピアジェ、カルティエなど総勢313もの時計がオークションにかけられたそう。去年には1943年のRolex Oyster 3525がオークションで約5000万円で落札されウォーホル時計史上最高値を記録。
https://robbreport.com/style/watch-collector/andy-warhol-keen-collector-worlds-finest-watches-1234576232/

◎ボッティチェリ絵画が行方不明に
2007年にNYの悪徳ディーラーへの取り調べで表に出たボッティチェリの10億円相当の絵画が、その持ち主とされる租税回避地ジャージー島の投資会社内の不透明なやり取りや所有家族の内紛の訴訟などで紛糾し、所在がわからなくなっているという。記事に詳細が報じられているが、読んでもとにかくややこしい。
https://www.theguardian.com/artanddesign/2020/nov/15/a-family-feud-a-mystery-firm-and-the-botticelli-masterpiece-that-quietly-vanished

◎「Googleverse」にまつわる展示
MoMAの常設展示の入れ替えで日本の具体が入ったのは報じられていたが、その入れ替えの一環として、「Search Engines」というタイトルで98年のGoogleの誕生とインターネットに呼応する作品の展示が2階の1室でスタート。担当キュレーターの言葉がしゃれている。“The Googleverse, where you have an endless stream of information at your fingertips, makes the whole world kind of a readymade.”  Googleverseという言葉があるそうで、グーグル空間といったところか。
https://news.artnet.com/art-world/moma-reinstalled-collection-galleries-1924027

◎イサム・ノグチの誕生日
11月17日はイサム・ノグチの誕生日だそうで、彼の人生を振り返る記事。個人的にブランクーシに学んだのは知っていたけれど、30年代にベビーモニターの原型みたいなもののデザインまでしていたとは驚き。
https://www.artnews.com/feature/isamu-noguchi-sculptor-for-the-ages-1234576724/

◎職場環境改善のために辞任
スタンフォード大学のカンターアートセンターの館長が劣悪な職場環境の原因になったとして退任。シリコンバレーからの基金集めに集中しそれなりの成果を上げたが、スタッフに退職者が続出し内部調査が行われた結果、退任を決めた。
https://www.artforum.com/news/susan-dackerman-to-step-down-as-director-of-stanford-s-cantor-arts-center-84478

◎黒人作家のアートヒストリーを学ぶ
黒人作家のアートヒストリーを教えるペインターのためのスクール「Black Painters Academy」がAzikiwe Mohammedによって来年1月にニューヨークでスタートする予定。授業料は無料でチャイナタウンの一角で行われる。現在Kickstarterでファンドレイズを行っている(目標$18000に対して、執筆時点で9割以上達成)。
https://hyperallergic.com/601623/introducing-the-black-painters-academy-a-new-school-dedicated-to-black-art-history/

◎ニコラ・ブリオーが市長と対立
フランスのモンペリエ現代アートセンターで館長を務めるニコラ・ブリオーが現市長と対立。2019年に、前市長がモンペリエを国際的なアートシーンの一角にしたいと肝いりでできたアートセンター。前市長がブリオーを館長に抜擢。ただ、現市長が巨大な予算と国際的な企画に反対、来年4月のブリオーの契約の延長が危ぶまれている。アーティストやアート関係者がブリオー館長を支持する請願書を提出。
https://artreview.com/trouble-at-montpelliers-new-moco/

アフリカのアートマーケットの勢い

◎アフリカ系アーティストに注目集まる
コロナの影響で全世界的にアートマーケットが停滞する中、アフリカも当然コロナの影響を受けている。ただ、それを上回るペースで、アフリカ人またはアフリカにルーツを持つ作家による作品への需要が高まっており、アフリカのアートマーケットは勢いを増しているとのこと。
https://www.theartnewspaper.com/analysis/bucking-the-trend-africa-s-art-market-amid-adversity

◎注目したい15名のアフリカ系アーティスト
上記記事でもアートマーケットの拡大が伝えられるアフリカだが、この記事では注目される15人のアフリカ人作家を紹介。半数以上が90年代生まれと若い。ウガンダ、ナイジェリア、ケニア、モザンビーク、ジンバブエ、マリ、南アフリカ、ガボン、チュニジアから。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-15-african-artists-rise

おすすめの本

◎抽象美術を再整理
これまで支配的であった西洋男性中心的な歴史を拡大して、アジア、オーストラリア、アフリカ、南米も含んだグローバルな視点から抽象美術を再整理した書籍『Abstract Art: A Global History』が出版された。このインタビュー記事ではニューヨーク大学で美術史の教授である著者のペペ・カーメル(Pepe Karmel)が、人生を振り返りながら、この本を書くきっかけなどを語っている。表紙はスウェーデンの女性抽象画家ヒルマ・アフ・クリントの作品。
https://www.vogue.com/article/abstract-art-a-global-history-pepe-karmel-interview

Kosuke Fujitaka

Kosuke Fujitaka

1978年大阪生まれ。東京大学経済学部卒業。2004年、Tokyo Art Beatを共同設立。08年より拠点をニューヨークに移し、NY Art Beatを設立。アートに関する執筆、コーディネート、アドバイスなども行っている。