公開日:2017年12月17日

ヒップホップ×オペラ×演劇=?? KAAT×高山明/Port B『ワーグナー・プロジェクト』 レビュー

なにが起こるかわからない9日間の超大作!劇場にストリートを持ち込み、ラップ音楽、演劇、オペラ、さまざまなものをミックスして模索される新たな舞台

10月20日から神奈川芸術劇場でPortB/高山明の新作公演『ワーグナー・プロジェクト』 —「ニュルンベルクのマイスタージンガー」―がはじまった。

PortB/高山明作品は劇場以外で行われることが多い。最近の作品には、東京の各所を巡って、物語を聞く「東京ヘテロトピア」や、ドイツのマクドナルドで移民による講義を聞く「マクドナルド放送大学」などがある。今回は久しぶりの劇場で行われる公演となるが、作品自体が9日間。鑑賞には通し券を推奨したいところだが、最終日はどのようなものになるか、まだわからない。一体どのような作品なのか。

オープニングトークは磯崎新×高山明。PortB/高山明の作品は磯崎新の都市に対する考え方の影響を多く受けているという
オープニングトークは磯崎新×高山明。PortB/高山明の作品は磯崎新の都市に対する考え方の影響を多く受けているという

劇場にストリートを持ち込む
「ワーグナー・プロジェクト」は2年以上前から構想されていたという。90年代初頭よりクラブ・ストリートカルチャーに身を置きながら、DJや執筆活動を続ける荏開津広を音楽監督、会場構成に建築家の小林恵吾を迎え、演出助手の田中沙季による「サイファー」を訪ねるリサーチを経て、9日間のプログラム構成に至った。

ヒップホップ文化とはラップ、DJ、ブレークダンスとグラフィティアートで構成される。会場のグラフィティはsnipe1によるもの
ヒップホップ文化とはラップ、DJ、ブレークダンスとグラフィティアートで構成される。会場のグラフィティはsnipe1によるもの

台本はないが、ストーリーの枠組みはある。タイトルにあるように、作品の基盤となっているのは、19世紀ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーのオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガ-」である。高山明は、この作品を構成・演出することに対して「今の日本にも無縁な話ではないと考えている」と言う。
主題はストリートカルチャー「ヒップホップ」であるが、確かに、「ラップ」は歌い方の1つとして定義されるようなので、歌劇としては相応しいともいえるからおもしろい。

ラップ音楽、演劇、オペラ、さまざまなものをミックスして模索される新しい価値基準
初日は建築家の磯崎新と高山明によるオープニングトークを経て、今回の「主人公」ともいえる15人の「ワーグナー・クルー」選抜オーディションが行われた。「言語感覚」、「言葉と音楽の関係性」、「リアリティ」、など、演劇にとっても、ヒップホップにとっても新しい価値基準が生まれる可能性を審査基準に当日28人の挑戦者から15人が選ばれた。高校生や大学生、ラップ経験がない人も多かった。家族や恋人とのこと、人と比べて感じる劣等感や焦り、大切な人への感謝など、自分を中心とした身近な他者との関係性が彼らのリアルなのかもしれない。そして、そんな中で求めているものは、なにか変わるためのきっかけだったようにみえた。

天井にはミラーボールではなく……黒い球体。日本最大のスペクタクルといもいえる大阪万博開会式の「司祭」のようであった岡本太郎作、太陽の塔の「黒い太陽」を表象している
天井にはミラーボールではなく……黒い球体。日本最大のスペクタクルといもいえる大阪万博開会式の「司祭」のようであった岡本太郎作、太陽の塔の「黒い太陽」を表象している

最後にどのような言葉が紡ぎ出されるのか一緒に学び、考え見届ける
「ワーグナー・クルー」が8日間参加するのはいわゆる「学校」である。期間中はライブイベントの他に講義やワークショップ等が予定されており、タイムテーブルも公開されている。
これは、毎年2週間限定で、世界の1都市で開催される「レッドブル・ミュージック・アカデミー」に少し似ているかもしれない。講義やイベントが行われ、世界の著名な音楽分野の表現者とその都市に住む音楽分野気鋭の若者がセッションなどを行う。新しい音楽表現を試みるものであり、その成果は20年続いている事が物語っている。しかし、「レッドブル・ミュージック・アカデミー」の場合、ライブイベント以外の講義等は基本的に一般には公開されていない。

ワーグナークルーオーディション 最後はラップバトルも!
ワーグナークルーオーディション 最後はラップバトルも!

「ワーグナー・プロジェクト」においては「観客」はその「学校」の中身を見て、参加もできる。9日間、15人のクルーメンバーが授業やワークショップ、ライブを通してどのように変わるのか、どのようなものが生まれるのか、という事を、場合によっては共に学んで考え、目の当たりにする観劇体験となる。日々の様子は膨大な写真とビデオで記録されている。会場にはそのアーカイブが日々増えていく。最終日にはフィナーレとそれまでの過程がひとつになって作品は完成するのである。
各日15時から21時となっているが、入退場は自由だ。夜になればケータリングのタイ料理が振る舞われる。明確な舞台と観客席は用意されていない、ホールに一歩踏み入れれば、あとは好きに楽しめば良いのである。
参考:高山明、『ワーグナー・プロジェクト』演出ノート

毎日18:30頃からは刺激的なライブパフォーマンスがある。これは、5日目のダースレイダー率いるベーソンズのライブの様子
毎日18:30頃からは刺激的なライブパフォーマンスがある。これは、5日目のダースレイダー率いるベーソンズのライブの様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■公演情報

KAAT×高山明/Port B『ワーグナー・プロジェクト』—「ニュルンベルクのマイスタージンガー」―
構成・演出:高山明/Port B
ウェブサイトにて随時情報を更新中
http://wagnerproject.jp/

会期:10月20日(金)〜28日(土) 各日15時~21時(入退場自由)
会場:KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
出演:ワーグナー・クルー(初日のオーディションにて決定)
講師:Kダブシャイン、GOMESS、斉藤斎藤、サイプレス上野とロベルト吉野、柴田聡子、管啓次郎、瀬尾夏美、ダースレイダー、ベーソンズ、山下陽光、山田亮太 他
音楽監督:荏開津広
空間構成:小林恵吾
グラフィティ:snipe1

企画・製作:Port B、KAAT神奈川芸術劇場
主催:KAAT神奈川芸術劇場

■チケット取扱
チケットかながわ| http://www.kaat.jp/ 0570-015-415
窓口|KAAT神奈川芸術劇場2F(10:00-18:00)
チケットかながわ 0570-015-415(10:00-18:00)

チケットぴあ| http://pia.jp/t/kaat/( PC・携帯)0570-02-9999
Pコード 9 days フリーパス:786-729、3 days フリーパス:786-730、1 day パス:482-007

oboko

1988年生まれ。「いま・ここ」に生まれてくるサイト・スペシフィックな作品に特に興味がある。アートコレクター初心者。展示企画・翻訳などもします。