雑誌『週刊文春』の表紙絵や、タバコの「ハイライト」のパッケージデザインなどで知られる、国民的イラストレーターの和田誠。その膨大で多岐にわたる仕事の全貌に迫る「和田誠展」が東京オペラシティ アートギャラリーにて12月19日まで開催されている。約30のトピックスにわけることで和田誠の仕事の全貌を捉えることを試みた本展。その様子を豊富な写真とともにトピック別に紹介する。
会場を入ってすぐのトピック「似顔絵」では、身近な人を描いた小学生から高校生時代の作品や、音楽家や文筆家、タレントなど様々なジャンルの著名人の似顔絵が、壁一面に展示されている。
「似顔絵」の奥に展示されるのは、学生時代に制作したポスターや初期に制作したアニメーションから晩年の仕事まで立体的に振り返ることができる「ビジュアル年表」。年号と和田の年齢が紐づけられており、主要な作品やキャプションはもちろん、和田のコメントも記載されているものも。なお展示構成は、「エリック・カール 遊ぶための本」展(PLAY! MUSEUM)などを手がけた建築家の張替那麻(Harikae)が担当している。
展示を進むと見えてくるのは、キャリア初期の代表的な仕事のひとつ、「新宿日活名画座」のポスター。印刷所で声をかけられ、以降約9年間無償で制作したポスターの数々がパネルを占めるかたちで展示されている。ほかにも、40年以上担当し2000号にも至るまで制作した表紙や、その原画や色指定紙をモチーフにしたオブジェなどを展示した「週刊文春」などのセクションもあり、圧倒的な仕事量を示す大量のポスターが壁面に敷き詰められた光景はもはや壮大さすら覚えるだろう。
トピックス「週刊文春」「新宿日活名画座」のパネル内側には、丸谷才一や村上春樹などとの「装丁—作家との仕事」や、音楽を愛してやまなかった和田が手がけたレコードジャケットを現物で紹介する「ジャケット」、自身も映画監督として活躍した和田の、脚本や絵コンテを通じて映画製作を垣間見る「映画監督」といったトピックに関する膨大な数の作品が展示されている。すべての作品を見てももちろんよいが、自分の知っている作品や持っている書籍などを探してみるのも楽しい。
さらに進むと「ライトパブリシティ」のコーナーが。和田が大学卒業後に入社した、広告制作会社であるライトパブリシティ。「ハイライト」の版下や「ピース」の広告など、ロゴはもちろん、制作の資料も見ることができる機会は貴重だ。
2019年に逝去した和田。その仕事はイラストやグラフィックに留まることなく、映画監督やエッセイスト、アニメーション作家から作曲家、編集者と肩書きにとらわれない仕事をしてきた。しかし、その根幹にはイラストレーターという軸があったことが伺える。
多くの人が「このイラスト見たことある!」と、関わった仕事を思い浮かべるいっぽうで、和田誠がどんな「代表作」を手がけていたのか、即座に浮かべる人はそれほど多くないかもしれない。しかし、それは書籍や雑誌、レコードジャケットなど本題となるコンテンツの世界観を支える立役者=イラストレーターという職業において、もっとも本質的な仕事のやり方ではないだろうか。
4歳の頃に描いた絵物語や小学生のときの詩集などを展示した「高校生まで」や60年代に公演ポスターの制作などでかかわり、現代音楽家などと交流を深めた場所でもある「草月アートセンター」など、本レポートではふれきれなかったトピックスもまだまだある。ぜひ会場に足を運んでみてほしい。