いま、世界のアート界では何が起こっているのでしょうか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。2月1日〜13日のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「史上初、女性作家が大半のヴェネチア・ビエンナーレ」「アート税制」「できごと」「NFTの現在」「おすすめの読み物」の5項目で紹介する。
◎歴史ある国際美術展の顔ぶれに大きな変化
今年4月に開幕するヴェネチア・ビエンナーレの本館への参加作家が発表された。NYのハイラインのチーフキュレーターであるセシリア・アレマーニ(Cecilia Alemani)がキュレーター。この記事はそのリストを数字で分析する。213組の作家数は前回の83組に比べて大幅に増加している。特筆すべきはこれまで大半を占めてきた男性作家がなんとたったの21人。9割が女性作家という大きな変化。全体のうち95人が物故作家というのも多い。
https://www.artnews.com/art-news/news/2022-venice-biennale-by-the-numbers-1234618005/
◎アートマーケットへの規制のゆくえ
米国財務省のレポートによると、アートマーケットへのこれ以上の規制は当面必要ないという結論に至ったとのこと。高額アート作品がマネーロンダリングに使用された例はあるものの、ペーパーカンパニーの悪用など、ほかにもっと規制強化すべき対象があるという。この結果にひとまず胸をなでおろしている米国アート業界だが、過去2年で1億円以上をロビー活動に使ってきた。
https://www.nytimes.com/2022/02/04/arts/design/art-market-regulation.html
◎免税ハイテク倉庫「フリーポート」の裏側
映画テネットの舞台のひとつにもなった免税ハイテク倉庫「フリーポート」。ジュネーブのフリーポートには世界のどこよりも多くのピカソが保管されているという。文字通り船便での貿易が盛んな港で、事務処理の簡略化のために始まった歴史から、パナマ文書が明らかにした失われたモディリアーニをめぐる攻防、NYのハーレムにできた新施設の様子など様々な側面を語るポッドキャスト。
https://www.wbur.org/lastseen/2022/02/01/out-of-time
◎消えた《ゲルニカ》とその顛末
NYの国連本部に30年以上にわたって展示されていたピカソの反戦絵画《ゲルニカ》のタペストリーレプリカが、去年何者かによって突然取り除かれた。当時は国連事務総長が「大変なことになった」とコメントする大騒ぎになったが、それがやっとの場所に戻ってきたとのこと。これはタペストリーのオーナーのロックフェラーによる行動で、経緯説明がなかったため混乱を招いた。作品はボランティア団体のナショナル・トラストに寄贈され、そこから国連に長期貸与されるかたちで、今後は国連以外の場所にも巡回することも予定されているそう。
https://www.nytimes.com/2022/02/05/world/americas/guernica-tapestry-un-rockefeller.html
◎ジョージ・コンドの贋作ドローイング
ここ5〜6年で人気が急上昇し、マーケットが高騰したジョージ・コンド。彼の贋作ドローイングを作り本物と混ぜ、発覚しにくいように巧妙に売っていたグループがいるようで、捜査が進んでいる。なんと超大手のサザビーズでも2018年、贋作とわからずオークションにかかったが幸い不落札に終わっていたとのこと。
https://www.vanityfair.com/style/2022/02/how-george-condo-is-fighting-his-forgers
◎ホイットニー美術館のコンサベーター支援のために寄付
サイ・トゥオンブリー財団がホイットニー美術館のコンサベーター(作品や資料の保存、修復に関する専門的職務)支援のために3億円弱の寄付をした。1979年にトゥオンブリーの最初のNYでの美術館個展を開催して以来縁が深い。また、トゥオンブリーは作品をたんなるモノとして扱うだけでなく作家の意図を大事にするといったホイットニー美術館の先進的な保存修復ポリシーに大きな影響を与えてきたという。
https://news.artnet.com/art-world/cy-twombly-foundation-whitney-conservation-2070755
◎ガードマンが絵画に落書き、刑事罰に問われる
ロシアの美術館で、暇を持て余したガードマンが1932年に描かれたアンナ・レポルスカヤ(Anna Leporskaya)の絵画の顔にボールペンで目を落書きしてしまい、大事になっている。幸い大きなダメージにはなっておらず軽い修復で済みそうだが、なんと刑事罰に問われているとのこと。
https://news.artnet.com/art-world/vandalized-artwork-russia-pen-2071125
◎キム・カーダシアンの邸宅は2人の日本人建築家が設計
カニエ・ウェスト(イェ)と離婚したキム・カーダシアンだが、彼らが住んでいた邸宅は今後もカーダシアンが保持する予定。だが、なんとさらに新しく2つの家を計画中で、両方とも日本人建築家が担当するとのこと。カリフォルニアのパームスプリングスの邸宅は安藤忠雄が、そして場所は秘密にされている湖沿いの邸宅を隈研吾がデザインするそう。
https://www.architecturaldigest.com/story/kim-kardashian-is-working-with-these-two-japanese-starchitects-on-a-pair-of-new-homes
◎ロスコの大回顧展が開催へ
マーク・ロスコは巨大なキャンバスの絵画が有名だが、紙に描いた絵画も多数あるそうで、そこに焦点を当てた100点規模の大回顧展が2023年にワシントンD.C.のナショナルギャラリーで予定されているとのこと。その後オスロに巡回予定。紙とはいえ2mを超える大きな作品も含まれる。
https://www.artnews.com/art-news/news/mark-rothko-paintings-paper-survey-national-gallery-of-art-1234618904/
◎コロナ禍でのクリエイティブ業界の失職
UNESCOによるとコロナ禍で1000万人以上のクリエイティブ業界の職が失われた。クリエイティブ業界は世界的に急成長中だが、同時に不安定でもあり、フリーランスが多いこの業界は、多くの国で社会保障制度が不足しているとも指摘している。資金豊富なストリーミング企業とそのクリエイター間の収入の不均衡の是正も呼びかけている。
https://www.artnews.com/art-news/news/unesco-report-cultural-sector-crisis-1234618388/
◎NFT作品購入の狂乱の「スピード」についての覚え書き
人気のあるNFT作品はあらかじめ発表された時間に作品群が「ドロップ」され、それを待ちわびたファン、コレクター、投機家たちがモニターに張り付き、その時間が来ると一斉に購入を試みる。そのドロップにまつわる「スピード」について、興奮とともに違和感のようなものを記述した文章。NFTのエコシステムのなかで個人的にもわだかまりを感じる部分についての記述で興味深い。
https://hyperallergic.com/705428/waiting-for-the-drop-crypto-art-and-speed/
◎フランシス・ベーコンが描く「動物」と「人」
ロンドンのロイヤルアカデミーで4月17日まで開催中のフランシス・ベーコンの回顧展「Man and Beast」のレビュー記事。ベーコンの動物と人に焦点を当てた展覧会。美術史上、動物の歯は多くの画家に強調されてきたが、人の歯を描いた数少ない画家なのではないかという指摘も。
https://hyperallergic.com/709707/the-beastliness-of-bacon/
◎ギャラリストからアーティストへのアドバイス
アーティストが自分の所属ギャラリーを見つけるためにどうすればいいか。イギリス、アメリカ、ガーナなど幅広いギャラリストなどにインタビューした記事。当然のことながら、これですべてが解決といった「銀の弾丸」はないが、ベーシックにやるべきこと、逆にやってはいけないことなどのアイデアがたくさん出てくる記事。
https://news.artnet.com/art-world/ask-experts-how-do-i-go-about-getting-gallery-representation-as-an-artist-2070661