2023年5月20日から11月26日にかけて開催される「第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」の日本館展示の詳細が発表された。
展覧会タイトルは「愛される建築を目指してー建築を生き物として捉える(英題:Architecture, a place to be loved― when architecture is seen as a living creature)」。
建築家・吉阪隆正(1917〜1980)が手掛けた日本館そのものにスポットを当てた展覧会となる。キュレーターは大西麻貴(建築家、o+h 共同代表)、副キュレーターは百田有希(建築家、o+h 共同代表)が務め、原田祐馬(デザイナー、UMA/design farm 代表)、多田智美(編集者、MUESUM 代表)を含むキュレーションチームが組まれる。
出展者は、dot architects(建築家 | 家成俊勝、土井亘、池田藍、宮地敬子)、森山茜(テキスタイルデザイナー・アーティスト)、水野太史(建築家、窯業家、水野製陶園ラボ代表)。
今和次郎や近代建築の巨匠ル・コルビュジエに師事し、戦後復興期から1980年まで活躍した建築家の吉阪隆正。吉阪の代表作である日本館は1956年に竣工され、ヴェネチアの地で半世紀以上にわたり日本の美術・建築を紹介してきた。
本展では、建築家のみならず、テキスタイルデザイナー、窯業家、デザイナー、編集者、金工、アニメーターといった専門性の異なるチームメンバーが、吉阪が設計した日本館建築そのものを展示物と捉え、大西、百田の両氏が長年に渡り取り組んできたテーマである「愛される建築」を実践する。
ファサードにかかるテントの屋根、開口部に吊るされたモビール、バーのような憩いの場として人々が交差するピロティ、日本館の特徴を語る上で欠かせない構造壁に投影されたアニメーション、さらに日本館のコンセプトや造形への回答として制作され、室内に展示される模型、什器、再編集した書籍など、様々な作り手が日本館と向き合い、構想した展示物を通して、来場者が「愛される建築」について考えられる場を作るという。
また会期中は、関係者によるトークイベントやワークショップ等を通じて、「生きた場」として日本館を育て続けることを目指す。
キュレーターの大西麻貴は、以下のステイトメントを寄せている。
愛される建築を目指してー建築を生き物として捉える
2023年初夏、日本館の竣工から67年が経ちました。日本館は、たくさんの人を受け入れながら、今もこの場所に立っています。今回、私たちは「愛される建築」をテーマに、吉阪隆正さんにより設計された日本館そのものと向き合うことから展覧会を育ててきました。
「愛される建築」を目指す私たちの活動は、その場所を取り巻く風景や営み、刻まれた記憶や物語も含めて「建築」と捉えることで、「建築」がもつ意味や可能性を広げていく試みです。そのために私たちは、建築を“生き物”と捉えることからはじめたいと思います。
「ものをつくるとは、そのものに生命を移すことだ」。これは吉阪隆正さんが残した言葉です。命を宿す自立した存在として建築と向き合うと、その価値を機能や性能で測るのではなく、欠点や未完成な部分も含めて愛しみ、育んでいくことができます。そのように建築の個性をおおらかに受け止める姿勢は、人間や動植物を含めた私たちそれぞれが、互いの違いを認め、尊ぶことのできる寛容な世界へとつながっていくのではないでしょうか。
もし日本館が“生き物”だとしたら、私たちはこの場所をどのようなまなざしで見つめ直すことができるでしょう。会場内に点在する日本館へのさまざまな応答を手がかりに、ここを訪れた人々とともに「愛される建築とはなにか」を考え、私たちと建築との関係を問い直してみたいと思います。キュレーター 大西麻貴
*吉阪隆正については以下の記事もあわせてどうぞ。