ゴッホの世界を五感で感じられるイマーシブ(没入型・体験型)の展覧会「ゴッホ・アライブ東京展」が、寺田倉庫G1ビルで3月31日まで開催中だ。
これまでに世界99都市を巡回し900万人を動員した同展は、世界100都市目の開催地として東京に上陸後、6月には九州に初上陸し、福岡三越9階「三越ギャラリー」で開催される(6月15日~9月13日)。名古屋展は14万人、神戸展は20万人を動員したという本展。その内容をお届けする。
本展の企画を行ったのはオーストラリアの会社、グランデ・エクスペリエンセズ。実現に至るまでに10年にわたる試行錯誤と18ヶ月の制作期間があったという。
空間に足を踏み入れると、広い展示室にいくつも設置された大きな壁と柱、床にゴッホの言葉や作品が代わる代わるプロジェクションされ、こちらを飲み込むようなドラマチックな演出が圧巻。最新技術のマルチチャンネル・モーショングラフィックスと映画館のようなサラウンド音響、高精細のプロジェクターの組み合わせによってゴッホの作品と内面世界が表現される。
ゴッホの一連の自画像からスタートする本展。故郷でもあるオランダから始まりアルル、サン=レミなどのゴッホが移り住んだ場所とそこでの環境、経験がゴッホの作品に直接反映される様が伝わってくる。作品理解を深めるのは、作品の合間に差し込まれる当時のゴッホが残した以下のような言葉たちだ。
「生きていると感じられる唯一の瞬間は、描いているときだ」
「人物であれ風景であれ、僕が表現したいのは、甘っちょろい感傷などではなく、真の哀しみだ」
「『ヒマワリ』は僕自身だともいえる」
「僕は何一つはっきりと知っていることはない。でも星を見ると夢のような気分になる」
一般的な展覧会と異なり本展には順路がない。最大41台(会場によって異なる)のプロジェクターが会場全体にひとつのタイムラインを投影するため、ただただぼんやりと会場を歩いたり、座り込んで映像を見ていれば、45分のドラマをいつのまにか見終わっているような感覚だ。
そんなゴッホの人生ドラマをさらに盛り上げるのが、クラシック音楽の数々。アントニオ・ヴィヴァルディ「四季より嵐」、J.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲 第1番ト短調」、エリック・サティ「ジムノペディ 第1番」、フランツ・リスト「灰色の雲」といった名曲に混ざって日本の民謡「さくら、さくら」が登場するシーンもある。
展覧会というよりも映画、映画というよりもアトラクションに近い体験がもたらされる本展には多くの人が訪れ、写真や映像を撮りながら思い思いに空間に親しんでいた。その様子は、イマーシブな展覧会が今後ますます増えていくことを予感させた。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)