フェリックス・ヴァロットン 学生たちのデモ行進(息づく街パリⅤ) 1893 ジンコグラフ 三菱一号館美術館蔵
スイスに生まれ、19世紀末のパリで活躍した画家フェリックス・ヴァロットンの回顧展「ヴァロットン ー 黒と白」が、東京・三菱一号美術館で開催される。会期は10月29日から2023年1月29日。
16歳の若さでパリに出たヴァロットン。当初はアカデミー・ジュリアンで学びながら身近な家族や知人などをモチーフに描いていたが、師の手解きを受けて木版画制作を開始。ほどなく人気を得た彼は、複製のための版画ではない、創作版画(エスタンプ・オリジナル)の機運の高まりとともに、木版画復興の立役者のひとりとなる。
華やかなパリの街で暮らしながらも、ヴァロットンの眼差しがもっとも注がれたのは社会の暗部を露呈する事件であり、それらを皮肉やユーモアを込めて描くことを彼は選択する。現実の出来事を斬新なフレーミングや抽象化を通して描く挑戦は、線的な木版表現を次第に離れ、ヴァロットン作品を象徴する「対象を黒い塊として把握する」傾向が強まっていった。
名声の獲得とともに、1893年に「ナビ派」に加わったヴァロットンは、挿絵などの仕事を手掛けながら、「黒」の表現を追求していく。そのなかで生まれたのが1898年に発表した「アンティミテ」。限定30部の連作である同作では、当時彼が多く手掛けていた緊張感と謎めいた雰囲気の漂う室内画を土台に、男女関係と結婚生活の不協和音が10の場面を通して描かれるのだった。
黒と白に抽象化された木版表現をストイックに追求し、神話などの空想的世界への関心、従軍画家として帯同した第一次世界大戦との関わりなどから、葛藤や矛盾に満ちた現実を描いてきたヴァロットン。世界有数のヴァロットンコレクションを有する三菱一号美術館の所蔵作を核とする約180点の出品作から、彼の作品世界に触れたい。