今週末まで、品川・八潮団地の集会場で展覧会が開催されている。
この企画はキュレーターの石毛健太(URG(Urban Research Group))自身が育った場所で、「団地」の現在の姿を7人の作家と共に描き出す試みだ。
展示会場は品川の東にある「八潮パークタウン」内の1棟にある団地の集会場になる。
ステレオタイプ化された「団地」のイメージの更新
高度経済成長期以降に大都市の周縁に林立した新興の団地群はおおよそ築30年を迎え、住人の高齢化、建物の老朽化、増える外国籍住人との共存といったさまざまな課題を抱えている。メディアなどで多く取り上げられたことによって、団地に対するステレオタイプ化されたイメージが形成されてしまっているようにも思える。
今回、愛知県豊田市保見団地に暮らす南米出身者を中心とした外国籍住人の姿を撮影している名越啓介のポートレートシリーズと、団地に暮らす父へのインタビューで構成されるやんツー(yang02)の作品は、そのようなステレオタイプ化された団地のイメージを増強しているようにも見える。しかし、EVERYDAY HOLIDAY SQUADが振る舞う八潮団地の住人から集めたレシピでつくった日替わりカレーや、事実とフィクションの境目で「ここ」八潮団地の部屋に住む人々の生活について想像することを要請するようなryusei etouと、垂水五滴の作品も含め簡単には一般化できない、その団地の多様な住人や暮らしの様相も浮かび上がってくる。
ステレオタイプ化された「品川」という街のイメージの拡張
街や地域に対して抱くイメージもステレオタイプ化されがちだ。品川といえば、品川シーサイド駅周りの新しい高層ビル街のイメージが強い。しかし、品川も多様な顔をもつ地域だ。そもそも、JR品川駅から歩くとすぐに、首都圏に精肉を提供する東京都中央卸売市場食肉市場(芝浦屠場)がある。日本最大の牛の処理頭数と取引金額を誇る屠殺場だ。首都高速湾岸線沿いには新幹線の車両基地やコンテナが並ぶ物流の拠点大井ふ頭がある。そして、今回の展示会場となっている八潮パークタウンは東京湾沿岸の人工島の一画につくられた団地群だ。69棟からなる団地群には1万人以上が暮らしている。学校や福祉施設も団地の敷地内にあり、緑も多く、平日の夕方には、公園で子どもたちが元気に遊んでいる。住んでいない限りなかなか訪れる機会のない品川の街の意外な一面かもしれない。
この展示を見に行く前日、驚くべきニュースを読んだ。遠い国フランスのことである。フランス、パリ市の周縁は、移民が多く暮らす団地群があり、永らくパリ市内との生活水準の格差や治安の悪さが問題となっており、中心街と明らかに断絶された「郊外」が存在している。そのよう中で、イル=ド=フランス地域圏(日本でいえば東京首都圏地域に当たる)現知事ヴァレリー・ペクレスが郊外で発生した犯罪に限って、その刑期を倍に引き伸ばすことができるという人権侵害にもなりかねない法律を提案したというのだ。そのような法律案が出される背景には、郊外に住む人々への差別意識があるのではないだろうか。
日本の団地の状況は、フランスと全く異なる。しかし、戦後から高度経済成長期に建てられた首都圏近郊団地の変化を後退あるいは、退廃的なものとして捉えるのではなく、多角的に捉え、関わっていくことが求められているのは確かだろう。
■概要
タイトル:変容する周辺、近郊、団地
会期:2018年10月21日 ~ 11月4日
会場:東京都品川区八潮5-6 37号棟集会所
開館時間:12:00 ~ 19:00
ウェブサイト:http://sidecore.net/
企画:URG(Urban Research Group)
協力:UR都市機構、SIDE CORE
参加作家:EVERYDAY HOLIDAY SQUAD、垂水五滴、中島晴矢 a.k.a DOPE MEN、名越啓介、BIEN、yang02、ryusei etou