公開日:2024年5月23日

渋谷に誕生する新しい美術館「UESHIMA MUSEUM」をレポート。670点に及ぶ現代アート・コレクションの一部が6月から一般公開

東京・渋谷に新しい美術館「UESHIMA MUSEUM」がオープン。オープニング展の様子を一足先にレポート。

UESHIMA MUSEUM外観

670点を超える「UESHIMA COLLECTION」の一部が公開 

2024年6月1日、東京・渋谷に新しい美術館UESHIMA MUSEUMがオープンする。事業家・投資家である植島幹九郎が収集した現代アートのコレクション「UESHIMA COLLECTION」の一般公開を目的に作られた同館。本記事では一般公開に先駆けて行われたプレス向け内覧会の様子をレポートする。

UESHIMA MUSEUM外観

同館は、植島の出身母校でもあり「自調自考」を目標に国際的な視野や高い倫理観を重視した教育で定評のある渋谷教育学園の敷地内に誕生。建物は、ブリティッシュ・スクール・イン・東京が2023年8月まで利用していた建物を「渋谷教育学園 植島タワー」としてリノベーションして開館した。建築はOKB+tan.設計室+義山建築設計事務所によるもので、実際に学校の施設として使われていた地下1階から6階までの全7フロアと、階段や渡り廊下だった空間までが展示室として生まれかわった。

展示風景

オープニング展では、全部で670点に及ぶ「UESHIMA COLLECTION」のなかから、展示室ごとのテーマに沿った選りすぐりの作品が展示。構成のアドバイザーはキュレーター、プロデューサーの山峰潤也が担当した。

1日1作品以上のペースで集められたコレクション

2022年から現代アートの収集を開始した植島館長。同年はほとんどの時間をコレクションの収集やアートについてのリサーチに費やしていたという。オンラインで行われていたオークションに昼夜問わず参加し、1日1.5点を超える並々ならぬスピード感でコレクションを形成した。いままでもウェブサイトやInstagramでコレクションの公開は行っていたが、かねてより美術館というリアルな場で作品を公開・展示したいという強い気持ちがあり、そのような思いが今回ようやく実を結んだ

展示風景
展示風景

本展は地下1階から順に階層を上がっていくような構成となっており、最初のフロア(地下1階)では抽象絵画がテーマとなっている。イケムラ・レイコ、 カタリーナ・グロッセ、ベルナール・フリズなど、絵画が時代遅れとされていた1970年代に新しい絵画の可能性を探求した抽象画家たちの作品が展示される。

会場風景より、ミカ・タジマ《You Be My Body For Me(Unit 3)》(2020)
展示風景より、岡﨑乾二郎の作品

つづく1階ではミカ・タジマ、岡﨑乾二郎の2人のアーティストの作品が展示される。後半に展示されている岡﨑の最新作には、病気から復帰した彼が彫刻表現を行うことでだんだんと気力を取り戻していったという背景があるのだと、アドバイザーの山峰は語った。

アートファンからアート初心者まで楽しめる展示内容

本展の魅力のひとつは「UESHIMA COLLECTION」から厳選された豪華な展示ラインナップにあると言えるだろう。2階の展示フロアには、池田亮司、オラファー・エリアソン、シアスター・ゲイツ、塩田千春、名和晃平、村上隆、ライアン・ガンダー、ルイーズ・ブルジョアなど、国際的に活躍するアーティストの作品が並ぶ。まだ現代アートにはあまり馴染みのないという方でも、多種多様な作品が展示されている本展でなら、何かしら興味を引かれるような作品に出会えるはずだ。

展示風景より、画像奥はトーマス・ルフ《Substrat 7 III》(2002)
池田亮司 data.scan [n°1b-9b] 2011/2022
名和晃平 PixCell-Sharpe's grysbok 2023

また、ドイツで現代的な写真表現を探求した、ベッヒャー派アンドレアス・グルスキートーマス・ルフが向かい合って配置されている様子や、トレイシー・エミンのネオン作品のとなりにダン・フレイヴィンによる蛍光灯を用いた作品が展示されているなど、展示構成の背景を探りながら見ていくのも面白いかもしれない。

展示風景より、画像奥がアンドレアス・グルスキー《Bangkok IX》(2011)
会場風景より、トレイシー・エミン《It’s what I’d like to be》(1999)

同時代を生きるアーティストは何を表現しているのか

2階の展示室では、東京・森美術館で日本初の大規模個展が開催中のブラック・アーティスト、シアスター・ゲイツの作品も展示されている。ブラック・アメリカンの歴史と実情を示す統計資料のひとつをネオンで表現した彼の作品は、設置や展示室に流れる音楽もシアスター本人が監修している。いまのわたしたちと同じ時代を生きるアーティストたちが、何を感じどのような表現を行っているのかということを知るきっかけになるような作品が多いのも本展の特徴と言えるだろう

シアスター・ゲイツ Slaves, Ex Slaves 2021

このような同時代性というキーワードは、3階、4階の展示室でも感じられる。日本人女性アーティストをテーマにした3階の展示室では、画像編集ソフトのPhotoshopで下絵を作り、絵画化する今津景の作品が、さわひらきの飛行機が室内をゆっくりと飛び回る映像作品に出迎えられる4階の展示室では、宮永愛子の常温で気化するナフタリンという物質を用いた彫刻作品や、宮島達男のLEDカウンターを用いた作品が展示されるなど、同時代におけるアート作品の素材や技法の幅広さも感じられるはずだ

展示風景より、左から今津景《Drowsiness》(2022)、《Mermaid of Banda Sea》(2024)
展示風景より、さわひらき《/home, /home(obsence)》(2021)
展示風景より、宮永愛子《くぼみに眠るそら-寝虎-》(2022)

5階では長きにわたって活動を行う日本人アーティスト、松本陽子の絵画をテーマにした展示が行われていた。アメリカの抽象表現主義の作品や山水画などに影響を受けながら、当時は油彩が中心であった日本の抽象表現のなかで、アクリル絵具を用いた表現の可能性を切り開いてきた松本。80歳後半を超える今なお制作を続ける彼女は、1980年~90年代にかけて確立していたピンクを主色調にした抽象画のスタイルから一転して、近年は他の色を用いた抽象絵画も制作している。本展ではピンク、緑、青を主色相として用いた絵画を一挙に鑑賞できる機会となっており、キャリアの長いアーティストが、時代に応じてどのように表現の幅を広げていったかという意味での「同時代性」も感じられるだろう

展示風景より、左から松本陽子《振動する風景的画面》(2017)、《熱帯》(2021)
松本陽子 The Day I Saw the Evening Star 2023

美術館としての在り方について考える

内覧会では、UESHIMA MUSEUMの今後の運営についての質問がメディアから投げかけられた。植島館長は、詳細な予定は未定だとしたが、美術館が次世代のキュレーターや評論家、そして学生たちの教育の場として相互的に機能し、社会的な役割を果たす未来を語った

植島館長の個人コレクションを公開する同館が、未来のキュレーターや学生たち、そして美術館を訪れる鑑賞者を含む「社会」とどのような交わりを設計していくのかという点は、今後も同館が期待されるポイントになるだろう。現時点では、美術(史)教育が遅れていると言われる日本で、実際の作品を見ながら現代美術についての教育を行える場所がひとつ新たに完成したということは、非常に喜ばしいことだと言えるのではないだろうか。

UESHIMA MUSEUM館長 植島幹九郎
アンディ・ウォーホル Campbell’s Soup I: Tomato 1968

東京・渋谷という場所に新しく出来たUESHIMA MUSEUMはこれからどのようなアート体験をわたしたちに見せてくれるのか。同館と同時代のアーティスト、そして社会を交えた物語の始まりとも言える本展をぜひその目で確かめに行ってほしい。

オラファ―・エリアソン Eye See You 2006

「UESHIMA MUSEUM オープニング展」
スケジュール:2024年6月1日(土) 〜 12月末終了予定 事前予約制 ※3F・4Fは土曜日のみ公開
開館時間:11:00 〜 17:00 
休館日:月曜、日曜、祝日
入場料:一般 1500円、高校生・中学生 1000円、小学生以下 無料
展覧会URL:https://ueshima-museum.com/launch/

井嶋 遼(編集部インターン)

井嶋 遼(編集部インターン)

2024年3月より「Tokyo Art Beat」 編集部インターン