UCCA Clay外観 撮影:2024年11月
中国江蘇省宜興(イーシン)市は、3000年以上の歴史を持つ陶磁器の産地として知られ、「陶都」の別名を持つ。上海と南京のおよそ中間に位置し、いずれからも高速鉄道で片道1時間半ほどで到着できる。その宜興に、2024年10月、現代陶芸に特化した美術館UCCA Clayが開館した。設計は世界的に著名な建築家、隈研吾だ。
UCCA Clayは、UCCA(尤倫斯当代芸術中心)の4つ目の美術館だ。北京のUCCAの姉妹館として、中国における現代陶芸の振興と国際的な文化交流を目的に設立された。UCCAは2007年に北京の798芸術区に開館して以来、経営母体を変えながらも上海のUCCA Edge、北戴河のUCCA Duneといった拠点を次々と展開している。
UCCA Clayの建つ宜興は数千年にわたる陶芸の歴史を持つ地であり、紫砂(宜興で採掘される土の総称)陶器の発祥地としても知られている。再開発された「陶二厂文化街区」の中心に位置することから、地域コミュニティと国際アートコミュニティの橋渡し役も期待されている。
隈研吾は自然素材を活かした建築で知られているが、UCCA Clayでも地元産の竹やレンガを多用することで、周囲との調和を図る。建物全体は、伝統的な窯(かま)をモチーフにした独特の形状だ。
隈による2400平方メートルの建築空間は、宜興の伝統的な「紫砂」の色調を反映した手焼きテラコッタタイルで覆われている。これは隈にとって意外にも初めての粘土を主要素材とした建築プロジェクトだ。
美術館は橋のような構造で、片側が展示スペース、小さめのもう片方はカフェが入り、中空でつながっている。平日日中でもひっきりなしに観光客が訪れ、美術館の前でセルフポートレートを撮ったり、自分で流す音楽に合わせて踊ったり楽しんでいた。
開館展「器之道」(英題: The Ways of Clay)は、2024年10月19日から2025年2月23日まで開催中だ。岐阜県現代陶芸美術館が所蔵する「美濃国際陶芸祭」受賞作品を中心に、世界17ヶ国から集まった65名のアーティストによる69点の作品が展示されている。
「自然之籽(Seeds of Nature)」、「几何之构(Geometric Structure)」、「冥想之园(Garden of Meditation)」という3つのテーマで構成されており、日本の美濃の焼き物も多いが、国際的にもバリエーション豊かな作品が並ぶ。
展示スペースは2フロアに分かれていて、階段で2階に登るつくりになっている。展示デザイナーのAnna Xiaoran Yangは、隈研吾の建築哲学に呼応し、不規則の多角形で展示台を構成した。無垢材を用いて陶芸を引き立てている。
UCCA Clayは、中国の現代陶芸を振興し、国際的な文化交流を促進するための新たな拠点として、大きな期待を背負っている。折しも昨年末から、日本からの中国への渡航ビザは2025年いっぱいまで緩和されている(2025年2月現在)。建築ファンのみならず陶芸好きにも気になる存在のUCCA Clay、上海や南京から足を伸ばしていく価値はありそうだ。