2025年春、日本で最後発の県立美術館となる鳥取県立美術館がオープンする。9月13日、懇談会が行われ、梅田雅彦(鳥取県教育委員会事務局 美術館整備局長)、尾﨑信一郎(鳥取県教育委員会事務局美術振興監・館長予定者)、三浦努(鳥取県教育委員会事務局美術館整備課参事・博物館美術振興課長)の3名からコレクション内容や年間予定などが明らかにされた。
館長予定者の尾﨑は、1962年鳥取市生まれ、1992年大阪大学文学部大学院芸術学研究科博士課程単位取得修了。兵庫県立近代美術館学芸員、国立国際美術館研究員、京都国立近代美術館主任研究官として勤務後、鳥取県立博物館館長を務めた。これまでに企画した主な展覧会に「重力―戦後美術の座標軸」(国立国際美術館、1997)、「アウト・オブ・アクションズ」(ロサンゼルス現代美術館、1998)、「痕跡―戦後美術における身体と思考」(京都国立近代美術館、2004)、「彫刻家 辻晉堂展」(鳥取県立博物館、2010)、「日本におけるキュビスム―ピカソ・インパクト」(鳥取県立博物館、2016)などがある。
尾﨑は美術館の役割について、「たんに美術品に触れるだけではなく、何かを考える契機となってほしい。また、多様な価値観を受け入れ、与えられた価値ではなく新しい価値を生み出す美術館にしていきたい」。そして、自身の阪神大震災での経験をもとに「美術が人々の精神的なライフラインになるということを伝えいきたい」と話した。また館長就任にあたっては、「知識と経験、とくに人脈を生かしていきたい」と意気込みを見せた。また、美術館運営については「ただ美術品を集め、並べていくだけではダメだと思った」として、PFI方式(公共施設の整備・運営等に、民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うことで、効率的かつ効果的な公共サ-ビスの提供を図る方式)を採用。「PFI方式を採用する美術館として、モデルになっていきたい」と語った。
同館のコレクションは、鳥取県博物館のコレクション約1万618点と活動を継承しつつ、新たな方針によるアート作品収集や企画展の開催にも積極的に取り組むという。
その方針というのは、鳥取県に関連する近世以前〜現代の作品、現代アートを含む国内外の優れた美術。懇談会では、《ブリロ・ボックス》を同館が購入したことでも話題となったアンディ・ウォーホルのほか、土方稲嶺、片山楊谷、前田寛治、辻晉堂、中ハシ克シゲ、長谷川利行、村岡三郎、依田順子、井上有一、竹川宣彰、眞島竜男、与謝蕪村、曾我蕭白、小島善太郎、古賀春江、堀内正和、塩谷定好、植田正治、やなぎみわらの名前が挙がった。
屋内外に常設する作品として、青木野枝や李禹煥の彫刻作品も調整中だという。なおコレクションは年間5億円の基金により購入を続けてきており、2023年度購入分は来週開会する鳥取県議会9月定例会に一般会計補正予算案として提案される。
気になるオープニング展は、2025年の3月下旬より「アート・オブ・ザ・リアル 時代を超える美術〜若冲、ウォーホル、リヒターへ〜」。江戸期から現代、日本と世界の名作200点を一堂に展示する本展は、6つのテーマに沿って、美術における「リアル」の変貌をたどる。女性作家や非欧米系の作家の作品も紹介され、従来の美術史とは異なった視点を提供するという。
その後は7月から、鳥取ゆかりの人物でもある水木しげるの展覧会「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展」、10月から「日本美術×動植物〜 アートの楽園へようこそ〜」(仮称)、2026年2月からは国内外の現代アーティストによるグループ展「CONNEXIONS〜未来とわたしたちをつなぐ〜」を予定。本展では現代アーティストの滞在制作作品を含めた新作が制作、発表されるということで、現代アートファンには楽しみな展覧会となりそうだ。
同館では、子供たちをはじめすべての人がアートを身近に感じ、楽しめることを目指した、アートの学びにまつわる研究室「アート・ラーニング・ラボ(A.L.L)」を設置。鑑賞プログラム、ワークショップ、対話型鑑賞など多彩なラーニングプログラムを予定。
また、鳥取県や近隣の県の館と連動・連携した「美術館ツーリズム」、丹下健三設計の倉吉市役所本庁舎をはじめとした鳥取県内の名建築をたどる「建築ツーリズム」を提案。近隣のミュージアム連携のハブとなるとともに、地域の魅力を幅広く伝える大切な役割を担っていくことになりそうだ。
野路千晶(編集部)
野路千晶(編集部)