東京都写真美術館 概観
1995年に恵比寿ガーデンプレイス内に開館した東京都写真美術館。総合開館30周年を迎える2025年度に、同館にて開催される展覧会のラインアップが発表された。
写真集『IN MY ROOM』(2005)で第31回木村伊兵衛写真賞を受賞し、国内外で活躍する写真家、アーティストの鷹野隆大。初公開作品を含め、その軌跡を概観する展覧会が開催される。鷹野は、『IN MY ROOM』に代表されるセクシュアリティをテーマとした作品と並行し、「毎日写真」や「カスババ」といった日常のスナップショットを手がけ、さらに東日本大震災以降は、「影」を被写体とした写真の根源に迫るテーマにも取り組んでいる。展覧会タイトルの「カスババ」は鷹野による造語で、「カスのような場所(バ)」の複数形だという。
総合開館30周年を記念して、2025年の「TOPコレクション展」は2期にわたって開催。同館の学芸員7名による共同企画のオムニバス形式の展覧会となり、合計10のテーマから構成される。第1期となる本展では、江戸初期の俳人・松尾芭蕉が俳句の心構えについて述べた言葉に由来する「不易流行」をタイトルに掲げ、写真の黎明期である19世紀から現代まで、5つのテーマでコレクションを読み解く。
欧米での個展の開催やドキュメンタリー映画の発表など、近年国際的に注目されるイタリアの写真家、ルイジ・ギッリ。その類稀な色彩、空間、光への美的感覚と、ありふれたものをユーモラスに視覚化する才能により、写真表現を新たなレベルへと引き上げた。本展は、ギッリによるアジア初の美術館個展となる。
総合開館30周年を記念した「TOPコレクション展」の第2期は、モノとして存在する写真の「物質性」や、被写体や作家自身の「身体的表現」に着目。「撮ること、描くこと、コンストラクト」「踊ること」「COLORS」「コンセプチュアルアートにおける写真映像表現」「ヴィンテージ・プリント、ユニークピース」という5つのテーマで同館コレクションの魅力を紹介する。
ポルトガルの鬼才、映画監督ペドロ・コスタの日本初個展が開催。ポルトガルでの大規模個展「companhia」(2018〜19)や、スペインでの「The Song of Pedro Costa」(2022〜23)の開催など、世界で注目されるコスタの映像作品に加え、美術館所蔵の写真・映像コレクションも紹介し、映像とイメージの歴史を浮かび上がらせる。コスタの制作方法や社会的構造へのアプローチ、映画史との関連を、映像や写真・資料などから考える。
2002年から開催されている「日本の新進作家」展は、写真・映像の可能性に挑戦する創造的精神を支援し、将来性のある作家を発掘するとともに、新たな創造活動を紹介するグループ展。22回目となる今回は、人と時代の流れや場所、風習などの物事との結びつきによって生まれた小さな物語に焦点を当て、5人の現代作家を紹介する。
1968年に美術評論家の多木浩二と写真家の中平卓馬によって発案され、詩人の岡田隆彦と写真家の高梨豊が加わった同人誌『provoke』。荒れた粒子に不安定な構図の写真群は「アレ、ブレ、ボケ」と賛否両論を巻き起こし、時代に大きなインパクトを与えたいっぽう、同時代の学生たちは彼らに触発されながらも学生運動の影響を受け、自身の問題意識で撮影を行った。同誌にフォーカスする本展では、2つの表現の流れを軸に、1960〜70年代の時代を浮かび上がらせる。
「恵比寿映像祭」は、2009年の初開催以来、年に1度、展示や上映、パフォーマンス、トークセッションなどを複合的に行ってきた映像とアートの国際フェスティバル。映像分野における創造活動の活性化と、映像表現やメディアの発展にまつわる課題について、広く共有する場となることを目指してきた。近年は地域とのつながりや国際的なネットワークの強化に力を入れている。
20世紀を代表するアメリカの写真家、W.ユージン・スミス(1918〜1978)。1954年に『ライフ』誌を退職したのち、マンハッタンのロフトに移り住み、セロニアス・モンク、マイルス・デイヴィス、ボブ・ディランといった音楽家や、サルバドール・ダリ、ロバート・フランク、ダイアン・アーバスといった芸術家らとの交流を通して、多くの作品を生み出した。本展では、1950年代から晩年期までのスミスの活動を同館のコレクションから紹介する。