会場風景
ニューヨークを拠点に活動する現代美術家、松山智一の大規模展覧会「松山智一展 FIRST LAST」展が、麻布台ヒルズ ギャラリーで開幕した。会期は3月8日から5月11日まで。
松山智一は1976年岐阜県生まれ。ブルックリン在住。絵画を中心に、彫刻やインスタレーションを発表。アジアとヨーロッパ、古代と現代、具象と抽象といった両極の要素を有機的に結びつけて再構築し、異文化間での自身の経験や情報化の中で移ろう現代社会の姿を反映した作品を制作する。
本展は、25年にわたりニューヨークで活動し、いまや世界が注目する次世代アーティストのひとりとなった松山にとって、東京で初の大規模個展となる。キュレーターは建畠晢。アソシエイト・キュレーターを丹原健翔が務める。
内覧会に登場した松山は、本展について次のようにコメントした。
「アメリカに移民として渡り、作品を通じて多文化主義をテーマにしてきました。しかし、近年アメリカではダイバーシティの概念が迷走し、マイノリティの視点がより求められるようになっています。私自身、特権的な立場ではなく、孤独を感じながらも誇りを持って活動してきました。今回の展覧会も、そうした背景を踏まえたものになっています」(松山)
松山の作品の最大の特徴は、眩いばかりの色彩だ。作家自身で作り出した何千もの色が、様々な技法を通じてキャンバスで共鳴し、世界を彩る多様な文化、伝統、宗教、そして歴史と現代、ハイカルチャーと日常品といった多様な要素を描き出す。本展では、これまで海外でしか見ることができなかった日本初公開の作品や最新作15点を含む、代表作と合わせて約40点が展示される。
さらに、本展では最新のシリーズ「First Last」も発表される。本シリーズでは、松山がアメリカ社会が抱える諸問題を起点に、作家自身の特異な背景がもたらす独自の視点を通して世界をとらえなおし、芸術によって新たな共感を創り出している。
「First Last」というタイトルは聖書の一節に由来しており、「最初の者が最後になり、最後の者が最初になる」という意味を持つ。このテーマは、松山のクリスチャンとしてのアイデンティティと深く関わっており、彼にとって重要な課題となっているという。松山はこれについて、次のように解説している。
「私の父が牧師だったという特殊な背景はありますが、伝えたいのは『キリスト教の教えを受けた』という個人的な話ではなく、現代のアメリカ社会においてキリスト教の教義がどのような意味を持っているのかということです。キリスト教倫理では『家族』が最小単位とされ、アメリカでは『ファミリー・ファースト』という原則のもと、家族で教会に通う文化が根付いています。しかし、現在のアメリカ社会、この価値観が揺らいでおり、『家族』という概念そのものが再考されているのです。アメリカが変化していくなかで、これまで英語よりも公用語的な役割を果たしてきたキリスト教の価値観が崩れ始めています。私は、そうした現象を作品を通じて可視化したいと考えました。つまり、私が知るキリスト教を『記号化』し、それをひとつのメッセージとして提示するという試みです」(松山)
社会のなかに解き放たれ、文化のインフラとして機能することを考え続けてきた松山の想いと共鳴し、麻布台ヒルズの中央広場での作品展示が実現。《Wheels of Fortune》と《Double Jeopardy!》では、神様の使いとされる鹿の角と、神様を象徴する鏡に見立てた車のホイールのようなものが組み合わされている。また、日本帰国時に能登半島を襲った震災に直面した松山が、貨物用コンテナを避難場所「シェルター」に見立てた《All is Well Blue》も展示。展示期間の詳細は公式サイトで確認し、ぜひ合わせて鑑賞してほしい。