公開日:2022年5月20日

国宝89件! トーハク150年記念の特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」の全貌とは? 国宝刀剣19件も

絵画、書、漆工、「刀剣乱舞」のあの刀に、最古級のキリンの剥製も……! 10月18日〜12月11日に開催。

東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」

2022年3月に創立150周年を迎えた東京国立博物館。このメモリアルイヤーを記念し、所蔵する国宝89件すべてを展示する特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」が、22年10月18日〜12月11日【12月18日まで会期延長 *12月5日追記】に開催される。

所蔵する国宝全件に加え、東京国立博物館(トーハク)を代表する重要文化財も多数出品される、まさに一世一代の貴重な展覧会。否が応でも期待に胸が膨らむ。

5月20日の記者会見では、ついにその全貌が明らかになった。ここでは東京国立博物館の列品管理課登録室長、佐藤寛介(さとう・ひろすけ)さんの言葉とともに、展覧会の構成と見どころをご紹介したい。

特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」キービジュアル

史上初! 所蔵する国宝89件すべてを大公開!

「創立150年だからこそできた展示でありまして、もしかすると次の機会は、50年後の創立200年かもしれません」と佐藤さんが語る本展。その見どころは、なんといっても所蔵する国宝89件がすべて公開されるという贅沢なラインナップだろう(会期中展示替えがあるため、来館前に公式サイトを確認してほしい)。

本展は、第1部「東京国立博物館の国宝」と第2部「東京国立博物館の150年」の2部構成。

第1部「東京国立博物館の国宝」では、タイトル通り国宝が勢揃い。
国宝件数がもっとも多いのは絵画で、その数21。雪舟《秋冬山水図》、狩野永徳《檜図屛風》、渡辺崋山《鷹見泉石像》など数多くの名作が展示される。

国宝 孔雀明王像 平安時代・12世紀、東京国立博物館蔵 10月18日~11月13日
国宝 秋冬山水図(冬景) 雪舟等楊筆 室町時代・15~16世紀 東京国立博物館蔵 10月18日~11月13日
国宝 松林図屛風(右隻)  長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵 10月18日~10月30日
国宝 洛中洛外図屛風(舟木本)(左隻)  岩佐又兵衛筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵 11月15日~12月11日

なかでも佐藤さんがイチオシとして紹介したのが《平家物語絵巻》だ。
「展示期間は限られますが、全長9.5mに及ぶすべての画面を広げて展示いたします。普段は全画面を展示することはなかなかないので、貴重な機会になります」。

記者会見の様子

絵画と並んで日本美術において高く評価される書跡は14件。たとえば「古今和歌集」や、小野道風の数少ない真筆など、名品が出品される。「来年度の大河は紫式部が主役と報じられましたが、紫式部がその書を『いま風で素晴らしい』と褒め称えたのが、小野道風です」。

国宝 古今和歌集(元永本) 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵 三井高大氏寄贈 *展示期間中、展示場面が変更となる

続いて、東洋絵画4件、東洋書跡10件、法隆寺献納宝物11件。アジアの豊かな文化のなかで生まれた作品の数々は、日本の文化芸術にも大きな影響を与えた。

国宝 紅白芙蓉図 李迪筆 中国 南宋時代・慶元3年(1197) 東京国立博物館蔵 10月18日~11月13日

明治11年に皇室に献納され、戦後トーハクに引き継がれた法隆寺献納宝物は、正倉院宝物と並ぶ古代の貴重な品々からなるもので、正倉院宝物よりもさらに古い飛鳥時代(7世紀)のものを含むのが特徴だという。「『竜首水瓶』は代表的な一品。全体はペルシャ風で、注ぎ口は竜の頭をかたどった中国風。このような特徴的な造形は、シルクロードを介した東西の文化交流がもたらしたものだと考えられます」。

国宝 竜首水瓶 飛鳥時代・7世紀 東京国立博物館蔵

考古は6件。「埴輪 挂甲の武人」については、「教科書にも載っているので、日本一有名な埴輪」と紹介。3年に及ぶ全面修理を経て、本展が久しぶりのお披露目になるそうだ。
漆工は4件で、本阿弥光悦、尾形光琳といった第一級の名品が並ぶ。 

国宝 埴輪 挂甲の武人 群馬県太田市飯塚町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵

国宝 八橋蒔絵螺鈿硯箱 尾形光琳作 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 11月15日~12月11日


「刀剣乱舞」の審神者も必見。東京国立博物館の国宝刀剣19件!

本展の大きな見どころとして強調されたのが、国宝刀剣19件の展示だ。
「某ゲームに登場する国宝刀剣も勢揃いして、皆さんをお待ちしております」。

記者会見の様子

スクリーンに映し出されたのは、太刀 銘三条(名物 三日月宗近)、太刀 銘備前国包平作(名物 大包平)、短刀 銘吉光(名物 厚藤四郎)、刀 無銘貞宗(名物 亀甲貞宗)、太刀 銘長光(大般若長光)、太刀 銘備前国長船住景光 元亨二年五月日(小龍景光)……そう、これらはゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」に登場するキャラクター「刀剣男士」のモデルとなった刀たちだ。

近年は本ゲームの影響から、刀剣の魅力に開眼し、日本各地の博物館・美術館に実物を見に足を運ぶ人が増えている。本展もそういった機運を意識し、さらに勢いづけるものになりそうだ。

国宝 太刀 銘 三条(名物 三日月宗近) 平安時代・10~12世紀 東京国立博物館蔵 渡邊誠一郎氏寄贈

展示の仕方も気合い十分。国宝刀剣が一堂に会する「国宝刀剣の間」が出現するという。刃文や地鉄(じがね)の美しさをじっくりと鑑賞できるようにデザインされた展示空間で、日本刀の魅力を堪能できる。

「それぞれの刀剣が持つ物語がございますので、そこに思いを馳せるのもよろしいかと思います」。

さらに「なお、私は刀剣をはじめとする武器・武具が専門なので、刀剣についてはもう少し詳しく説明させてください」と佐藤さん。

「太刀 銘三条(名物 三日月宗近)と、太刀 銘安綱(名物 童子切安綱)はともに日本刀成立初期の名刀として有名なのですが、じつは刀身の刃の部分の寸法が一緒です。刃の長さが80cm、反りが2.7cm。しかしながら、刀身のシルエットがずいぶんと違うことにお気づきになられたでしょうか。三日月宗近は刀身が細身で、手元の部分が強く反って先が細くなっております。全体的に優美な印象を与えるわけですね。いっぽう童子切安綱は全体的にカーブを描いており、がっしりとした力強い印象を与えます。これは京の都を拠点とした宗近に対し、伯耆国(ほうきのくに)、現在の鳥取県を拠点とした安綱という作者の居住地の地域文化が反映されているのではないかと思います。

記者会見の様子

もう一例。太刀 銘吉房(岡田切)と、刀 金象篏銘 城和泉守所持正宗磨上本阿(花押)。両刀とも力強い作風と評されるわけですが、その表現や印象はかなり異なります。前者は華やかな刃文を刀身全体に入れることで外向きの力強さを表現しているのに対して、後者は地鉄を強調することで内に秘めた強さ、内在する力強さが表現されています。

こういったことは、実物を見ることで感覚的に理解できるところがあると思います。刀剣に限りませんが、国宝になるものは自らオーラと呼べるものを発しております。その凄みをぜひ感じ取っていただければ」。

東京国立博物館の150年の歩みを見る

昭和40年(1965)、ツタンカーメン展の行列

続いて、第2部「東京国立博物館の150年」。明治から令和まで、トーハク150年の歩みを追体験するセクションだ。

東京国立博物館は、旧湯島聖堂の大成殿で1872年に開催した博覧会を機に「文部省博物館」 として開館。1881年、上野公園内にイギリス人建築家コンドル設計のもと建物が竣工したが、1923年の関東大震災で被災した。1838年に現在の本館が開館され、戦争による収蔵品の疎開や観覧の停止を経験したのち、東洋館、資料館、平成館などを開館、現在に至る。

古今珎物集覧 一曜斎国輝筆 明治5年(1872) 東京国立博物館蔵

「第1章 博物館の誕生 1872-1885」では、1872年の湯島聖堂博覧会を描いた錦絵《古今珎物集覧》をもとに、当時の雰囲気を再現。実際に展示された作品を一部展示する。また、いちばん人気だった名古屋城金鯱の実物大レプリカも登場。

またトーハクの初期からあるコレクションも見逃せない。たとえば鈴木長吉《鷲置物》や 菱川師宣《見返り美人図》。「これらは現在も人気の作品ですが、100年以上前から博物館にいるベテランなんですね」 。

見返り美人図 菱川師宣筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵 10月18日~11月13日

「第2章 皇室と博物館 1886-1946」では、皇室とのゆかりを紹介。さらに、大きな目玉となるのが、現在最古級の貴重なキリンの剥製の里帰りだ。かつては歴史美術だけでなく、自然科学を含む総合博物館であったトーハク。明治40年に初めて生きたまま日本にやってきたキリンの剥製なども展示されていた。その活動の一部は、その後国立科学博物館や上野動物園へと受け継がれていく。

キリン剥製標本展示の様子

また帝国・帝室博物館時代のコレクションとして、三代安本亀八作の生人形、野々村仁清作の水指、東洲斎写楽の浮世絵なども出品。

重要文化財 三代目大谷鬼次の江戸兵衛 東洲斎写楽筆 江戸時代・寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵 10月18日~11月13日

「第3章 新たな博物館へ 1947-2022」では、戦後から現在に至る歩みと収蔵品を紹介。

重要文化財の《遮光器土偶》《伝源頼朝像》尾形光琳《風神雷神図屏風》など、これまた有名な品々が。
そして、昨年新たに所蔵作品となった「金剛力士立像」が本展で初公開。「2m80cm近くあり、当館が所蔵するものとしては最大」だという。

金剛力士立像 平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵

全体の説明を終え、佐藤さんは「創立150年だからこそできたメモリアルイヤーにふさわしい内容になっております。初めていらっしゃる方にとっても、リピーターの方にとっても新しい発見があると思います。祝祭感に溢れた展覧会になるように準備して参ります。どうぞご期待ください」と締めくくった。

こうして駆け足で見どころを追うだけでも、その豪華さに眩暈がしそうな本展。開催を楽しみに待ちたい。

福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。