「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023」が東京ミッドタウンでスタートした。今年のテーマは、「いざなうデザイン—Draw the Future—」。持続可能な社会に向かう現代社会では、新しい価値や仕組みが多様なかたちで生まれているが、特に環境問題においては、人間と自然や環境との関係性を再構築することの大切さが認識されている。そこにデザインができることとは?
未来に機能するテクノロジーが開発されたとしたら、それらを最適な方法で活用できるよう、人の心や意識を自然と変化させ、促せるのがデザインの力ではないか。そのような考えを背景に、今年のテーマが決まった。ミッドタウン・ガーデンの芝生広場や小川では、メインプログラムとして環境への意識を優しく刺激する3組の作品が発表された。
建築家の浜田晶則が目を向けたのは、建築や土木の建設プロジェクトで発生する大量の残土だ。廃棄物として捨てられる土を再利用すべく、海水に含まれるマグネシウムを抽出し、土の硬化剤として活用する工法を採用した。自然の景色を参照しながら「雲と山」「砂丘」「岩礁」などをテーマに土を造形し、生み出された《土の群島》に触れることで、幼い頃に砂場で触れた砂の感覚、大地の下に広がる世界、さらには、新たな環境を生み出す建材の可能性にも想像が広がる。浜田はこう語る。
「昔から使用されてきた土という普遍的な素材を、日本古来の工法や
現代の3Dプリンターなども用い、新たなものづくりに展開しようとチャレンジました。最初にご依頼をいただいたときに(16世紀フランドルの画家である)ブリューゲルの《子供の遊戯》という絵のように、誰もが好き勝手に遊び回っているような景色を生み出す地形を作れないかと思い制作を開始しました」
すべて自然に還る素材なので、解体後には畑の土となって再利用できる循環素材でもある。2025年の大阪万博においては、同じコンセプト、工法を採用して浜田が設計したトイレが会場に登場する予定だ。
隣の小さな森をイメージさせる空間には、風をモチーフに無数のプロダクトによる花畑が現れた。アレクサンドラ・コヴァレヴァと佐藤敬による建築家ユニット・KASA/KOVALEVA AND SATO ARCHITECTS(以下、KASA)の作品《風の庭》だ。柔らかな秋の風を受けると、透明なオブジェクトが光を反射してなびき、群れとなって風のかたちが立ち現れる。風を見出し、それが肌の感覚にも訴えかけてくる共感覚的な空間作品だ。
正円や球体、菱形などの幾何学的な造形物がちりばめられ、エリアを回遊することで風のかたちも姿を変える。ふたりは声を揃えて「ここに来て体験して、感じた風の記憶を持ち帰ってほしい」と話す。朝日を受けたときの煌めき、雨や晴れでもその輝きは移ろい、同じ景色とはならない。草木や空の色とも呼応する詩的な作品は、体験した鑑賞者の感情に触れ、記憶となったときに完成する。
日本は水資源に恵まれた国だ。しかし同時に、食品をはじめ多くのものを輸出する国、つまり、畜産や農業などの生産の過程において大量の水が使われており、それらを通じて他国の水も大量に消費する「水依存の国」でもある。
デザインファーム・IDEOからそれぞれに専門分野をもつ5名がチームを組み、当たり前の存在である水への再考を促し、対話へと誘うような仕組みをつくりたいと考え、《Reflections on Water》は生まれた。反射を意味するだけでなく、振り返ること、自省することも意味する「Reflection」という単語の両方の意味合いを作品タイトルに込めた。
この作品は3つの要素で構成される。①人の声。いろいろな人に取材して水にまつわるエピソードを集め、心に残った内容を集めた音声がせせらぎの音とともに流れる。②光を反射する水を模ったオブジェ。取材を通して立ち上がった問いが記されており、水についての思索や対話を促す仕掛けだ。③スマートフォンを使ったデジタル体験。QRコードを読み取ると、HPを通して投稿された鑑賞者の気づきや問いがシェアされ、水への考えが共有される。
東京ミッドタウンが才能あるデザイナーやアーティストとの出会い、応援、コラボレーションを目指し、デザインコンペとアートコンペの2部門からなる「TOKYO MIDTOWN AWARD」が今年で16回目を迎えた。デザインコンペでは、篠原ともえ、菅野薫、中村拓志、三澤遥、山田遊が、アートコンペでは、金澤韻、クワクボリョウタ、永山祐子、林寿美、ヤノベケンジが審査員を務めた。
「つながり」をテーマとするデザインコンペでは、人と人をつなぐバトンと募金活動を掛け合わせた黒澤杏《動く募金箱》がグランプリを受賞した。審査員の三澤遥は、相手を信じてバトンを渡す行為と募金を結びつけた「これまでの募金という行為の持つ重々しい印象を颯爽と払拭してくれるアイデア」を評価する。
応募者が自由にテーマを設定できるアートコンペでは、東京ミッドタウンを起点に3つの地点を選び、その地盤を映像によって再現したタカギリヲンの《TOKYO ELEVATION Type 0》がグランプリを受賞。普段見えない地面の下に思いを馳せ、同時に自分という存在の足元を確認する。そんな思考の動きを引き起こす作品だ。
受賞・入選した全16作品(デザインコンペのファイナリストを含む)が東京ミッドタウンのプラザB1メトロアベニューに展示されており、期間中には、来場者の一般人気投票が実施される。投票用紙と投票用ポストが設置され、誰でもコメントを添えて投票することが可能。11月下旬にTOKYO MIDTOWN AWARDオフィシャルサイトにて「東京ミッドタウン・オーディエンス賞」受賞者が発表される予定だ。
10月20日から29日まで都内各所で開催されるDESIGNART TOKYO 2023に先んじて、東京ミッドタウンでは、今回のテーマに寄り添う3組のクリエイターの作品が展示されている。オフセット印刷機の廃インク清掃で使用した不織布を新たな素材ととらえ、その可能性を見出す《ink couture project》を手がけたのが、有村大治郎、コエダ小林、時岡翔太郎の3名で構成されるデザインスタジオ21B STUDIO。
電力を使用することを前提とする照明の常識に一石を投じるべく、電池も電源も使用せずに光を放つ《NISSHOKU》を手がけた守本悠一郎。
「山で育った木が海でとれる」という、流木のマテリアルとしての奇天烈さに着目し、流木を製材して椅子などを制作する《Nature of Nurture》を発表した田渡大貴。
21B STUDIOのメンバーである3名と守本悠一郎はそれぞれ過去のデザインコンペファイナリストであり、流木を独自の方法で採用した田渡大貴も含め、ガレリア2階と3階で、デザインの概念の拡張を予感させる3プロジェクトと出会うことができる。
東京ミッドタウン アトリウム・コートヤードでは、イタリア・ミラノのコンテンポラリーファインジュエラーであるポメラートが、アーティストのアルベルト・マリア・コロンボとのコラボレーションで制作した映像を上映。VRなども用意し、体験型イベント「ヌード クラフテッド エモーションズ」を展開する。
イベントのタイトル通り「触れられる」展示作品も多く集まる「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2023」。会期中には、子供の知的好奇心とクリエイティビティを刺激するワークショップも開催されるなど、ものづくりにも触れることができる。魅力的な展示の数々を通して、東京ミッドタウンでデザインの力を味わってほしい。楽しさや美しさを味わえるのはもちろんのこと、環境に対する自らの新たな意識、思考と出会うことができるかもしれない。