公開日:2023年3月8日

特別展「東福寺」(東京国立博物館)レポート。《五百羅漢図》が14年の修理事業を経て初公開。寺宝が勢ぞろいする「オールアバウト東福寺」な展覧会

臨済宗の大本山、東福寺に伝わる貴重な寺宝をまとめて紹介する、特別展「東福寺」が東京国立博物館で開幕した。会期は5月7日まで。禅宗文化の全容に触れることができる展覧会だ。巡回:京都国立博物館(10月7日~12月3日)

重要文化財 吉山明兆《五百羅漢図》 第3号、第4号、第5号 南北朝時代 至徳3年(1386) 京都・東福寺蔵

東福寺と円爾

臨済宗の大本山である東福寺は、新緑や紅葉の季節には多くの観光客が訪れている絶景の古刹。

南宋時代の高僧、無準師範の弟子である円爾(えんに/聖一国師)を開山に迎えて創建された、京都を代表する禅寺のひとつ。日本最古、そして最大級の伽藍を持つ寺院で、東福寺とその塔頭には、絵画や彫刻、造物、さらには中国伝来の文物や書物などが残されており、国指定の文化財に指定されているだけでも、国宝は7件、重要文化財は98件に及んでいる。

東京国立博物館と京都国立博物館で開催される特別展「東福寺」は、この東福寺に伝わる寺宝をまとめて紹介する初めての展覧会。本展を担当した東京国立博物館研究員 高橋真作は「東福寺は、膨大な文化財の修復に力を注いできており、これまでまとまったかたちでの展覧会は開催されてこなかった。本展はそんな東福寺の魅力を余すところなく伝える『オールアバウト東福寺』な展覧会」と語った。

展覧会は5章構成。第1章「東福寺の創建と円爾」では、東福寺を創建した円爾ゆかりの宝物を紹介。展覧会冒頭を飾るのは、吉山明兆による《円爾像》。晩年に右目を患った円爾を左側から描いた日本最大級の禅僧肖像画だ。牡丹唐草文様の描き表装の精緻な表現も美しい。

吉山明兆《円爾像》(室町時代 15世紀)※展示期間3月7日〜4月2日

東福寺を開いた円爾は、南宋で禅宗を学んだ。そのため、東福寺には中国伝来の書物や肖像画が多く残されている。国宝《無準師範像》は、円爾の師である中国の高僧、無準師範の肖像画。「南宋肖像画の極地」と称される肖像画で、無準師範像はこの肖像画に自ら賛を描き、円爾に与えた。《円爾宛尺石(板渡しの墨跡)》は、無準師範が円爾に送った寄進への礼状だ。

左:国宝 無準師範筆《円爾宛尺石(板渡しの墨跡)》中国・南宋時代 淳祐 2 年(1242) 東京国立博物館蔵 右:国宝 《無準師範像》 自賛 中国 南宋時代・嘉熙2年(1238) 京都・東福寺蔵 ※2点とも展示期間3月7日〜4月2日

続く第2章「聖一派の形成と展開」では、円爾の法を伝える後継者(聖一派)らにまつわる書や肖像画などを紹介する。重要文化財《蔵山順空坐像》は、円爾の孫弟子で東福寺第6代住職となった蔵山順空の坐像。肉付きがよく、柔和な顔立ちだ。

手前:重要文化財《蔵山順空坐像》鎌倉時代 14世紀 京都・永明院蔵 奥:重要文化財《僧形坐像》鎌倉時代 13〜14世紀 京都・東福寺蔵 ※2点とも通期展示

展覧会初出品となる《虎 一大字》は円爾の孫弟子で、東福寺第15代住職だった虎関師錬の書と伝えられている。虎という文字なのか、虎の絵なのか、抽象画のようにも見える勢いのある書は、謎めいてもいる。

虎関師錬《虎 一大字》 鎌倉~南北朝時代(14世紀) 京都・霊源院蔵 ※通期展示

絵仏師・明兆の《五百羅漢図》

そして、本展でもとくに注目したいのが第3章「伝説の絵仏師・明兆」だ。

吉山明兆(きつさん・みんちょう)は東福寺を拠点に活躍した絵仏師。「江戸時代まで、明兆は雪舟と並び称されるほど高名だった」と、本展担当の高橋真作が語った明兆は、中国から伝来した仏画作品に学び、巧みな水墨の技術と極彩色をもって独自の境地を切り開いていった。東福寺の巨大伽藍に合わせて制作した巨幅の作品を数多く手掛けている。

《達磨・蝦蟇鉄拐図》は、奔放に描かれた衣紋、流麗な描線が印象的な、3幅とも縦幅が250cmを超えた明兆の代表作のひとつ。

重要文化財 吉山明兆《達磨・蝦蟇鉄拐図》 室町時代・15世紀 京都・東福寺蔵 ※展示期間3月7日〜4月9日

14年に渡る修理事業の後、初公開となる《五百羅漢図》は、3期ごとに分けての公開。1幅に10人の羅漢を表した50幅本として500人の羅漢を描いた作品だ。東福寺に45幅、東京の根津美術館に2幅が現存している。

展示風景より 重要文化財 吉山明兆《五百羅漢図》 南北朝時代 至徳3年(1386)  京都・東福寺蔵がならぶ
重要文化財 吉山明兆《五百羅漢図》 第12号、第13号 南北朝時代 至徳3年(1386) 京都・東福寺蔵 ※展示期間3月7日〜3月27日

展示には、作品の横に4コママンガの解説パネルも設置されており、初めて羅漢図を鑑賞する人にも、描かれた場面がどのような状況なのか理解しやすくなっている。

なお、本展の準備段階において、それまで行方がわかっていなかった第50号がロシアのエルミタージュ美術館に保管されていることが判明した。

海外交流の一大拠点として

第4章「禅宗文化と海外交流」では、円爾が作り上げ、弟子たちが発展させた対外交流のネットワークについて迫っていく。聖一派の禅僧たちは、外交や貿易にも積極的に関わるなか、禅宗文化の発展につながる文物を積極的に収集、東福寺を日本における海外交流の一大拠点として発展させていったのだ。

国宝《太平御覧》は、北宋の第二代皇帝太宗の命で編纂された類書(百科事典)で、円爾により、東福寺にもたらされたと伝えられている。

国宝 李昉等編《太平御覧》 中国 南宋時代・12~13世紀 京都・東福寺蔵 ※通期展示(ただし、冊替えあり)

巨大な《仏手》が登場。東福寺の伽藍

最終章となる第5章「巨大伽藍と仏教彫刻」では、巨大伽藍に合わせて制作された仏像などを紹介する。東福寺の創建当初の伽藍には、巨大群像が安置されその様子は「新大仏寺」と称されていた。

手首から指先まで217.5cmという巨大な《仏手》は、東福寺旧本尊の左手。15メートルあったという巨大な本尊は、1881年の火災の際、左手のみが救出された。本来は左膝の上に甲を下にし、人々の願いをかなえることを意味する与願印を結んでいたという。

《仏手》(鎌倉〜南北朝時代 14世紀) 京都・東福寺蔵

巨大な立像や四天王立像など、東福寺の仏像がずらりと並ぶ空間は壮観だ。

《四天王立像》鎌倉時代・13世紀をはじめ東福寺の仏像がずらりとならぶ
手前:四天王立像のうち《持国天像》 鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺蔵 奥左:重要文化財《金剛力士立像》鎌倉時代・13世紀 京都・万寿寺蔵  奥右:重要文化財《阿難立像》鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺蔵

今回が初めてとなる東福寺の寺宝展。東福寺の巨大な伽藍にあわせて、寺宝もダイナミックなものが多い。東福寺の環境が育んだ、禅宗文化の数々の寺宝をたっぷりと楽しめる展覧会だ。

浦島茂世

浦島茂世

うらしま・もよ 美術ライター。著書に『東京のちいさな美術館めぐり』『京都のちいさな美術館めぐり プレミアム』『企画展だけじゃもったいない 日本の美術館めぐり』(ともにG.B.)、『猫と藤田嗣治』(猫と藤田嗣治)など。