公開日:2022年10月17日

国宝89件を公開!特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」の全貌をレポート。国宝刀剣19件が集う「国宝刀剣の間」も

東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」が10月18日〜12月11日に開催。トーハクが所蔵する絵画、書、漆工、「刀剣乱舞」のあの刀、鯱鉾やキリンの剥製も

89件の国宝、150年の歴史。特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」がついに開幕!

東京国立博物館で、特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」が10月18日〜12月11日【12月18日まで会期延長 *12月5日追記】に開催される。所蔵する国宝89件すべてに加え、重要文化財も多数出品される本展は、2022年3月に迎えた創立150周年を記念するもの。トーハクのメモリアルイヤーにふさわしい、華々しい展覧会だ。10月17日の内覧会を取材し、その全貌を一足先にお伝えしたい。(*会期中展示替えがあるため、来館前に公式サイトを確認を)

東京国立博物館

本展を担当した本館列品管理課登録室長の佐藤寛介(さとう・ひろすけ)さんは語る。

「キーワードは、89件の国宝、150年の歴史。東京国立博物館には12万件の収蔵品があり、その頂点と言えるのが89件の国宝。ひとつの館が所蔵する国宝の数はとしては日本一です。そのすべて見せるのは、当館史上初の画期的なことで、我々も見たことがありません。数年先まで展示企画を調整する必要があり実現は大変でしたが、創立150年という節目だからこそできた展示。もしかすると次の機会は、50年後の創立200年かもしれません」。

本館列品管理課登録室長の佐藤寛介氏

本展は、第1部「東京国立博物館の国宝」と第2部「東京国立博物館の150年」の2部構成。本展が公式サイトで見どころとして打ち出しているのは以下の3つだ。

①史上初!所蔵する国宝89件すべてを公開!
②明治から令和まで、東博150年の歩みを追体験
③国宝刀剣が集結!東博に「国宝刀剣の間」出現!

それでは早速、会場内を進んでみよう。

会場風景

教科書で見た名品がズラリ。長谷川等伯、雪舟、本阿弥光悦から埴輪まで

まずは、国宝件数がもっとも多い「絵画」で幕を開ける。その国宝件数は21。会場に入ると最初に目に入るのは、長谷川等伯《松林図屛風》(安土桃山時代・16世紀)だ。

長谷川等伯 松林図屛風 安土桃山時代・16世紀

さらに平安時代(12世紀)の作である《孔雀明王像》雪舟《秋冬山水図》など名品が続く。

会場風景
雪舟 秋冬山水図 室町時代(15〜16世紀)

なかでも注目すべきは、《平家物語絵巻》だ。本展では全長9.5mに及ぶすべての画面を広げて展示。普段は全画面を展示することはなかなかないため、貴重な機会となる。

平家物語絵巻 六波羅行幸巻(部分) 鎌倉時代(13世紀)

絵画はとくに展示替えが多い部門。たとえば11月1日〜27日には狩野永徳《檜図屛風》、11月15日~12月11日には《洛中洛外図屛風(舟木本)》が展示されるので、何度か足を運びたくなる。ちなみに本展ではどの期間でも随時60点ほどの国宝が展示されているので、「いつ来たら損ということはありません」(佐藤)とのこと。

「書跡」では14件の国宝がある。《古今和歌集(元永本)》(平安時代・12世紀)は、日本製の唐紙の上に菱唐草文や孔雀唐草文など文様15種が雲母摺(きらずり)され、実物を見るとその美しさに驚く。展示期間中によって異なる場面が展示されるという。

会場風景
古今和歌集(元永本) 平安時代(12世紀)

「東洋絵画」は国宝4件、「東洋書跡」は国宝10件。中国の李迪《紅白芙蓉図》(南宋時代・慶元3年、1197)は、富裕の花として古来より愛されてきた芙蓉(ふよう)を描いた作品。酔芙蓉は1日のうちに白から紅へと色を変える花で、本作が興味深いのは、二図のあいだで朝から夕への時間の変化が、さらに一図のなかでは蕾から満開へと至る花の一生の変化がそれぞれ表されているということだ。

李迪 紅白芙蓉図 南宋時代(慶元3年、1197)

明治11年に皇室に献納され、戦後トーハクに引き継がれた法隆寺献納宝物は、正倉院宝物と並ぶ古代の貴重な品々からなる。正倉院宝物よりもさらに古い飛鳥時代(7世紀)のものを含むのが特徴だという。

会場風景

「考古」は国宝6件。「埴輪 挂甲の武人」は、教科書にも載っているので、おそらく日本一有名な埴輪だろう。3年に及ぶ全面修理を経て、本展が久しぶりのお披露目となる。

埴輪 挂甲の武人 古墳時代(6世紀)
会場風景

「漆工」は国宝4件。ひときわ人を集めていたのは、本阿弥光悦《舟橋蒔絵硯箱》(江戸時代・17世紀)。著しく盛り上がった蓋の形状が特異な逸品で、金地の蓋表に鉛板の橋を大胆に掛け渡してある。11月15日~12月11日には尾形光琳《八橋蒔絵螺鈿硯箱》(江戸時代・18世紀)が登場するのでこちらも楽しみだ。

本阿弥光悦 舟橋蒔絵硯箱 江戸時代(17世紀)

審神者よ、これが「国宝刀剣の間」だ!

「国宝刀剣の間」。中央が《太刀 銘三条(名物 三日月宗近)》

いよいよ本展の大きな見どころ、国宝刀剣19件の展示だ。

「東京国立博物館は国宝刀剣19振りを所蔵しており、これも日本最多。本展では、国宝刀剣すべてをひとつの展示室でまとめてお見せします。刃文や地鉄(じがね)の美しさを見せるために、照明や展示ケースにこだわりました。これが名付けて『国宝刀剣の間』です」(佐藤)

「国宝刀剣の間」
太刀 銘 長光 鎌倉時代(13世紀)

「国宝刀剣の間」に足を踏み入れると、照明が落とされた暗めの空間が広がる。両壁には、浮かび上がるように名刀が配置され、その刃がきらりと鋭い光を放っている。

中央に鎮座するのは、ゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」でもお馴染み、《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》だ。日本刀成立期の名工・宗近によって、平安時代(10〜11世紀)に作られた太刀で、数ある日本刀のなかで特に名刀といわれる5振「天下五剣」のひとつに数えられる。刃文に三日月形の打(うち)のけが多く見られることから「三日月」の号が付いた。豊臣秀吉の正室高台院が所持し、のちに徳川家に伝来したという由来を持つ。

「はっはっは、近う寄れ」の声が聞こえてきそう? 《太刀 銘 三条(名物 三日月宗近)》

《太刀 銘備前国包平作(名物 大包平)》は、同じ太刀でもまた違った魅力を放つ。日本刀の横綱とも称される名刀中の名刀で、その刀身は長大で雄渾な太刀姿。大包平の号には、その雄大な造形の畏怖が込められているという。

太刀 銘 備前国包平作(名物 大包平) 平安時代(12世紀)

《短刀 銘 吉光(名物 厚藤四郎)》は、鎌倉時代に活躍した京・粟田口派の名工工藤四郎吉光の傑作。短刀は太刀と並ぶと可愛らしくも見えるが、「厚」と号が付くだけあり、その分厚い刀身が力強さをも感じさせる。「鎧通し」という組み打ちでの刺突に適した実践向きの形状だ。足利将軍家伝来で、さらに本阿弥家、豊臣秀吉、徳川家綱など名だたる武将が所持し昭和13年に東京帝室博物館が購入した。

短刀 銘 吉光(名物 厚藤四郎) 鎌倉時代(13世紀)

上記の三振りに加え、刀 無銘貞宗(名物 亀甲貞宗)、太刀 銘 長光(大般若長光)、太刀 銘 備前国長船住景光 元亨二年五月日(小龍景光)は、ゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」のキャラクター「刀剣男士」のモデルとなった刀たちだ。近年は本ゲームの影響から、刀剣の魅力に開眼した人々も多い。審神者(さにわ、「刀剣乱舞」のプレイヤー)はもちろん、これまで刀剣に親しみがなかった鑑賞者にとっても、その魅力を存分に伝える展示だ。

「国宝刀剣の間」

今年5月の記者会見で佐藤は「それぞれの刀剣が持つ物語がございますので、そこに思いを馳せるのもよろしいかと思います」「国宝になるものは自らオーラと呼べるものを発しております。その凄みをぜひ感じ取っていただければ」と語っていた(刀の詳細を解説した記者会見レポートはこちら)。
国宝刀剣が一堂に会するまたとない機会。それぞれの刀剣を見比べ、観察し、お気に入りの一振りを探すのもいいだろう。

なお「国宝刀剣の間」は展示替えなしで通期展示となる。

明治から令和へ。トーハク150年の歩みを辿る

「国宝刀剣の間」を通り抜けると、巨大な金の鯱鉾が目に入る。ここからは、第2部「東京国立博物館の150年」。明治から令和まで、トーハク150年の歩みを大まかに3つの時期に分けて紹介する。

名古屋城金鯱の実物大レプリカ

東京国立博物館は、旧湯島聖堂の大成殿で1872年に開催した博覧会を機に「文部省博物館」 として開館。1881年、上野公園内にイギリス人建築家コンドル設計のもと建物が竣工したが、1923年の関東大震災で被災した。1838年に現在の本館が開館され、戦争による収蔵品の疎開や観覧の停止を経験したのち、東洋館、資料館、平成館などを開館、現在に至る。

「第1章 博物館の誕生 1872-1885」では、1872年の湯島聖堂博覧会を描いた錦絵《古今珎物集覧》をもとに、当時の雰囲気を再現。実際に展示された作品を一部展示するほか、当時いちばん人気だった名古屋城金鯱の実物大レプリカが登場。「当時の人々の驚きやワクワクを追体験していただきたい」と佐藤は語る。

古今珎物集覧 一曜斎国輝筆 明治5年(1872) 東京国立博物館蔵

また明治時代の”超絶技巧”作品も並ぶ。1890年(明治23年)〜1947年(昭和22年)にかけ優秀な美術家・工芸家に帝室からの栄誉を与えて顕彰した帝室技芸員。これに選ばれた宮川香山《褐釉蟹貼付台付鉢》(1881)は、本物に見紛うカニが鉢に張り付いた驚きの一作で、人気が高い作品だ。鈴木長吉《鷲置物》(1891)は、青銅製の鷲が躍動感を伝える迫真の一作。

初代宮川香山 褐釉蟹貼付台付鉢 明治14(1881)
鈴木長吉 鷲置物 明治25(1891)
会場風景

「第2章 皇室と博物館 1886-1946」では、皇室とのゆかりを紹介。特に注目したいのは《鳳輦(ほうれん)》だ。鳳輦とは天皇が行幸の際に専用する乗り物で、出展されている鳳輦は孝明天皇や明治天皇が用いたもの。

鳳輦 江戸時代(19世紀)

またトーハクの歴史を語るうえで興味深いのが、現在最古級の貴重なキリンの剥製だ。本館はもともと歴史美術だけでなく、自然科学を含む総合博物館だった。明治40年に初めて生きたまま日本にやってきたキリン「ファンジ」と「グレー」は、死後、剥製となり収蔵された。その後東京博物館(国立科学博物館の前身)に譲渡されたが、今回トーハクの歴史を振り返るうえで里帰りを果たしたのだ。

キリンの剥製

そのほか帝国・帝室博物館時代のコレクションとして、三代安本亀八作の生人形、野々村仁清作の水指、東洲斎写楽の浮世絵なども出品される。

会場風景
会場風景

「第3章 新たな博物館へ 1947-2022」では、戦後から現在に至る歩みと収蔵品を紹介する。目玉となるのは、《金剛力士立像》(平安時代・12世紀)。昨年新たに所蔵作品となったもので、本展で初公開される。2m80cmほどの高さを持ち、トーハクが所蔵する仏像のなかでも最大だという。

金剛力士立像 平安時代(12世紀)

さらに重要文化財の《遮光器土偶》《伝源頼朝像》、尾形光琳《風神雷神図屏風》、菱川師宣《見返り美人図》など、見逃せない有名作品が続々登場。これでもかという怒涛のお宝の数々で鑑賞者を圧倒しつつ、「150年後もお待ちしています。」の言葉とともに本展は幕を閉じる。

遮光器土偶 縄文時代 前1000〜前400
伝源頼朝像 鎌倉時代 13〜14世紀
尾形光琳 風神雷神図屏風 江戸時代(18世紀)
岸田劉生 麗子微笑 大正10(1921)
菱川師宣 見返り美人図 江戸時代(17世紀)
会場出口

素晴らしい国宝の数々が並ぶ本展は、やはり今年見逃せない展示のひとつだろう。150年に一度という規模の展覧会を実現させた関係者の労力はいかほどかと尊敬の念を覚える。いっぽうで国立博物館の所蔵品は国民の公共的な宝だと考えると、一般2000円(大学生1200円、高校生900円)というチケット料金は、決してアクセスしやすいとは言えず、やや残念に感じる。本展が多くの来館者を集め、その経験がこの先100年、200年と続く博物館を支えるものとなり、国宝をはじめとする所蔵品が、日本に限らず世界の公共の利益として今後さらに開かれたものとなることを期待したい。

グッズ売り場
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福島夏子(編集部)

福島夏子(編集部)

「Tokyo Art Beat」編集長。『ROCKIN'ON JAPAN』や『美術手帖』編集部を経て、2021年10月より「Tokyo Art Beat」編集部で勤務。2024年5月より現職。