Tokyo Art Beatは、日頃TABをご利用いただいているみなさまを対象に、2011年夏に「今日のアート鑑賞の現状」を調査するために、オンラインアンケートを行いました。
結果発表最終回となる今回は、アートが大好きな皆さんの「アートにまつわる感動と驚きのエピソード」を紹介しながら、3回に渡る調査結果をふり返ります。(これまでの結果発表 第1回 ・ 第2回 はこちらから)
● アート体験はあなたの人生を変える?
今回のアンケートでは、自由記述形式で「あなたのアート鑑賞での忘れられない体験」を募集したところ、感動秘話から驚きの話、心温まるものまで、なんと 367 ものエピソードが寄せられました。ここに、そのほんの一部を発表させていただきます。(エピソードには具体的な展覧会名や、いつ頃に鑑賞した展覧会だったのか時期の記載もお願いしました。なお、内容は一部編集したものもございますのでご了承ください。)
Q. あなたのアート鑑賞での忘れられない体験を教えてください!
■ 8年くらい前に、ロンドンのナショナルギャラリーで見たゴッホの《ひまわり》。名画だらけの中であれだけが飛び出して見えた。ものすごい衝撃だった。(女性/20代/アーティスト)
■ 25年ほど前、トレド(スペイン)に行きエル・グレコの《オルガス伯の埋葬》を見たとき。燃え上がるように見えた。流れていないはずの音楽も聞こえたように思った。(女性/40代/会社員・公務員)
■ 2004年に男友達と一緒に見に行った大阪・国立国際美術館での『マルセル・デュシャンと20世紀美術』展。友人は熱心にデュシャンのことを語ってくれ、私もデュシャンが好きになった。そして、その友人が今の旦那です。夫婦揃って、思い出の展覧会。(女性/30代/主婦)
■ 友人と一緒に展覧会にでかけたBunkamura ザ・ミュージアムの『フランダースの光』展。 ギャラリーにつく前にちょっと喧嘩気味になってギスギスしていたのに、絵を見終わったら気分が全く変わっていて、二人とも笑顔になれた。特に目玉作家なども知らず、ぶらりと出かけた展覧会だったので、不意打ちの良質な絵画体験だった。(男性/20代/学生)
■ 自分は理解されなくて、役立たずのダメな存在って感じてた時に、美術館に行って、「あ、この人も私と同じこと考えてる!」と思うような作品に出会うことがあります。これは本当に忘れられない大切な瞬間。アートがなければ、私は生きていけないといつも思います。(女性/20代/無職)
■ 2010年の瀬戸内国際芸術祭で、作品に触れたり、地図を片手に探したり、アートがとても身近に感じられた。作品が囲われることなく、生活の中に溶け込むように存在していて、自分の肌身をもって体感できる作品に出会えた。現代アートが大好きだ。(女性/30代/会社員・公務員)
特集記事:瀬戸内国際芸術祭2010とその周辺
■ 高校の頃ドラクロワの《墓場の少女》を見て、絵画の中の女性なのに恋しそうになった。(男性/10代/アート・デザイン系学生)
■ 30年ほど前の小学生の頃に、今で言う体験型のメディア・アートの展示会に行った時のことを覚えている。当時は「アート」ということはまったく意識していなかったが、「アート」は、楽しさ、悦びも含めて、ココロを動かすものでなければならないと、実感したのだと思う。(男性/30代/放送・映像系自営業・フリーランス)
■2008年に、友人に連れられて初めて行った現代アート展の横浜トリエンナーレで、ひとつひとつの作品に対してそれぞれの意見をぶつけ合ったこと。アートによって相手の価値観、そして、自分の価値観を知ることができ、なんて素敵な会話が生まれるんだろう! それ以来、私にとってアートは相手と自分をもっと知る貴重な時間。(女性/20代/会社員・公務員)
フォトレポート:横浜トリエンナーレ2008とその周辺にて
■普段友人と、あまりアート鑑賞に関する話題はせず、好みが合う人が身近にいないと思っていたのに、かなり好みの展示会で偶然友人に会ったことがとてもうれしかったです。個人で刺激を浴びることが目的で出かけていましたし、今もそれが主ですが、体験談や感想を共有することができる楽しさを、そのとき非常に感じました。 (女性/20代/デザイン系会社員)
どのタイミングで、どのアート作品に出会うか。
それは偶然なようで、その時の自分に必要なタイミングでの出会いなのかもしれません。驚くほど感動したり、考えさせられたり、それをきっかけに新たな出会いがあったり。単に目で楽しむために来ていたはずなのに、後に自分の中の何かを成長させてくれているのがアート鑑賞の魅力かもしれませんね。
素敵なエピソードを寄せてくださった皆さま、本当にありがとうございました。
今回のアンケートのまとめ
今回のアンケート調査で集められた回答をまとめると、いまのアートファンの皆さんのさまざまな傾向とニーズが見えてきました。「閉ざされた時間帯や空間ではなく、常に誰にでもオープンな雰囲気」を持っていること、これこそが今日のアートイベントに求められていることだと言えるでしょう。
また、これまでの回では、ひとりで鑑賞する人が予想以上に多いという結果が出た中、上記にまとめた通り、「アート作品を誰かと一緒に見た、感動したよろこび」にまつわる体験談が多く挙げられているのにも驚きでした。誰かと作品について話してみると、自分が思っていたことと同じだったり違ったりする意外な発見が、またひと味違った楽しさを与えてくれるようです。
TABでは、このような「誰かと一緒にアートを体感する楽しさ」を知ってもらうために、
「対話型鑑賞」や「コスチュームイベント」など、さまざまなイベントを企画し、提案しています。
また、取り上げるアートイベントは、より体感性のあるシアター系イベントへも視野を広げ始め、美術館割引アプリ「ミューぽん」では、舞台やパフォーマンスなどのイベント割引も登場。
これらの情報や展覧会の感想などは、TAB Twitter と ミューぽんTwitter でも随時取り上げています。
「鑑賞するアート」から「体感するアート」へ。新しいこととアートが大好きなTABチームと一緒に、新たなアート体験をはじめませんか?
[執筆・イラスト]
杉山礼香:神奈川県出身。東京藝術大学大学院博士後期課程修了、アーティスト。在学中にロンドン芸術大学に交換留学、帰国後に博士号取得。留学中にヨーロッパの様々な展覧会やアートフェアを回り、アートと生活の関わりについて興味を持つ。大好きな熱帯魚に囲まれた部屋で、コーヒー片手に創作活動奮闘中。