戸田建設株式会社が東京都中央区京橋一丁目で建設を進めていた「TODA BUILDING」が、11月2日に開業する。
9月30日に竣工したTODA BUILDINGは、地下3階、地上28階建ての高層ビル。アーティゾン美術館を擁するミュージアムタワー京橋の隣に位置しており、戸田建設とミュージアムタワー京橋を運営する株式会社永坂産業は、この街区を「京橋彩区」と名付けて2019年4月にエリアマネジメントを推進する一般社団法人を設立。芸術文化とまちづくりに貢献する活動に取り組んできた。
「人と街をつなぐ」をコンセプトに掲げるTODA BUILDINGは、1階〜6階の低層部に芸術文化施設が入居し、8階から上がオフィスエリアとなっている。
11月1日にプレス向けの内覧会が行われた。
来館者やビルで働くオフィスワーカーを迎え入れるエントランスロビー、屋外の広場、2階の廊下にはパブリックアートが展示されている。これは、戸田建設によるアート事業「ART POWER KYOBASHI」の一環として、新進アーティストやキュレーターに作品発表の場を創出することを目的としたパブリックアートプログラム「APK PUBLIC」の第1弾。飯田志保子をキュレーターに迎え、「螺旋の可能性―無限のチャンスへ」をコンセプトに作品を展開する。通常パブリックアートの多くはパーマネントに展示されるが、「APK PUBLIC」では更新性のあるプログラムであることを特徴としており、本展示は2026年3月までの実施予定となる。
「ビル自体と共鳴することを心がけて企画した」という飯田は、今回のプログラムでは、作品の創造から解体までのサイクルや、人間だけでない生命の循環、アーティストのトライアンドエラーといった直線的でない「螺旋」を感じさせる、様々な動態の変化のある作品が集っていると説明。小野澤峻、野田幸江、毛利悠子、持田敦子の4名が作品を制作した。
1階ロビーと広場に展示されているのは、持田敦子による作品だ。どちらも《Steps》と題された本作は、スチールで作られた階段状の構造物で構成される。広大なエントランスの上空には、人が昇降するという実用性から解放された螺旋階段が美しい弧を描きながら吊るされている。中の作品と呼応するように、屋外にも地面から上空へと伸びていく階段の作品が展示されている。
画家としての活動の傍ら家業の花屋で植物に携わる野田幸江は、ビルの竣工までの2年間、京橋エリアで8回にわたってフィールドワークを行い、建設現場の地下水や道端に群生する植物などを採取した。それらを日常に持ち帰り、再構築した作品をアクリルケースに詰めた《garden -b-<地層になる>》、ガラスケースに博物館のように陳列した《garden -a-<この風景の要素>》として、2階の廊下で展示している。ガラスケースの中には、葉っぱや草の根などの植物や地下水だけでなく、路上のゴミ、工事現場で拾った針金といったものも。普段は目に見えない都市の生態系の集積が、ビルができるまでの時間の流れとともに閉じ込められている。
同じく2階の廊下には、毛利悠子の立体作品《分割された地震動軌跡模型》4点が並ぶ。本作は毛利が実践してきたキネティック・アートとは異なり静的な作品だが、地震学の先駆者である関谷清景が、明治時代に東京で起きた地震の記録をもとに針金で地面の動きを表した模型に着想を得て制作されたもの。複雑に曲がりくねった軌跡を描くスチールの彫刻が、高い免震構造を誇るTODA BUILDINGにおいて、地球の動きを感じさせている。
廊下の突き当たりのスペースでは、小野澤峻による《演ずる造形》を展示。6つの振り子が動く本作は、ジャグリングパフォーマーでもある作家によって構想された「上演型」の彫刻作品。ワイヤーで吊るされた球体は静かに動き始め、やがて一定の速度で大きく揺れながら回転し始める。その動きには慣性の力や周囲の環境などが作用するため、球体は毎回異なる「演技」を行う。
3階のフロアには、ギャラリーコンプレックスが誕生。「タカ・イシイギャラリー 京橋」「小山登美夫ギャラリー 京橋」「KOSAKU KANECHIKA」「Yutaka Kikutake Gallery」の4ギャラリーがスペースをオープンした。
小山登美夫ギャラリー 京橋では、12月7日まで杉戸洋の個展「『apples and lemon』- 『りんごとレモン』」を開催。1990年代のペインティング作品に加え、FRP素材で制作したりんごやレモンの立体作品が展示されている。
タカ・イシイギャラリー 京橋では、12月14日までポートレイトをテーマにしたグループ展を開催。荒木経惟、五木田智央、掛井五郎、サーニャ・カンタロフスキー、川原直人、グラハム・リトル、松岡一哲、森山大道、村瀬恭子、セル・セルパス、勅使河原蒼風、山下紘加ら12作家による写真や彫刻、絵画を鑑賞することができる。
KOSAKU KANECHIKAで同じく12月14日まで開催されているのは、十三代 三輪休雪の個展「エル キャピタン」。土の塊の内側をくり抜いて成形された独創的な茶碗《エル キャピタン》シリーズから、大型の新作を紹介する。
Yutaka Kikutake Galleryでは、12月21日までグループ展「ささめきあまき万象の森」を開催。奈良美智が近年訪問を重ねている北海道で出会った4人の作家による展覧会となり、植物の匂いが香る展示室内では、奈良に加えて、国松希根太、斉藤七海、渡辺北斗、BOTAN&sumireの作品が展示されている。
また、同じ3階の共用部にあるAPK ROOMでは、戸田建設の「ART POWER KYOBASHI」の取り組みのひとつとして、アートを起点に行うラーニングプログラム「APK STUDIES」を実施。約9ヶ月を1タームとするプログラムとなり、第1回の講師にはYutaka Kikutake Gallery代表の菊竹寛も名を連ねる。受講生の募集は2025年2月からスタートする予定だ。
6階にオープンしたCREATIVE MUSEUM TOKYOは、約1200㎡、天井高5mの広大なスペースで、ポップカルチャーやデザイン、現代アートなど多彩な領域の展示を行う施設。中山三善が館長を務め、年間で約4本の大型展覧会を開催する。ミュージアムショップとカフェが併設され、展示ごとにアイテムやメニューが変更される。
オープニングを飾るのは、人気アニメ『鬼滅の刃』として初めて、鬼殺隊最高位の剣士たちである「柱」にフォーカスする展覧会「アニメ『鬼滅の刃』柱展 ーそして無限城へー」。1000枚を超える原画で空間を埋め尽くした展示室や、9人の「柱」の言葉にフォーカスしたセクション、「柱稽古編」最終話で描かれた無限城への落下シーンをプロジェクションや床振動、風などを組み合わせて表現する展示など、7章に分けて9人の個性や魅力を伝える。
また1階には、THE CITY BAKERYとArtStickerが運営する「Gallery & Bakery Tokyo 8分」がオープン。建築家・元木大輔が率いるDDAAが設計を手がけた空間の中で、若手アーティストを中心に約1ヶ月ごとに展示を行う。
柿落とし展示として、12月3日まで友沢こたおの新作個展「Fragment」を開催。今後の展覧会として、山脇紘資「玄関 / space」(12月7日〜2025年1月14日)、牧田愛の個展(2025年1月18日〜2月11日)が予定されている。ちなみに「Tokyo 8分」という店名は、東京駅から徒歩8分の場所に位置することからつけられているという。
一般の来館者だけでなく、約4000人のオフィスワーカーが利用するというTODA BUILDING。記者発表会に登壇した戸田建設株式会社代表取締役社長の大谷清介は、「当社のブランドスローガンである“Build the Culture 人がつくる。人でつくる。”を体現する存在として、多様な価値を生み出し続けるだけでなく、これから京橋の街とともに新たな文化を創出していきたい」と意気込みを述べた。