米『TIME』誌が毎年発表している「世界で最も影響力のある100人(TIME100 MOST INFLUENTIAL PEPPLE)」。2023年の100人として、ヴォルフガング・ティルマンス、シモーヌ・リー、エル・アナツイが選出された。俳優やミュージシャンなどを対象とした「Artists」部門での選出で、3人のほかにマイケル・B・ジョーダン、ドリュー・バリモアらも選出。また、日本からの選出者としては「Innovators」部門で、世界的にヒットしたオープンワールドARPG『エルデンリング』のクリエイターである宮崎英高らが選ばれている。
同企画は、前年度の選出者による推薦で今年の100人を選ぶもの。ヴォルフガング・ティルマンスを推薦した劇作家のジェレミー・O・ハリスは「ティルマンスは、現実と想像の両方の歴史と時間軸の中に見る者を連れて行くユニークな能力を持っている。彼は私たちを彼の記憶の中に引き入れ、ひいては私たち自身の記憶にも近づけてくれる」と評する。
シモーヌ・リーの推薦者はテニス選手のヴィーナス・ウィリアムズ。ウィリアムズは「何世代にもわたって、黒人の身体はステレオタイプ化され、疎外され、商品化されてきました。しかし、シモーヌは彼女の彫刻でその物語を完全に覆し、黒人個人の経験を中心に据え、黒人の身体、特に女性の身体を、その美と強さと誇りで祝福しています。そうすることで、彼女は何世代もの黒人女性に力を与え、自分たちの経験をアメリカの歴史と文化の中心であると位置づけるよう促しているのです」と述べる。
エル・アナツイを推薦したのは、同じくアーティストで美術史家でもあるChika Okeke-Agulu。彼は「彫刻家として彼は、素材、媒体、プロセスを実験する比類ない能力を示している。エルは多様な素材を集め、断続的にそこに立ち戻っては、まったく新しい彫刻のかたちを発明するための正しい言語を見つけ出す。同じくらい重要なのは、エルの揺るぎない寛大な精神だ。彼はナイジェリア全土のコミュニティの個人、家族、施設などを支援してきた。まるでそれが人生の使命であるかのように。それこそが、私にとっての彼の偉大さの証だ」と評した。
シモーヌ・リーは2022年のヴェネチア・ビエンナーレでも話題になった近年のブラック・アートの動向を代表するアーティストの一人だ。その彼女を推薦したのがプロテニスプレーヤーのウィリアムズであるというのが興味深い。そこには、個人が個人としての意見を表明し、領域を超えて強く関わり合おうとするアメリカの原動的なパワーが垣間見えてくるようだ。来年はどんな100人が選ばれるだろうか?