「シアターコモンズ’25」メインヴィジュアル
演劇の「共有知」を活用し、社会の「共有地」を生み出すことを目指し、2017年からスタートしたプロジェクト「シアターコモンズ」。その9回目が、2月21日から3月2日まで都内各所で開催される。ディレクターを相馬千秋(アートプロデューサー/NPO法人芸術公社代表理事)が務める。
2025年のテーマは「ブレス・イン・ザ・ダーク/暗闇で呼吸する」。参加作家であるキュンチョメが提案した作品タイトル《ブレス・イン・ザ・ダーク―平和のための呼吸―》に由来し、混迷する時代において、より倫理的で前向きな態度を実践するための指針を詩的に示す。
参加作家にキュンチョメ 、市原佐都子/Q、佐藤朋子、ジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ(レバノン/フランス)、メイ・リウ(中国/オランダ)らが名を連ねる。演劇やパフォーマンス、観客参加型のプログラムから見どころを紹介したい。
レバノン出身で、パリを拠点に活動する映画監督・アーティストのジョアナ・ハジトゥーマ&カリル・ジョレイジュ。今回は昨年発表したレクチャーパフォーマンス《オルトシアのめくるめく物語》を上演する。本作品は、パレスチナ難民キャンプの下から出土した、伝説の古代ローマ都市オルトシアをめぐる物語である。考古学者との対話や歴史記録を舞台上に召喚し、暴力と破壊が続く中東の地層に、未来へのタイムカプセルを埋め込む。さらに、現在の中東情勢を踏まえてセレクトした映像作品3本を日本初公開する。
芸術を「新しい祈りのかたち」としてとらえ、詩的でユーモアあふれる作品を世界各地で制作するキュンチョメ。近年は海と呼吸に焦点を当て、2024年にみなとコモンズで「呼吸」をテーマとした連続ワークショップを開催。今回は、この取り組みをさらに発展させ、観客が暗闇のなかで自分の呼吸を探る体験型パフォーマンス《ブレス・イン・ザ・ダーク ―平和のための呼吸―》を発表する。キュンチョメが海で身につけた呼吸法やヨガの伝統的な呼吸法を取り入れ、身体の内側と外側がつながる瞬間を創造することで、新しい幸せのかたちを提案する。
中国出身で、オランダを拠点に活動するアーティスト、メイ・リウ。映画の拡張としてのパフォーマンスや映像インスタレーションを、独自の世界観とともに展開する気鋭の若手作家として注目を集めている。今回は、写真家・志賀理江子のメンターシップのもとレクチャーパフォーマンスを創作、その最新版を東京で初披露する。
2000年代以降、ポストドラマ演劇を牽引し、演劇界に革新をもたらした演出家・劇作家ルネ・ポレシュ。2021年にベルリン・フォルクスビューネの芸術監督に就任するも、2024年2月26日に急逝。彼が切り拓いた演劇と社会をめぐる問いを受け継ぐのは、気鋭の舞台作家、小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク。ポレシュが書き下ろした戯曲『あなたの瞳の奥を見抜きたい。人間社会にありがちな目くらましの関係』を用いたリーディングパフォーマンスを上演する。
社会における不可触なタブーや性をめぐる矛盾を、大胆不敵かつ繊細に問いつづける劇作家・演出家、市原佐都子。最新作《キティ》では家父長制や資本主義、大量生産・消費システムのひずみから生じる不条理や滑稽、そして欲望のグローバルな均一化を、痛烈なQ(クエスチョン)に昇華して突きつける。
都市の歴史や記憶のリサーチから出発し、自らの身体を媒介としたレクチャーパフォーマンスとして出力するアーティスト、佐藤朋子。2021年から制作・発表を続けているシリーズ「オバケ東京のためのインデックス」では、前衛芸術家の岡本太郎による「オバケ都市論」を起点に、都市の「オバケ」的な記憶を浮かび上がらせ、もうひとつの東京を構想するためのインデックスを作りためてきた。4作目となる今回は、台湾や韓国での長期レジデンスを経て、東京に残る植民地時代の東アジアの僅かな痕跡から東京をとらえ直す。
毎年恒例の「コモンズ・フォーラム」は、3つのテーマで開催される。「演劇とケア」では、演劇という経験が個々の心身のケアや居場所とどのように結びつくのかを、アーティストの実践を交えて考察する。「演劇と社会」では、演出家・劇作家ルネ・ポレシュの演劇理念を振り返り、社会と演劇の関係性について議論する。そして、「演劇と東アジア」では、シアターコモンズで新作を発表する3名のアーティストの声を聞きながら、東アジアの演劇制作の現状を確認する。参加作家に加え、専門家を招いて、演劇の多様な可能性について深く掘り下げていく。
「シアターコモンズ’25」の複数のプログラムを、効率的かつ集団で楽しむ2日間の集中ツアーが登場。作品鑑賞に加え、イントロトークとポストトーク、ナビゲーターや参加者同士での対話など、グループツアーならではの内容を楽しめる。各ツアーのナビゲーターには、清水知子(文化理論、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授)、平野暁人(翻訳家・通訳)を迎え、対話や交流を通じて参加者とともにシアターコモンズの体験を深めていく。
チケット情報と各プログラムの詳細は「シアターコモンズ'25」の公式サイトで確認してほしい。
シアターコモンズ’25
会期:2025年2月21日〜3月2日
会場:東京都内各所(スパイラルホール、みなとコモンズ、ゲーテ・インスティトゥート東京ほか)
主催:シアターコモンズ実行委員会
https://theatercommons.tokyo